ルイの神話的起源譚《満点の呪い》第11話「孤独の門」

「人間になる痛みの門を、ひとりでくぐる。」
怖いのに、逃げようとは思わなかった。 校門の前に立つと、胸の奥がじわりと熱くなった。 昨日までなら、足が勝手に反対方向へ走り出していたはずだ。 でも今日は違う。 震えているのに、前へ進もうとする自分がいた。
風が吹くたび、校舎の窓がかすかに鳴った。 その音が、まるで誰かの呼吸のように聞こえた。 あいつ──瑠衣が、ここで毎日吸っていた空気。 その重さが、初めてわかった気がした。
そして、そんな山田は今。『熱烈な歓迎』を受けようとしている。
来たぜ。ようし。
固唾をのんでバケツを構えるのは岩淵だ。中にはなみなみと、水が入っている。山田はそのやり口をよくわかっていたので、3歩後ろに下がった。放物線を描いた水が足元に落ちる。直撃は免れたが、膝から下はずぶ濡れだ。
「避けんじゃねえよ!!バカが!!!」その口調はもう、同列の人間とみなしている態度じゃなかった。山田の現在のクラスでの序列は、最下位に転落していた。
「てめえが避けたから、床が濡れちまっただろうが!!掃除しろよ!!」岩淵は周りの反応を楽しんでから、居丈高に山田に命令した。
「誰に物言ってんだよ、岩淵!」山田が逆らう。
「あ?てめえ、自分の立場が解ってねえな。前から気に入らなかったんだよ。くずのくせに偉そうにしやがって。なあ、みんな!!赤城君をいじめてたの、こいつだもんな!!なら、同じ目に合わせてやらないと赤城君が可哀そうだよな??」周りも同調した。
「そうだよ!!こいつ前から調子に乗ってた!!」
「そうそう、いい気味だよ!!」と、ここぞとばかりに、クラスメートはどす黒い正義面をした。
山田は、自分のした行いが全て、特大のブーメランとなって、自分に突き刺さる痛みをまともに受けた。
もはや、猫の食い荒らした、一匹丸ごとのカツオが、フレーク状になるがごとくに山田の自尊心は分解されて、晒し者になった。
お前の書いた絵は気持ち悪い。
お前の書いた文字は下手くそな暗号だ。
お前の答えに正解はあり得ない。
上手くいったのは全部カンニングだ。
お前は無能だ。お前は価値がない。
お前みたいなのが生きていていいはずがない。
これはみんな、俺が瑠衣にぶつけていた言葉や態度だった。
猛烈に痛い。心臓が口から出そうだ。
死にそうに恥ずかしい。生きていることが恥ずかしい。
こんなことを平気で出来た自分の感性がおぞましい。
だが、だからと言って、許してもらおうなんて思えない。もうあいつらの側には戻らない。腹を見せた負け犬になって、尻尾を振って、媚びに媚びた甘え声で無様な生き恥をさらしたまま、戻っていくつもりはねえ。
寂しいかもしれない。悲しいかもしれない。身を引きちぎられるような思いを抱くかもしれない。孤独の中食う飯は砂を噛むように味気ないかもしれない。
だが、俺は一人で自分がしたことの全ての業を背負う。
罪は一生消えない。恥は俺を閉じ込める牢獄でしかないだろう。
だが、惨めなままで、俺は一人で生きていくんだ。
だって俺はもう人間だからだ。
人間にしてもらえたんだ…!!
人間、山田、爆誕!!!シリーズ一気読みはこちらから。⇧
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