味園ユニバース
■映画「味園ユニバース」 錦糸町 TOHOシネマズ
【初出:2015年2月23日 旧ブログ(ココログ)より転載】
劇場で予告編を何度か見ていた本作。各方面で高く評価されている二階堂ふみ出演作ということもあって見てみた。
ストーリーはこんな感じ。
「大阪のとある広場、ライブ中のステージに一人の男(渋谷すばる)が乱入し、マイクを奪って歌いはじめる。その歌声は会場を圧倒するが、男は過去の記憶を失っていた。彼の才能に興味を抱いたバンドマネージャーのカスミ(二階堂ふみ)は『ポチ男』とあだ名をつけ、経営するスタジオに雇い入れる。やがてバンドのボーカルに迎えられたポチ男は、喪失した記憶をたどっていくが…。」(シネマトゥデイ)
ポチ男の過去はどうしようもないやつである。映画の冒頭で、ポチ男が刑務所から出てきたばかりのチンピラであることが明かされている。その後、ポチ男は男たちに襲われ、頭を金属バットで殴られて記憶を失う。しかし、後で思い返してみると、出所したポチ男はどうやら更生してやりなおす道を自分なりに探っていたようでもある。その象徴がほったらかしにしていた子どもの誕生日プレゼントにと買ったおもちゃのピストルではないだろうか。
一方のカスミは、死んだ父親が残した零細スタジオや認知症の祖父など、若い女性にとってはけっこう重そうなものを一人で支えて頑張っている気丈な女の子である。彼女が記憶を失って行くあてもなさそうなポチ男を引き取って面倒を見ることにしたのは、弱った小動物を思わず保護するような感情があったのかもしれないが(それは「ポチ男」という命名にも表れている)、同時に彼の「歌声」に最初から惹きつけられていたというのも間違いなくあるだろう。
この映画は当初、ジャニーズの中でも歌唱力に定評のある渋谷すばると大阪の個性派バンド「赤犬」の組み合わせで「音楽映画」をつくろうという企画からスタートしたようだ。しかし、ストーリーや設定を整えていく中で、「周囲が誰も認めてくれない中でも人は変われるのか」「たまたま知り合って才能にほれ込んだ人物が元犯罪者だったらどうすればいいのか」…といった切実なテーマの方が比重を増した仕上がりになっている。少しずつよみがえってくる記憶とともに、どうしようもない自分の過去に向き合わなければならないポチ男のやるせなさ、そしてカスミの無力感。特に記憶が一気に戻ってからの緊張感のある展開などには、思わず引き込まれた。
ただ、それらが最初から意図したのではない後づけのテーマだったせいか、しだいに脚本がその重みに耐えきれなくなっていく。最終的には「元犯罪者としてのポチ男の死、そして再生」というクライマックスを最後のライブシーンの祝祭感だけで強引に解決してしまっている(このライブの舞台がタイトルになっている「味園ユニバース」)。まあそれによって、重すぎない映画になったのかもしれないけど、ちょっと肩すかし感もあったかな…。少なくともチンピラ仲間の罠にかかったポチ男をカスミがどうやって救い出したのか。ここはご都合主義といわれても仕方ないかも。
主演の渋谷すばるは「誰もが魅了される歌をうたう」という設定が何の違和感もない素晴らしい歌を披露している。音楽映画としての本作を彼の歌がぐっと引き締めているのは間違いないだろう。注目した二階堂ふみもたっぷり見ることができてよかった。いわゆる大芝居はまったくしてないのについ見入ってしまう自然な演技だと思った。
結論としては、いい雰囲気で盛り上がったものの精神的エクスタシーには至らず…といったところかな。社会から排除されたポチ男、勝ち組とかとは縁のないところで精一杯生きているカスミ…その二人を結びつけたのが「音楽」だったという構図の良さがあっただけに、終盤の脚本が惜しかった。
ちなみに、本作で物語のカギともなっている曲が、「♪あの頃は~(ハッ)」という例の和田アキ子のナンバーである。この曲を知らない人はおそらく日本にいないだろう…というくらいの有名曲だけど、タイトルが『古い日記』だということはすっかり忘れていた。安井かずみ作詞・馬飼野康二作曲による1974年の楽曲。オリコン44位が最高らしいから大ヒットしたわけではないけど、後に物真似で有名になったのかな。
(大阪の下町っぽい空気感はよく出ていた)

