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【もし目が見えなくなっても】 『モナのまなざし』 : アートが教えてくれた「人生の不安を乗り越える方法」

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奈美 : 翔平くん、トマ・シュレセールの小説『モナのまなざし』って知ってる?人生を見つめ直すための美術鑑賞がテーマで、すっごく奥深い話なんだよ。

翔平 : へー、アート系か。どんな話なの?美術史の教科書を小説にした感じ?

奈美 : 全然違う!主人公は10歳の女の子、モナ。ある晩、宿題中に突然、目が見えなくなるの。病院の診察では、一過性脳虚血発作と診断され、運良く63分で視力は回復するんだけど、医師は原因を特定できず、再び失明するかもしれないという不安を抱えることになるのよ。
モナの母親は心配して児童精神科医に診せようとするんだけど、モナの祖父であるアンリはそれを拒否する。アンリは「アートは人生に奉仕するものである」という信念を持っていてね。そこで彼は、もしモナが永久に暗闇で過ごすことになったとしても、心の中に美しい視覚的記憶を持てるように、秘密の「治療」を始めるんだ。それが、美術館巡りよ。

翔平 : え、美術館巡りが治療なの?両親には内緒で?

奈美 : そう、毎週水曜日にモナを連れ出し、ルーヴル美術館とかに行って、たった一点ずつ作品を鑑賞させる儀式を行うんだ。アンリは美術書に囲まれて暮らす知識人だけど、美術史の知識だけでなく、作品に込められた人生の教訓をモナに伝えるんだ。

翔平 : なるほど。例えば、ルーヴルで最初は何を見たの?やっぱり有名なやつ?

奈美 : まずは、ボッティチェリのフレスコ画なんかを見るんだけど。それからレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》も見るよ。アンリはモナに、あの謎めいた微笑みについて、「不安をかき立てるような混乱した世界にあっても、人生に心を開き、笑顔でいよう」と訴えかけているんだ、って説明するの。

翔平 : アートを通して、現実世界で強く生きるためのメッセージを受け取るわけか。でも、10歳の女の子には難しすぎない?

奈美 : アンリも最初はその心配はしてたんだけど、モナは才気と好奇心があってね。しかも、このレッスンはアンリが一方的に教えるんじゃなくて、お互いをリスペクトする水平方向の対話が基本なんだ。例えば、モナが無邪気な視点でポロックの抽象画について意見を言って、アンリを唸らせる場面もあるくらい。

翔平 : へえ、モナちゃんの感性もすごいんだ。アートの知識と、子どもの自由な心で作品を見るってことだね。

奈美 : そう。この秘密のレッスンを通して、モナは次第に美術鑑賞の「見る喜び」を純粋に味わえるようになっていく。この物語は、モナが抱える大きな不安や、家族の隠された過去と向き合いながら、アートに支えられて成長していく前半の物語が特に引き込まれるんだよね。
さっきも言ったけど、モナの美術鑑賞の旅は、アンリおじいちゃんの深い知識とモナの純粋な感性がぶつかり合う、すごく刺激的なものなの。
たとえばルーヴルで、クールベの巨大な絵画《オルナンの埋葬》を見た時の話が印象的だわ。この絵は、「完璧な人生などないし、不完全だからこそ人生は味わい深くなる」というメッセージをモナに教えてくれるの。クールベは、アカデミーの因習に屈せず「胸を張って『まっすぐ歩く』こと」を訴え、写実主義(リアリズム)という、不快や矛盾も含む現実を表現する芸術運動を目指したんだって。

翔平 : クールベの絵から「不完全だからこそ良い」って教訓を引き出すんだ。へぇ、深いね。アートは人生に奉仕するってアンリが言ってたの、こういうことか。

奈美 : そうなの。あと、モナが親友の引っ越しで心を痛めた時には、アンリはフリーダ・カーロの自画像を見せながら、ニーチェの言葉「私を殺さないものは、私を強くする」を教えるんだ。モナは、どんなに辛い経験も、強くなるために必要な試練だと悟るのよ。

翔平 : 10歳の子がニーチェの言葉をアートを通して理解するなんて、すごい集中講義だね。

奈美 : そうね。アンリおじいちゃんは、モナが再び失明したとしても、心の中に美しい視覚的記憶を持てるように、美術作品に込められた人生の教訓を伝え続けるの。しかも、この秘密のレッスンでモナは美術鑑賞を純粋に楽しむようになり、世界の最も美しく、最も人間的なものが保存されている美術館が、彼女にとって薬よりも効く治療になったのよ。

翔平 : モナちゃん、この秘密のレッスンのおかげで、不安を乗り越えて、どんどん成長していくんだね。

奈美 : うん。ルーヴル美術館のレッスンが終わる頃には、モナは自分の言葉遣いにある秘密が隠されていることに気づくの。それは、小さい頃に亡くなった祖母の思い出と密接に関係しているんだって。そして、なぜ自分が美術鑑賞でアートの知識や鑑賞法を理解できるのか、その理由も明らかになっていく。

翔平 : え、おばあちゃんの秘密?ますます続きが気になる!後半の物語はどうなるの?

奈美 : 後半は、モナの美術鑑賞の旅がルーヴル美術館(第一部)、オルセー美術館(第二部)、そしてポンピドゥーセンター(第三部)、《アスパラガス》《オーヴェル=シュル=オワーズの教会》、そしてカンディンスキーの抽象画 やデュシャンのレディメイド といった現代アートまで広がるわ。全部で52の作品から人生を豊かに生きるためのレッスンを受けることになるのよ。

翔平 : すごいスケールだね。それぞれの美術館で、時代もジャンルも違うアートに触れるんだ。

奈美 : そう。オルセー美術館では、一見地味なハマスホイの室内画を見て、「内なる声に耳を傾けよう」ポロックの絵画を見て、「トランス状態になってみよう」と問いかけ、アンリを唸らせる場面もあるよ。モナの芸術に対する理解力と感性は、この旅を通してますます磨かれていくわ。

翔平 : アンリおじいちゃんが一方的に教えるだけじゃなくて、モナちゃんも先生の視点を広げちゃうんだね。

奈美 : そして、物語の核心に迫るのが、モナの失明の危機だよ。アンリおじいちゃんの「秘密の治療」が続く一方で、モナは児童精神科医の診察も受けていて、そこで催眠療法を受けるの。その催眠の中で、モナの祖母であるコレット・ヴェイユマンに関する真実が少しずつ明らかになる。モナが抱える不安、そして家族の隠された過去、特に祖父アンリと祖母コレットの「安楽死」をめぐる約束が、物語のクライマックスに向かって収束していくことになるわ。

翔平 : 安楽死の約束......。それは重い展開だね。アートの旅が、単なる教養じゃなくて、家族の過去と、モナちゃんの未来の不安と向き合う物語になっていくんだ。

奈美 : そう。最終的にモナは、視力を再び失うかもしれないという運命の試練を、自らの意志で受け入れる瞬間が訪れる。そして、アートを通して心の中に作り上げた「色の天国」が、彼女の人生をどのように支えるのかが描かれている。ネタバレは厳禁だから、この先は読んでみてね。人生の悲しみや喪失感を受け入れながら、アートがくれる視覚的な美しさと知恵で、失うことも人生の豊かさの一部だと理解するまでの、モナの成長の物語なのよ。

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