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「優雅に盗む」のが哲学 : 稀代の美術泥棒がスイス製ナイフ一本で築いた「屋根裏のコレクション」の結末とは?

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翔平 : 今日紹介したいのは、美術品の窃盗を繰り返した一人の男の物語、『美術泥棒』というノンフィクションだよ。

奈美 : 美術泥棒ですか。映画みたいで面白そうですね。

翔平 : これは実話なんだ。主人公はステファヌ・ブライトヴィーザー。彼はヨーロッパ各地の美術館から美術品を盗みまくり、その総額は実勢3000億円とも評価されたんだ。彼は稀代の窃盗狂なのか、それとも恐るべき審美家だったのか、というのがこの本のテーマだ。

奈美 : 3000億円...!想像もつかない金額ですね。そんな大金を盗んだら、さぞかし緻密な計画を立てて、特殊な道具を使ったんでしょう?

翔平 : それが驚くべきことに、彼は特殊な道具はほとんど使わなかった。頼りにしたのは、たった一本のスイス製アーミー・ナイフだよ。そして、彼は深夜に忍び込むような強盗を軽蔑していて、窃盗は常に白昼堂々、優雅に行われたんだ。

奈美 : 白昼堂々?お客さんがたくさんいる中でどうやって...?

翔平 : 彼には、警備の隙を見抜く「神技」があったんだ。例えば、1997年2月、ベルギーのアントワープにある「ルーベンス・ハウス」で象牙の彫刻『アダムとイヴ』を盗んだ時のこと。彼は警備員が昼休みで交代する隙と、観光客の動きを計算した。象牙の彫刻はアクリルケースに収められていたんだけど、彼は以前の偵察で、たった2本のネジを抜けば上部が外せることに気づいていたんだ。

奈美 : 2本のネジなら簡単そうに聞こえますが、それを衆人環視の中で?

翔平 : 展示室に彼と恋人のアンヌ=カトリーヌの二人だけになった瞬間、彼は立入禁止の紐を飛び越え、ポケットに忍ばせていたアーミーナイフのネジ回しで作業にとりかかった。警備員が巡回に来る気配をアンヌ=カトリーヌが咳で知らせる。その合図を聞くや否や、彼は瞬時に美術品鑑賞のポーズに戻る。この緊張の中で、一本目のネジを外すのに10分もかかっている。指紋を残すことなど気にせず、素早く音を立てずに作業を進めるんだ。

奈美 : すごい集中力ですね...でも、そんなギリギリの状況で盗みを成功させて、逃げおおせられるなんて。

翔平 : 成功の秘訣は、盗んだ後の振る舞いにもある。彫刻をコートのベルトに隠すと、彼は走らず、大股で、しかし急いでいるようには見えないように歩いて展示室を出る。派手な盗みは発覚を早めるからね。彼は警備員やレジ係に別れを告げ、恋人とキスまで交わして悠然と立ち去ることもあった。

奈美 : まさに大胆不敵ですね。そういえば、今の話にも出てきた恋人のアンヌ=カトリーヌさんは、どんな理由で彼に協力していたんですか?

翔平 : アンヌ=カトリーヌは看護助手として働いていて、元々は彼ほど裕福ではない慎ましい家庭の出身だった。彼女はブライトヴィーザーのギャングっぽいところに惹かれ、彼から「精一杯生きる」という冒険心を知った。最初の窃盗の際も、彼に「やっちゃえばいい」「盗んで」と促したのは彼女だった。

奈美 : 愛する人のために、刺激的な犯罪に手を染めてしまったんですね。彼女自身は、コレクションにどんな感情を抱いていたんでしょう?

翔平 : 彼女は彼の盗み方や行動を直感的に察知し、彼を制御する役割を果たしていた。彼女は盗品を「豪華絢爛ではあるけれどこのうえなく汚れている」と相反する見方をしていて、ブライトヴィーザーよりはるかに現実的で理性的だった。しかし、彼の非現実の世界へと連れていくための乗り物に乗り続けてしまったんだね。

奈美 : 切ないですね。彼は盗んだ美術品をどうしていたんですか?

翔平 : 彼は金銭的な利益を求めたことは一度もなく、盗んだ美術品を売ろうとしたこともない。彼の唯一の動機は「美しいものに囲まれていたいからだ、美しいものを貪りたいからだ」という美意識なんだ。

奈美 : じゃあ、その「美しいもの」はどこに?

翔平 : 盗品はすべて、東フランスにある彼の母親の家の屋根裏部屋に集められた。母親には、屋根裏にあるのはフリーマーケットで手に入れたものや模造品だと説明していたようだ。

奈美 : 屋根裏がギャラリーになっていたなんて!どんなコレクションだったんですか?

翔平 : コレクションは驚くべきものだよ。彼の部屋には、天蓋付きの四柱式ベッドがあり、その周りの壁、衣装箪笥、床まで作品で溢れかえっていた。象牙の彫刻(さっきの『アダムとイヴ』の他にも、ディアナ像など)、豪華な銀製品(ナポレオンが依頼した煙草容れ、オウム貝の杯など)、中世の武器、そしてルネサンスからバロック時代の油絵が所狭しと飾られていた。

奈美 : すごい。まるでプライベート美術館ですね。

翔平 : そう。16世紀や17世紀のブリューゲルといった巨匠の傑作まで含まれており、部屋は色と輝きの渦巻きだった。彼はこの屋根裏部屋を「宝箱のなか」だと表現していた。

奈美 : しかし、これだけの盗難事件が何年も続いたのに、どうして警察は長い間彼を捕まえられなかったんでしょうか?

翔平 : 警察は、美術品泥棒はたいてい「金目当て」だと考えていた。ブライトヴィーザーは売買を試みず、盗品を秘匿していたため、通常の捜査の範疇から完全に外れていたんだ。彼が残した手がかりといえば、現場に残された中身のない額縁だけだったりしてね。

奈美 : なるほど、動機が警察の常識からかけ離れていたからか。

翔平 : それに加えて、彼は美術館の警備員をしていた経験から、警備システムの欠点や、警備員の行動パターン、そしてカメラの盲点を熟知していた。また、優雅な服装のお洒落なカップルに見えたため、目撃者も彼らを怪しまなかった。ある裁判では、自分が盗んだ17世紀の剣の制作年代について、学芸員の見立てを訂正したこともあり、その審美眼と知識も並外れていたんだ。

奈美 : 知性、大胆さ、そして審美眼...本当に稀代の泥棒ですね。結局、彼はどうして捕まってしまったんですか?

翔平 : 2001年、彼はスイスのルツェルンにあるリヒャルト・ワーグナー記念館で、400年前の軍隊ラッパをトレンチコートの下に隠し持っているところを逮捕された。これがルツェルンでの2度目の逮捕だった。

奈美 : ああ、ついに...。長年の盗みも、これで終わりですね。あの素晴らしいコレクションはどうなってしまったんですか?

翔平 : 彼が逮捕された後、コレクションを巡って想像を絶する、そして悲劇的な結末が待っていたんだ。ブライトヴィーザーの逮捕を知った彼の母親が、息子を助けるため、そして息子に罰を与えるために、ある行動に出たんだ。彼女は屋根裏部屋の盗品を「息子にとって最も耐えがたい苦しみを与えることが最悪の罰」だと考えたんだ。

奈美 : 彼のコレクションが...罰に?どういうことですか?

翔平 : その後のコレクションの行方は、ブライトヴィーザー本人すらも完全に把握できないまま、彼の人生から消え去ってしまう。後に警察は彼の母親を取り調べることになるんだけど、彼女の供述は一貫せず、「苛まれている」と語りながら、盗品の破壊を認めるような発言もしている。この驚くべき顛末は、この物語の核心の一つなんだ。

奈美 : 彼の全てだった宝物が、そんな結末を迎えるなんて...。彼の審美的な執着や、愛する人たちとの関係、そしてコレクションの行方。知りたくなります。

翔平 : この本は、彼の天才的な窃盗のテクニックだけでなく、彼の孤独、愛情、そして強迫観念に迫ろうとする心理的な側面も深く掘り下げている。彼を突き動かした真の動機とは何だったのか、そして人間関係や社会のルールから逃れて築いた彼の「完璧な均衡」が、いかに脆かったのかが描かれているよ。

奈美 : 盗みが依存症や強迫観念とも繋がっているなんて、ただの犯罪ノンフィクションではなさそうですね。ぜひ読んで、彼の生涯とコレクションの全貌を知りたいです!

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