ルールは死んだ….世界は「捕食者(プレデター)」の時代へ回帰する: AI帝国とテクノ封建制がもたらす『リベラリズムの捕食者』の衝撃
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翔平 : 最近ジュリアーノ・ダ・エンポリの『リベラリズムの捕食者』という本を読んだんだけど、これがいまの世界情勢を読み解く上で、驚くほど鋭い視点を提供しているんだ。マキャヴェリの『君主論』を現代版にアップデートしたような内容で、僕たちが平和でルールに基づいた秩序だと思っていたものが、実は歴史上の例外に過ぎないという衝撃的な指摘から始まるんだよ。
奈美 : それは興味深いわね。冷戦後の国際秩序が揺らいでいるのは感じていたけれど、それを「君主論」の文脈で捉え直すというのは、政治思想的にも非常に刺激的なアプローチだわ。具体的に彼は今の世界をどう定義しているの?
翔平 : 彼は、僕たちがいま「捕食者(プレデター)」の時代に突入したと断言しているんだ。第二次世界大戦後に築かれたルールに基づく秩序は崩壊し、外交や法的な枠組みではなく、「火と剣(武力や強権)」によって紛争が解決される時代へ回帰しているというんだよ。かつてのイタリア半島が複数の都市国家によるカオス状態だったように、現代もまた、防衛よりも攻撃が容易で安価になったことで、力が支配する野蛮な状態に戻っているというわけだ。
奈美 : 「火と剣」への回帰……。リベラルな法秩序が例外的な休戦に過ぎなかったという見方は、リアリズムの極致ね。そのカオスの中で、誰がその新しい君主として振る舞っているのかしら?
翔平 : 興味深いことに、エンポリは現代の権力者を二つのタイプに分けているんだ。一つはトランプやサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン(MBS)のような「政治的な捕食者」。もう一つは、イーロン・マスクやサム・アルトマンのような「テクノロジーの征服者」だ。彼らは互いに利用し合いながら、民主主義の規範を解体し、自分たちが国家に代わる「準国家」や「新しい帝国」として機能しようとしているんだよ。
奈美 : 政治家とテックジャイアントが手を組んで、既存の国家システムを空洞化させているということね。でも、かつての絶対君主と違って、彼らはどうやってその正当性や支配力を維持しているの?
翔平 : そこには驚愕とカオスを武器にする戦略があるんだ。例えばトランプのような指導者は、あえて予測不能な行動をとることで、ルールに縛られた敵を麻痺させ、大衆の関心を引く。また、MBSがリッツ・カールトン・ホテルに有力者たちを監禁して粛清した事件は、マキャヴェリが記録したチェーザレ・ボルジアによる「セニガッリアの虐殺」の現代版だとエンポリは書いている。相手を抱擁しながら服従させるという、キツネとライオンの戦術を使い分けているんだよ。
奈美 : まさにマキャヴェリズムそのものね。でも、テクノロジーの側はどうかしら? 彼らも単なるビジネス以上の支配を目論んでいるの?
翔平 : エンポリは、現代の政治指導者が巨大テック企業に対して、かつてアステカ帝国のモクテスマ二世がスペインの征服者に直面した時のように、決断を先延ばしにして最終的に服従してしまった姿に重ね合わせているんだ。このテクノロジーによる支配は「テクノ封建制」と呼ばれ、アルゴリズムという「城」が人々の生活を支配する。フランスのリュザンという町が、GPSアプリのアルゴリズムによって住宅街に車両が殺到し、町長が交渉しようとしても相手が人間ではなくアルゴリズムであるために手出しができなかったというエピソードは、その象徴的な恐怖を物語っているよ。
奈美 : アルゴリズムという「城」……。そこには人間的な交渉の余地がないのね。
翔平 : 彼は、その支配の根幹にあるAIを「AI権威主義」と呼んでいる。AIはブラックボックスであり、大量のデータを権力に変える権威的な知性形態なんだ。興味深いことに、晩年のヘンリー・キッシンジャーはこのAIの真理に気づき、深く懸念していたという。AIが人間の説明能力を凌駕し、人間が世界を理解できなくなった時、知識が信仰に置き換えられる必要があるというんだ。これはもはや新興宗教のような狂熱を伴う統治だよ。
奈美 : 知性を超えた対象への信仰による統治……。それはもはや近代の啓蒙思想とは真逆の、中世的な暗黒時代の再来のようにも聞こえるわ。リベラル民主主義は、なぜこれほどまでに無力になってしまったのかしら?
翔平 : エンポリはリベラル勢力、特にアメリカの民主党を「弁護士の党」と呼んで批判している。彼らが形式的なルールや少数派の権利擁護に固執しすぎるあまり、多数派が直面している経済的不平等や不安を無視したことが、ポピュリズムの台頭を許す空白を生んでしまったんだ。手続きの正しさを説く弁護士に対し、捕食者たちは中身を重視すると称して、力による解決を提示するわけだ。
奈美 : 形式に拘泥して実態を見失ったリベラリズムの自滅ね。それに対抗する手段は残されていないの?
翔平 : エンポリは、ヨーロッパが培ってきた文化や哲学こそが、この巨大テック企業の横暴に対する唯一の対抗モデルになり得ると主張している。トランプ周辺がヨーロッパを嫌悪するのは、そこに従順ではない知的な抵抗の芽があるからだというんだ。
奈美 : うーん、私たちは再び、強者が弱者を食らう野性の状態に戻ってしまったということなのね….。
翔平 : 結局のところ、第二次世界大戦後の平和な秩序は歴史の例外に過ぎず、いまは「捕食者(プレデター)」の時代の到来を認めざるを得ない。政治的な捕食者とテクノロジーの征服者が結託し、AIというブラックボックスによる権威主義と、攻撃が防衛を圧倒するテクノ封建制の力学が世界を再編している。リベラリズムがその形骸化によって自壊し、ポピュリズムという形でその反動が噴出している今、僕たちはこの過酷な新しい帝国の掟に向き合わなければならないんだよ。
