(書評)第26回「手のひらの京」(綿矢りさ 著)☆綿矢版「細雪」。京都に生まれ育った三姉妹の物語☆
京都出身・在住の著者の「京都愛」が凝縮された小説です。京都に生まれ育った奥沢家の三姉妹の物語です。長女の婚活、次女の恋愛、三女の決断と旅立ち、と三者三様の生きざまが、京都の風景と伝統を背景に描き出されます。「こういう小説をずっと書きたかった」。著者がはじめて故郷・古都を舞台に描いた、愛おしく優しい物語です。春の柔らかな空、祇園祭の蒸し暑い宵、大文字焼き、町を囲む紅葉した山々、夜の嵐山に降る雪・・・美しい京都の四季が丹念に描かれています。物語は三姉妹のエピソードが交互に混ざり合いながら進んでいきます。

京都に生まれ育った奥沢家の美人三姉妹。長女の綾香は図書館勤務で三十一歳。のんびり屋だが結婚や出産に焦りを感じはじめる年頃です。負けず嫌いの次女、羽依(うい)は、入社したばかりの会社でさっそく社内恋愛に勤しみますが、女性社員からの「いけず(京都風のいじめの一種)」に悩まされます。理系の大学院に通うボーイッシュの三女の凛(りん)は、この町を愛しながらも息苦しさを感じ、家族には内緒で新天地(東京)を夢見ています。
次女の羽依は「須田電子」という大企業の新入社員です。「モテ」に自信があり。上司の前原と社内恋愛をはじめますが、すぐに振られてしまいます。ある日、会社のメンバーと近江舞子(滋賀県・琵琶湖のほとり)でバーベキューをします。梅川が自分の車を出し運転します。前原は、理想の上司像を演出するのが上手い男です。羽依は、会社も大学のサークルと人間関係の構造が変わらないことを実感します。仕事関係の集まりは、遊びの行事での自分の動き方が日ごろの会社での評価に関わってくることを悟った羽依は、自分の「ポジション取り」にあくせくします。

いっぽう、長女の綾香は図書館に勤める三十一歳。最近結婚や出産に焦りを感じはじめています。他人の可愛い子供を見るたびに、自分はいつ産めるのかと心配しています。職場にも出会いはありません。妊娠出産に関する本は借りれるだけ借りて、むさぼるように読みました。綾香は彼氏はいらないけど、子供は欲しいのでした。ある仕事帰りの日、綾香は一人で祇園祭の宵山を見に行きます。そこで中学時代の友達の苗場ちゃんと樋口君と再会します。綾香は晩御飯を誘われます。途中、屋台で鮎の塩焼きを食べます。3人は山鉾巡行を見に行きます。お店で「おばんざい」を次々に食べる3人。帰りに3人は、鴨川を散策するのでした。
凜は、広島出身の未来(みき)と友達になります。未来は生まれた時から京都に住んでいる凜よりも、京都の寺社や伝統行事や美味しい店に詳しいのでした。凜は未来と一緒に、京都府立植物園のバラ園と鞍馬山のふもとの貴船神社に行きます。凜は未来に、京都は好きだけど一度盆地から抜け出したいと言います。凜は担当教授から、東京にある大手の菓子メーカーの研究職に推薦されます。凜は未来を大文字焼き(五山の送り火)を見ようと、自分の家に誘います。スイカを食べながら凜の家の2階から大文字焼きを眺める未来と凜の家族たち。凜と未来は、もっと近くで見るために外へ出て、大文字焼きのそばに行くのでした。

羽依は会社で女子社員から”京都の伝統芸能”の「聞えよがしのいけず」の標的になっていました。上司の前原と以前つきあっていたことも原因のひとつでしたが、きっかけは、先輩社員に誕生日プレゼントをあげなかったことでした。羽依は「しってくさい(しらじらしい)」ことが嫌いでした。ある日業務が終了したあとで羽依が更衣室で着替えていると、先輩社員の「いけず攻撃」が始まりました。羽依は”鬼の形相”でブチ切れ逆襲します。その後上司から、鴨川べりの串カツ屋に誘われます。京都の四季は、夏は6~9月、秋は10月だけ、11月~3月までは冬で、4月~5月が春なのでした。梅川が羽依に接近してきます。夜中に家に帰ると綾香が待っていました。飲み会で綾香のことが話題になり、羽依と同じ会社の宮尾という男が綾香に興味を示したと言う羽依に対して、綾香は会ってみると言います。宮尾は39歳で独身、180センチの長身で営業部課長代理をしていて有能でした。綾香は見合い結婚がしたかったのでした。着物の着付けが趣味の綾香は、宮尾との初デートの日、どの着物を着ていこうか迷っていましたが、結局地味なワンピースにするのでした。綾香は宮尾と実際にデートしてみて、手ごたえを感じて安心しました。

ある日、凜が両親に進路先を東京だとを告げると、猛反発が返ってきました。奥沢家は元来保守的な家風なのでした。凜が東京に就職するなら一家で東京に引っ越す、と母に言われて慌てます。父からも婉曲に反対されます。凜は綾香と羽依に相談します。そして凜は京都からの旅立ちを決意します。
羽依は、梅川との交際が順調に進んでいました。梅川は見た目はいまいちでしたが誠実そうでした。前原からは、プライベートな時間に電話がかかってくることが増えてきました。うざく思いながらも、梅川や宮尾のことを考えると、前原に強く出れない羽依でした。ついに、前原は羽依を待ち伏せするようになります。家に来いという言葉にしかたなく、前原の自宅を訪れる羽依でしたが、羽依は前原にはっきり絶縁を宣言します。すると前原は羽依の携帯を取り上げるのでした。監禁されると焦った羽依は、前原がトイレに行ったすきに、家を飛び出します。結局8時間も拘束されていたのでした。前原との事情を梅川に話した羽依は、梅川に怒られます。クリスマスイブの日、梅川と歩いていると、車で前原が待ち伏せしていました。羽依は完全にキレます。前原は捨て台詞を残して去っていきましたが、梅川は完全に落ち込んでいました。梅川が予約してくれていたホテルの部屋でセックスする2人でしたが、羽依は恋の終わりを予感しました。

綾香は、元旦のおせちに宮尾を誘っても良いかと両親に話します。両親は歓迎してくれました。奥沢家は全員そろって静かに年の瀬を迎えます。元旦の日、着物の着付けを済ませて、綾香はバスで八坂神社へ、羽依は電車で伏見稲荷へ向かいます。お昼に家族そろっておせちを食べます。母も着物に着替えて、食卓は晴れがましい雰囲気になりました。宮尾も参加して自然に溶け込んでいました。その夜、綾香と宮尾は、夜の嵐山へ出かけます。夜の渡月橋と桂川は静謐としていました。宮尾からプロポーズされ、2人は唇を交わすのでした。
東京に就職した凜は、新人研修で忙しい日々を送っていました。5月のある日曜日、凜はひとり暮らしの部屋から東京駅にやってきます。皇居外苑を散歩するためでした。凜は芝生にビニールシートを敷き、持参したお弁当を食べます。羽依からメールが来て、梅川との付き合いが半年しか続かなかったことを知ります。いっぽう綾香からは、宮尾との結婚の準備が着々と進んでいると伝えてきます。しかし父から電話があって、自分が前立腺がんだと言います。
3姉妹それぞれの視点が楽しめるのがお得感がありました。会話も京都弁で、京都の文化や風俗、会社内の人間関係の複雑さやわずらわしさ、男女の機微なども詳しく描かれていて、興味深いです。爽やかな気持ちになれます。実際に京都の街に住んでいるような錯覚を覚えました☆


