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(書評)第160回「グレタ・ニンプ」(綿矢りさ 著)☆綿矢作品史上最もぶっ飛んだ「妊娠コメディ」小説!☆

2026年発刊。単行本300ページ。8章立てです。著者の最新作品で、著者が初めて挑んだ「妊娠コメディ小説」です。4年にわたる不妊治療の末に妊娠した妻が、妊娠をきっかけに、性格も外見も口調も激変してしまいます。それに戸惑いながらも妻を支える夫の視点から、妊活から妊娠を経て出産にいたる過程と、出産後の育児の1年間をコミカルに描いています。SNSや各紙で絶賛されました。著者のデビュー25周年記念作品でもあります。

主人公の呉田俊貴(としたか)は30代後半の男性。おとなしい性格で、大手企業の本社で働くエリート会社員です。観葉植物のテラリウム栽培やオートバイ(カブ)が趣味です。妻の由依は30代前半。笑顔が可愛い控えめな性格です。2人は東京の武蔵小杉のマンションに住んでいます。4年にもわたる不妊治療を断念して一息つきます。ある晩、俊貴が帰宅すると、どうも妻の由依の様子がおかしいのでした。由依はまるでヤンキースタイルで、陽性の妊娠検査キットを頭に巻いてハイテンションで騒いでいました。由依はファンキーなファッションに、元プロバスケットボール選手のデニス・ロッドマンのような紫の坊主頭で、口調も孫悟空のようになっていました。ヤンキー&極道&ギャル風のブレンド語で「ワタイ」という一人称を使っています。まるで『八つ墓村』に出てきそうな姿です。由依は長い不妊治療が終わった後になって、自然妊娠したのでした。その喜び(反動?)のせいか、奇抜な姿に豹変してしまったのでした。「ヨウセイダーーーーッ!」と由依は叫んでいます。由依は「オメは力入りすぎ!ガキができたぐらいでよう、んな慌てんなって!もっと気楽にいこうぜ!テイキッイージー。テイキッイージー!」と叫んでいます。

古き良き時代の女の鏡のようだった妻が、妊娠が発覚したとたんに、なぜか人格も外見も、ヤンキーみたいになってしまいます。俊貴は由依の豹変に戸惑いつつも、なんとか由依を支えて行こうと努力します。仕事と妻がやらなくなった家事に追われて、肉体的にも精神的にも参っていきます。そしてついに職場で倒れてしまいます。由依は「すちぃむアイロン(主宰者はショーン・コネリ。子育て支援団体)」という名の胡散臭いサークルに加入して、政治活動家みたいなことを始めます。由依はそこの一員として、講演会でスピーチをしたり過激に動き回ります。ある日由依は、団体のデモに参加して倒れます。俊貴は迎えの電車の中で「クソッ、軽率だぞ由依」と呟きます。

由依は、すちぃむアイロンで紹介された「あつ子産婦人科」という自然分娩を標ぼうしている医院に通院します。由依は俊貴の母親の電話には、元の普通のしゃべり方をするのでした。由依は「またオメェの実家に行こーな!」と言います。俊貴の前では、ヤンキーキャラに戻るのでした。不妊治療には、今までに200万円かかっていました。由依は妊娠前からツイートしていて、体外受精の4回目が失敗した直後のツイートで「妊娠したら、羽化したい」と呟いていました。親友のふじりんご(藤井)からも「珍ファッション」と言われてしまいます。ふじりんごは「今回由依さんが妊娠して、私ほんっとーにハッピーで、絶対に応援するって決めてました!」と言われます。

2人は住んでる区で開催された「両親学校」に参加するために、区役所に出向きます。由依は壇上でスピーチしている偉そうな職員に向かって「いくら金なくても、国のために子どもなんか産むか、ボッケエエエエエ!」「少子化って一体だれの責任よ?少なくとも今の私らの責任じゃないだろ、ボケエェ!」と叫びます。俊貴は恥ずかしさで怒り心頭になります。しかし由依は「わきまえません、それがthis is me」と答えます。

3月1日、異動の内示の日、俊貴は女上司の宇田川部長から「春から呉田くんには、水戸オフィスに異動してもらいます」と言われてしまいます。俊貴は「田舎でゆっくり子育てすればいいよ」と言われて、激務の東京本社からヤンキーの聖地である茨城への転勤を命じられます。当然出世コースからは外れてしまいます。突然の左遷にショックを受けた俊貴は、自分の転落の人生を呪いますが、よく考えると由依は、不妊治療のため、猛勉強の末に入った会社を辞めていて、自分よりもずっと前から、いろいろなことを諦めていたのでした。俊貴は「こんな変なお母さんじゃ、生まれてくる子がかわいそうだ!」と吐き捨てるように言います。

俊貴は姉夫婦に手伝ってもらい、引っ越しの作業に追われます。水戸駅に近い場所に、3年契約で一軒家を借りたのでした。水戸にいる俊貴に由依から連絡が来て、陣痛が始まったことを知らせてきます。俊貴は急いで電車で「あつ子産婦人科」に向かいます。俊貴が産院に到着した時に、今にも生れそうな雰囲気でしたが、お産は12時を越えるとのことでした。由依は破水します。由依は痛みに耐えかねて、和痛分娩に切り替えてもらいます。俊貴は出産現場の血の臭いと様子を見て吐きそうになります。俊貴は「君は出産で生死を賭けているのに、僕は受精のときに精子をかけただけで、ごめんね」とおやじギャグを言いそうになります。やがて由依の股の間から、頭が出てきて、無事に男の子が生まれます。由依は「葦太郎」と名前をつけると言い出しますが、ジョークだと笑います。2人が真剣に話し合った結果、名前は「琉仁(りひと)」に決まります。

それから1年間、俊貴は育休を取って、2人で琉仁の育児をします。物語は、3人で大洗海岸に潮干狩りに出かけた様子で終幕します。

綿矢りさ

文中、由依や俊貴のおかしな話し方を、文字のデザインや大きさを変えて、漫画の吹き出しのように表現しています。それがあるおかげで、物語に独特のメリハリとテンポが生まれて、いっそう読みやすくなっています。

この小説は、あくまでも俊貴が主人公で、俊貴からの視点で貫かれています。俊貴は由依がひとりで奮闘してきたことを知って、その大変さに思いを馳せます。子育てのことを甘くみていたことや、社会は妊娠や出産、育児に理解のない人たちばかりだということ、出産中の妻に夫の自分が出来ることがないこと、などを実感します。男性の生きづらさも見えてくる作品となっています。

俊貴も徐々に親としての自覚を持ち、妻の妊娠と豹変によって「ままならないもの(自然物)」と付き合っていく術を身に着けて、由依が自分らしく生きていくことを理解出来るようになります。

今までは、妊娠が「女性の問題」とされていたことを「夫婦の問題」として、ちゃんと描いている物語だと感じました。

発売前からSNSでは、予測できない内容をめぐって大盛りで(女性セブンに1年にわたって連載されていた)、発売後には、ぶっ飛んだ内容と面白さと、由依が発する言葉に共感の声が溢れたそうです。

確かに、声に出して読みたいパンチライン(決め台詞)が盛りだくさんで、読むと元気が湧いてきました。デビュー25周年を飾るに相応しい、新しいチャレンジに満ちた、会心作となっています☆


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