(書評)第140回「ダイヤモンドダスト」(南木佳士 著)☆芥川賞の受賞作。現役の医師が描く、生と死の物語☆
第100回芥川賞の受賞作です。著者は長野県佐久市の病院に勤める医師です。自分のうつ病の体験から、生と死をテーマにした小説を多く書いています。著者はこれまで、医師の立場から、死んでゆく末期癌の患者の日常を緻密に描くことで、人間の生と死の意味を問いつづけてきましたが、本作では、医師をベテラン看護士に変えて視野をひろげ、変貌する別荘地の病院を中心に、そこの自然と住人たちの生活を、リズミカルでしっとりと落ち着いた文章で、厚み豊かに描き出すことに成功しています。

爽やかに風が吹く高原町の病院。そこで看護士の和夫は、様々な過去を背負う人々の死に立ち会ってゆきます。物語は、妻に先立たれた看護士の和夫と、ボケ始めた父親の松吉と、幼なじみで父に代わり生活を支えてくれる同級生の悦子、末期がん患者の宣教師マイク・チャンドラーなどが織りなす日常が描かれている作品です。
登場人物のうちでも、以前は火山の裾をめぐる「世界一遅い」軽便鉄道の運転手だった主人公の父親と、かつてはベトナムで「世界一速い」ファントム戦闘機に乗っていたが、今は重い肺癌で入院している米人宣教師が、とてもよく描けていると思いました。
文庫版の巻末に、作家で精神科医の加賀乙彦氏と著者の対談が載っていますが、加賀氏に主人公を医者ではなく看護士にした理由を聞かれて「医者が主人公だと、どうしても患者を上から見るような感じになるので、できるだけ視点を下げたかった」というようなことを言っていました。

全体に外連味(けれんみ)のない淡々とした話で、好感が持てます。マイク・チャンドラーが松吉に「人の作る機械は、その速度が速くなればなるほど、大きな罪を造るようです。乗るなら罪の少ない乗り物に越したことはないのです」という行(くだり)は、なかなかいい台詞でした。
物語の最後、主人公が認知症の父のために水車を完成させる場面は、強く印象に残りました☆

