(書評)第112回「ひらいて」(綿矢りさ 著)☆女子高校生の複雑でいびつな三角関係を描く恋愛小説☆
想いを寄せる男子高校生が、別の女子高校生と恋愛関係にあると知った女子高校生の、奇妙な三角関係を描きます。のちに映画化されました。

高校3年生の木村愛は、華やかでモテる女子高生です。成績優秀で進学も推薦入試での合格が約束されていて、何不自由ない学園生活を送っていました。愛は同じクラスの「西村たとえ」という変わった名前の男子高校生を好きになります。たとえは地味で目立ちませんが、成績優秀で、独特の雰囲気をまとっていました。愛は数学の問題をわからないふりして質問したり、なんとか彼に近づき、気持ちを知ってほしいと思っていました。ある日愛は、たとえが誰かからの手紙を大切そうに持っているのを見て、不審に思います。
塾の帰り、多田から同級生たちが夜の学校に忍び込んでいるらしいと聞いた愛は「私も行きたい」と言い、他の数人の生徒と共に学校へと自転車を走らせます。愛は教室の後ろにあるたとえの机から手紙を取り出します。たとえに手紙を送ったのは、糖尿病を患う同級生の新藤美雪だということがわかります。美雪はたとえの「秘密の恋人」だったのです。2人は普段そんな素振りを全く見せず、愛は地味な2人の交際に衝撃を受けます。
愛は美雪に近づき、2人で映画を見たり、カラオケに行ったりします。「付き合っている人はいるの?」という愛の問いに、美雪は恥ずかしそうにたとえと付き合っていることを告白します。中学のときからの付き合いらしいのですが、学校では話をしないと決めていると言います。キスもまだしていないという美雪の言葉に驚いた愛の中で何かがはじけて、愛は「この前のがファーストキッスだったの?」と美雪に尋ねました。以前、文化祭で発表するダンスの練習中に、その場を離れた美雪を追いかけた愛は、校舎の裏で美雪が倒れているのを見つけて、口移しでジュースを飲ませて救けたことがあるのです。愛は「ちゃんとやり直そうか」と強引に美雪にキスしました。
文化祭でクラスの代表に立候補した愛の指揮のもと、クラスの展示制作が行われていました。たとえと教室で二人きりになった愛は、たとえと美雪がつきあっているのを知っていると明かし、たとえに「好き」と告白しました。しかしたとえは、愛にきつい言葉を投げかけてきました。その言葉が愛の胸に突き刺さりました。愛はたとえに「勇気を出して告白しているのにひどいじゃない」と教室を飛び出しました。
ある日美雪の家にやってきた愛は、美雪から、自分は長い間友達がいなかったので、この前は楽しかった、また愛ちゃんと友達に戻れないかなと語りかけられます。「忘れてまた友達でいよう」という彼女の言葉に、愛は激しい怒りを感じます。愛は「ずっと好きだった」というと、美雪に激しいキスをしました。美雪は戸惑っていましたが、愛を受け入れたように見えました。愛は美雪を押し倒し、制服のボタンをはずし、愛撫しはじめました。その時、母親が帰ってきて、美雪はあわてて制服を直すと部屋を出ていき、お茶とお菓子を持って戻ってきました。「すごいね。あんなことしたあとでするっと娘に戻れるだなんて」と愛が皮肉交じりに言うと、美雪は「お母さんが大好きだから」と答えました。
ある日愛は、家の前で美雪を待っていました。帰ってきた美雪が鍵をあけて、二人が中に入った途端、愛は美雪にキスし始め、それは次第に激しくなっていきました。ふたりはベッドで抱き合い結ばれました。眠っている美雪に呼びかける愛。返答がないのを確かめると、美雪のバッグから彼女のスマホを取り出し、たとえにラインを送りました。夜の教室。愛が座っていると、たとえが現れました。「人と会う約束をしている」と言うたとえ。「来ないよ。送ったのは私だから」と愛は答えました。「美雪とやったの。2回も。すごい喜んでたよ。それも嘘だというの?」たとえは真っ直ぐ愛を見て「事実だと思うよ」と冷静に答えました。愛は制服を脱ぎ、下着姿になりました。「私のものになって!」。「服着て!」とたとえは2度大きな声でいい、愛は制服を身に着けざるをえませんでした。「おれはお前のようなやつが嫌いだ。なんでも奪い取れると思っている」とたとえは言います。愛はたとえに「どうしたらお前のものになる?」と尋ねられ「抱きしめてキスして」と言うと、たとえは愛を抱きしめキスしました。「嬉しい?」とたとえは尋ね「嬉しい」と答える愛。するとたとえは「嬉しいなら態度で見せろよ。貧しい笑顔だな」と愛を罵倒しました。
ある日「たとえ君のことで話がある」と美雪に言われ、愛は美雪と会っていました。たとえが東京の大学の入学試験に合格し、自分もついて行くつもりだと報告する美雪。「ついていって何するの? たとえ君に他に好きな人ができたらどうするの?」と愛は尋ねました。「自分は働くよ。彼女が出来たらそれはそれでいいの」と穏やかに答える美雪を見て、愛はたとえが好きで美雪に近づいたことを告白し「ひどいことしてごめん。東京に行ったら友達できると思う。体のこと大変だと思うけど、元気で過ごしてね」と声をかけました。美雪は真っ直ぐ愛の瞳を見て「愛ちゃん怖い」と呟きました。「今、言ったこと嘘でしょう? 少しも反省してないでしょ。目が暗いままだから」そう言うと美雪は立ち去り、愛はその場に立ち尽くしました。
優等生だった愛は、突然、教室を飛び出したり、テストを白紙で出すなど問題行動が目立ち始め、学校でも噂になっていました。ある日、愛が帰宅していると、前方にあわてたように横切っていく美雪の姿が見えました。愛が追いかけると、美雪はバス停の前でバスを待っていました。たとえの家でトラブルがあったらしく美雪はたとえの家に向おうとしていました。「私も行く」と愛もバスに乗り込みました。「愛ちゃんついてきてどうするの?」と美雪に問われても黙っている愛。地図を見ながらやっとたとえの家に二人はたどり着きました。たとえの父親の怒声が響いていました。美雪は何度もチャイムを鳴らし、ようやく父親が出てきました。たとえの友だちか?家にあがりなさいと言われ、2人は家の中に通されました。「どうかたとえ君を東京に行かせてあげてください」と頼む美雪。しかし父親はたとえを罵りました。「ちょっと、あんた」と父親に声をかけた愛は、振り返った父親の頬をげんこつで殴りつけました。
卒業式の連絡事項が伝えられている教室で、愛は机の中に入っていた手紙を読んでいました。それは美雪からでした。手紙には、「打算だったとしても心を開いてくれてありがとう」とありました。愛は突然立ち上がり、教室を飛び出すと、廊下を走って、美雪の教室に入っていきました。皆が驚く中、愛は美雪のところへ歩み寄り、顔を近づけてささやきました。「また一緒に寝ようね」。

たとえを自分のものにしたいと願うあまり、美雪と同性愛の関係を持ち、暴走し自身の立場や何もかもを破壊していく愛の姿が、すさまじい熱量で描かれていて圧倒されます。女子高生2人のレズプレイのシーンは濃厚で、とても官能的でした。高校生の恋愛感情を、複雑でいびつな三角関係として描く中で、本作は単なるティーンの恋愛モノを超えた次元へと昇華され、思いもよらぬ境地へと読む者を導いていきます。あいかわらず「綿矢節」が健在でした☆

