(書評)第60回「蹴りたい背中」(綿矢りさ 著)☆史上最年少の19歳での芥川賞受賞作。非性器的なセクシュアルの三角関係を描く☆
第130回下半期の芥川賞を受賞した中編小説・青春小説です。金原ひとみの「蛇にピアス」と共に、史上最年少の19歳での芥川賞受賞です。著者の2作目の小説です。文学史上の事件となり、127万部のベストセラーとなりました。
周囲に溶け込むことが出来ない陸上部の高校1年生・ハツと、やはりクラスの余り者でアイドルおたくの男の子・にな川との交流を描いた青春小説です。

理科の授業で仲間外れにされたハツは、同じ班のにな川が読んでいる女性ファッション誌のモデル(オリチャン(佐々木オリビア))に目が留まります。ハツは中学生のとき、隣町の無印良品でオリチャンに会ったことがあり、そのことを言うとにな川は興味を持ちます。放課後に彼の家に招待されて、そこでにな川がオリチャンの大ファンであると知ります。後日ハツはにな川に頼まれて、オリチャンと会った無印良品へと向かいます。そしてにな川の家で休憩する二人でしたが、ハツはオリチャンのアイコラ(にな川が作ったもの)を見つけます。ハツは異様な気分になり、にな川を後ろから思い切り蹴り倒します。
その後、にな川が学校を4日間休みます。ハツはにな川の家にお見舞いに行きます。実はにな川は徹夜でオリチャンのライブのチケットを取ったために、風邪を引いたのでした。にな川はチケットを4枚買っていて、ハツは誰かを呼んで一緒に行こうと誘われます。友人は絹代しかいないので、仕方なく絹代を誘って3人でライブに行きます。絹代がハツに「にな川はいい彼氏なんじゃないか」「ハツはにな川のことが本当に好きなんだね」と言いますが、ハツは「自分の気持ちはそうじゃない」と思っています。
ライブから帰ると、バスはもう出ていませんでした。仕方なくハツと絹代はにな川の家に泊まります。ハツはよく眠れず、ベランダでにな川と話をします。にな川が「オリチャンを一番遠くに感じた」と言ってハツの方を背にして寝転がると、ハツはにな川の背中を蹴ろうとします。指が当たったところでにな川が気づきますが、ハツは知らないふりをします。

ハツとにな川の恋愛感情とも言えない不思議で素敵な関係が素晴らしく描かれていました。また愛着と苛立ちが入り交じったハツの心情に、共感を持ちました。ハツの「小児的多形倒錯な」セクシュアリティーが表現されていて、そこも興味を惹きました。絹代の人物造形も良かったです。ハツとにな川とオリチャンの非性器的なセクシュアルの三角関係が、この物語を支えているのだと感じました。
恋愛や性愛、いじめ、事故、事件など、なにも起こらないのに、心が揺さぶられる作品でした☆

