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(書評)第154回「インストール」(綿矢りさ 著)☆著者のデビュー作。登校拒否の女子高生が、風俗チャット嬢を体験して成長する話☆

綿矢りさのデビュー作であり中編小説(単行本約120ページ)です。2001年に第38回文藝賞を受賞しました(当時17歳で、堀田あけみの『1980アイコ十六歳』以来20年ぶりに史上最年少)。登校拒否の女子高生・野田朝子が、小学生の青木かずよしと出会い、ネット上の風俗チャット嬢として働き、やがて成長する1か月の様子を描いています。著者は高校2年生の冬休みを使って、一気に書き上げたそうです。2004年に主演・上戸彩、共演・神木隆之介で映画化されました。

高校2年生(17歳)の野田朝子は英文系クラスに通う高校3年生です。人生に具体的な夢や目標はありませんが、有名になりたいという野望だけは持っています(ちなみに処女)。朝子はクラスメイトで、英文系クラスの唯一の男子である光一から散々非難されます。光一は朝子の担任であるナツコ先生の恋人でもあり、早稲田大学を受験する予定でした。光一はナツコ先生を引き合いに出して「(ナツコ先生は)ハードスケジュールは自分の有能さと人気の証だと勘違いし、そんな自分に満足している幸せ者。いつも自分が主人公で真性マゾ」と悪口を言います。そして予備校のかけもちで疲れている朝子に休養をすすめます。朝子は高校生活(受験戦争)から突然脱落して、登校拒否児になります。ある日朝子は、突如自分の部屋の大掃除をすることを思い立ち、部屋にある全ての家具と小物を、マンションのゴミ捨て場へと運びます。あとに残っているのは机とピアノとパソコンでした。朝子は亡くなった祖父からもらったパソコンだけは捨てられませんでした。朝子はこのパソコンを使い切れていないのでした(インターネットもメールもつながらない)。久しぶりに電源を入れますが、まったく動きません。ようやく捨てる決心がついた朝子は、パソコンを持ちあげ、ゴミ捨て場に運び、その場に座り込みます。ゴミ捨て場の一画は、朝子の部屋がそっくりそのまま移っていました。

朝子は突然「大丈夫ですか?」と声をかけられます。それは同じマンションに住む小学生の青木かずよし(12歳)でした。朝子が捨てた家具の中で欲しい物はないかとかずよしに訊きますが、かずよしは「このパソコンを買ってもいいですか?」と言います。朝子は「本当に直せるのなら差し上げます」と応えます。かずよしは自転車のカゴにパソコンを載せて、8階の部屋まで持ち帰ります(朝子は11階に住んでいる)。朝子が学校に行かなくなってから6日が経ちました。朝子の1日は母を騙すことから始まります。制服を着て、何食わぬ顔で家を出て、母が出勤すると家に戻り、ずっと引きこもります。そして夜には母を澄まし顔で迎えます。

ある日、朝子が家に戻ると、母が女の人と立ち話をしています。それは最近マンションに引っ越してきた青木さよりで、少し変わったところのある不器用な女性でした(かずよしの母。血はつながっていない)。さよりはあるデパートで「ソナチネ」というメーカーの下着を販売しているコーナーで、仕事をしていました。さよりは朝子と母に、メーカーからサンプルでもらったド派手なパンツを、大量に「おすそわけ」するのでした。朝子の母は、お礼を渡してくるようにと、朝子に図書カード一万円分を託します。朝子がさよりの家を訪ねると、中からかずよしが現れます。かずよしは、パソコンを直すことができたと朝子に打ち明けます。朝子がかずよしの部屋に入ると、パソコンが押入れの上段に収まっていました。壊れたはずのパソコンは、かずよしが「インストール」し直して復旧していました。かずよしは朝子に、パソコンを使った風俗チャットでのアルバイトを持ちかけてきます。それはかずよしのメル友である風俗嬢の雅(みやび)が、日中子供の世話で忙しいために、雅の代わりにその時間帯に来た客を相手に、風俗チャットでエッチな会話をするというものでした。雅は26歳で、人妻で子持ちでした。かずよしを専業主婦の「かなこ」だと思いこんでいるようでした。1時間で1500円稼げるようです。客は10分で600円の手数料を支払っているようでした。チャットの仕事は、平日の朝10時から夜6時まででした。朝子は引き受けて、さっそく翌日から働き始めます。

朝子は朝10時から無人の青木家の忍び込み、昼の2時まで働きます。2時から6時まではかずよしが担当することになります。朝子はチャットの会話速度でのワープロ打ちが出来るか不安でした。かずよしは朝子に「文字を打つときは、一行程度の文を交互に交わすほうが良い。テンポ良くキーを叩くと良い」とアドバイスします。さっそく最初のお客が付きます。「タカ」というハンドルネームでした。朝子は「生まれては消え、また生まれては消えていく、有料の文字会話」だと感じます。チャットを介して様々な人と会話を交わしているうちに、朝子はある日「濡れ」ます。一つエッチな言葉を書かれるたびに、または一つエッチな言葉を書くたびに、下半身が熱くなり、パンツが湿るのでした。昼間に他人の押し入れの中で、制服を着たままエロチャットをしている状況に背徳感を感じるのでした。朝子は「落ちる(ログアウトする)」という言葉が、なにか虚しくて引っかかるのでした。また朝子は、自己紹介から始まり、会話して、落ちて、を繰り返すことや、共に濃い時間を短時間共有した人が、不意に正気に返り、二人で創り上げた妄想の世界に、自分ひとりが残されていくことを、むなしく感じるのでした。

ある日、聖璽(せいじ)という浪人生がチャットの客としてログインします。聖璽はかずよしが相手をしている時の雅を好きになっていたのでした。聖璽は会話の様子から、朝子を偽物だと見破ります。聖璽は朝子について、ほかにも様々なことを見破って、自分のHPにアクセスさせて、ウイルスに感染させようと図ります。かずよしはその様子を見かねて、聖璽とチャットを始めます。聖璽はかずよし扮する「雅」と最後の会話を交わして「さよなら」と言ってログアウトします。

朝子がいったん家に帰ると、母が朝子の空っぽの部屋で寝ていました。母にはすべてがバレている様子でした。母は泣いていました。朝子が家から逃げ出して、かずよしの家に戻ると、さよりが廊下の隅に座っていました。さよりにもバレている様子でした。さよりは「私は、かずよしがあなたといる時楽しいのならそれで良いんです」と言います。思えばチャットの仕事を始めてから一か月が経っていました。朝子は「何か変わった? 何も変わらない、私は未だ無個性のろくでなし。ただ、今私は(生身の)人間に会いたいと感じている」のでした。

チャットの仕事が終わりを迎えます。朝子はかずよしから30万円入ったと教えられます。朝子はかずよしに「あんた、お母さんに「僕男の子の赤ちゃんが欲しいな」って言えるようになった?」と訊きます。朝子は「努力しなさいよ。私も学校行くから。何も変われてないけど」と言います。

綿矢りさ

朝子は「何も変われてない」と言いながら「ただ、今私は(生身の)人間に会いたいと感じている」と思い、確実に成長(再インストール)しているのでした。私もいわゆる「チャットレディ」の体験をしたことがあるので、とてもリアルに感じました。チャットの描写にすごいリアリティがあり、メールセックスのコツが「短い言葉。擬音(オノマトペ)を多用する」というのも、とても共感(理解?)できました。

10代のデビュー作とは思えないほど、良く書けていて、面白かったです。文藝賞の選考では、4人の審査員に絶賛され、満場一致で受賞しました。第15回三島賞の選評で故・福田和也は「話者の意識の構成、エピソードの継起の仕組みといい、きめ細かく構成されていて瑕疵がなかった」として、同様にインターネットをテーマとした阿部和重の『ニッポニアニッポン』よりも高い評価を与えています。

「私の言いたいことを、すべて言ってくれた(17歳・学生)」という感想もあったようです。とても爽やかで、読み終わった後、すっきりとした気持ちになりました☆


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