準備すると決めた日、最初にやったこと
妻の本心を知った時。
何かが切れた。
怒りとも違う。
悲しみとも違う。
ずっと張り詰めていた糸が、音もなく切れたような感覚だった。
少しずつ居心地が良くなっていた。
時間が解決してくれるのかもしれない。
そんな期待もどこかにあった。
でも、それは幻想だった。
状況は何も変わっていなかった。
ただ、自分が慣れていただけだった。
あの日、それを思い知らされた。
もちろん、問い詰めることも考えた。
でも意味がないと思った。
仮に話したとしても、また同じことの繰り返しだ。
いや、今なら逆かもしれない。
携帯を見ただの。
信用がないだの。
そう言われるだけだろう。
もともと俺は口喧嘩が強い人間ではない。
妻は強い。
たぶん娘にも負ける。
相手を言い負かすようなやり方は苦手だし、向いていない。
だから、戦い方を変えることにした。
準備しようと思った。
その時、最初に浮かんだのは
経済的な自立だった。
お金が全てではない。
そんなことは分かっている。
お金で解決できないことなんて、この世には山ほどある。
でも今の自分にとって、
お金は本来の価値以上の意味を持っていた。
余裕が欲しかった。
選択肢が欲しかった。
もし収入が増えて、
もし経済的な不安が減ったら、
もっと前向きに人生を選べる気がした。
離婚するにしても。
しないにしても。
自分で決められると思った。
だから準備を始めることにした。
そして、もう一つ決めたことがある。
妻への向き合い方だ。
何度も書いているけど、
俺は妻を許すつもりはない。
今もない。
これからもないと思う。
でも準備を始めると決めた日から、
俺は妻への態度を変えた。
明るく接する。
なるべく普通に接する。
フラッシュバックしても表に出さない。
不倫の話もしない。
優しくする。
良い夫を演じる。
そう決めた。
妻はきっと思うだろう。
時間が解決したのだと。
反省が伝わったのだと。
許されたのだと。
禊は終わったのだと。
それでいい。
そう思わせておけばいい。
不倫の慰謝料請求には時効がある。
三年。
俺はその三年を、自分自身の期限にした。
慰謝料の話ではない。
自分の人生の話だ。
もう二度と、
何も決められないまま流される人間にはなりたくなかった。
準備を始めた時、
三年のうち半分ほどが過ぎようとしていた。
不倫相手との戦いには、一つの区切りがついた。
書類の上では終わった。
世間的にも終わった。
でも、俺の中では終わっていなかった。
むしろ、
ここから始まるのだと思った。
不倫相手への復讐ではない。
人生を取り戻すための準備だ。
そして、
妻への復讐は、
ここから始まった。
