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慰謝料、60万だった

妻と話をしたのは、あの日だった。

その翌日、  
妻は相手と会う予定だったらしい。
妻は関係を断つための話をしに行くつもりだったと、嘘をついた
いや、本当なのかもしれないが、信じられるわけはやかった

自分は仕事の予定だった。

そのまま何も知らずに一日を過ごしていたら、  
どうなっていたのか。

正直、考えたくもない。

あの夜のあと、  
妻は相手との連絡を断った。

正確には、  
自分が命じたというより、  
妻が自分で切った。

LINEをブロックして、  
インスタも閉じた。

後ろめたさだったのか、  
反省だったのかは分からない。

ただ、  
予定していた約束があった中で、  
突然連絡が取れなくなった。

相手も、何かを感じたと思う。

たぶん、  
もうバレたと。

そこから少し時間が空いた。

年が明けて、  
弁護士と委任契約を結んで、  
住所の特定をして、  
通知書面を送った。

三月頃だった。

ここまででも、  
思っていたより時間がかかった。

でも本当に長く感じたのは、  
そのあとだった。

通知書面を送ってから、  
何も返ってこない時間。

二週間。

たった二週間なのに、  
やけに長く感じた。

そしてようやく届いたのは、  
相手本人ではなく、代理人からの連絡だった。

「代理人に就きました」

それだけだった。

ああ、そう来るかと思った。

直接は出てこない。

当然といえば当然だけど、  
少しだけ拍子抜けもした。

そこからさらに二週間。

今度は、相手からの正式な返答が届いた。

不倫の事実は認める。  
真摯に謝罪する。  
慰謝料を支払う意思はある。

そこまではよかった。

問題は、その後だった。

提示された金額は、六十万円だった。

六十万。

一瞬、意味が分からなかった。

家庭を壊して、  
人の人生をぐちゃぐちゃにして、

その結果が、六十万。

頭の中で、  
その数字だけが何度も繰り返された。

ふざけている、と思った。

怒りしかなかった。

安いとか、高いとか、  
そういう話じゃなかった。

軽すぎた。

あまりにも、軽かった。

値下げ交渉をしてくるくらいなら、  
最初からそんなことをするなと思った。

全部壊しておいて、  
そのあとで条件を出してくる。

その構図そのものに、  
強い嫌悪感があった。

こっちの意向を、  
全部飲め。

あの時の自分は、  
本気でそう思っていた。

たぶん、  
それくらいじゃないと、  
バランスが取れなかったんだと思う。

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