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慰謝料請求なんて、自分には関係ないと思っていた

離婚するか、しないか。

そんな大きなことを決めきれないまま、  
それでも一つだけ、はっきりしていたことがあった。

相手には、責任を取らせる。

それだけだった。

許すとか、許さないとか、  
そういう感情とは少し違った。

このまま何もなかったことにされるのだけは、  
どうしても耐えられなかった。

だから、慰謝料請求をすることにした。

正直に言えば、  
そんなこと、自分の人生でやるとは思っていなかった。

弁護士。

内容証明。

示談。

全部、ドラマか何か別の世界の話みたいだった。

でも、現実だった。

スマホで調べるたびに、  
自分の人生じゃないみたいな気分になった。

弁護士費用なんて、  
もちろん余裕があるわけじゃない。

むしろ、そんな金があるなら  
別のことに使いたかった。

それでも調べていくと、  
成功報酬型の事務所は意外と多かった。

着手金が少ないところ。  
回収できた分から支払う形。

綺麗事じゃなく、  
現実的にそこしかなかった。

何件か比較して、  
ようやく一人の弁護士に相談した。

淡々と話す人だった。

それが逆によかった。

こちらの感情に寄り添うというより、  
事実を整理して、  
どう動くかを決めていく。

その冷たさみたいなものが、  
あの時はありがたかった。

委任契約書にサインをした時、  
妙な感覚があった。

本当に始まるんだ、と思った。

後戻りはしない。

そう決めたはずなのに、  
ペンを持つ手は少しだけ重かった。

次に必要だったのは、  
相手の住所だった。

名前は知っている。  
顔も知っている。

でも、住所は知らない。

こんな時代なのに、  こんな時代だからなのか、
人ひとりの住所を知ることは  
案外難しい。

結局、弁護士が  
電話番号から所在を特定していった。

そんなことが本当にできるんだと、  
変なところで感心した。

少しずつ、  
現実が輪郭を持ち始めていた。

そして、  
特定郵便が送られた。

たった一通の紙なのに、  
そこにはずいぶん重たいものが乗っていた。

相手はそれを見て、  
何を思ったんだろう。

焦ったのか。  
怯えたのか。  
それとも、面倒だと思っただけなのか。

正直、そんなことはどうでもよかった。

ようやく、  
こちらの痛みが  
向こうにも届くかもしれない。

そう思った。

たぶんあの時、  
僕が欲しかったのは  
お金じゃなかった。

ちゃんと、  
これは人の人生を壊すことなんだと  
理解してほしかっただけだった。

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