全部、ここに書いてあった
妻と相手のやり取りは残っていなかった。
でも、一つだけ残っていた。
妻と、仲のいい友達とのLINE。
最初は何気ないやり取りだった。
ただ、少し遡って見ていくうちに、違和感が形になっていった。
「次はいつ会うの?」
「最近どうなの?」
一見すれば、ただの近況確認にも見える。
でも、その流れで十分だった。
ああ、そういう関係なんだと。
明確に「不倫」と書かれていたわけじゃない。
でも、それ以上に分かりやすかった。
この関係は、最近始まったものじゃない。
おそらく、1年以上は続いている。
妻の返事も、否定するものではなかった。
楽しいこともある。
でも、うまくいかないこともある。
そんな話を、当たり前のようにしていた。
そのやり取りで、十分だった。
でも、それだけじゃなかった。
スマホの中を見ていくと、
一つだけ、目に止まったものがあった。
非表示にされていたフォルダ。
そこに保存されていたのは、食事の写真だった。
見たことのない店だった。
少なくとも、俺とは一度も行ったことがない場所。
それだけで、十分だった。
さらに、LINEの中には、
こう書かれていた。
「バレないだろう」
その一文を見た時、
変に納得してしまった。
ああ、そういうことかと。
相手のことは知っている。
仲がいいわけじゃないが、顔も名前も分かる関係だった。
だから余計に、現実感がなかった。
そして、もう一つきつかったことがある。
このことを知っている人間が、他にもいたという事実。
妻の友達。
家族ぐるみで顔を合わせたこともある相手だった。
その人は、この関係を知っていた。
止めることもなく、
咎めることもなく、
ただ話を聞いていた。
それが、どうしても理解できなかった。
怒りもあった。
軽蔑もあった。
でも、それ以上に、
「ああ、そういう価値観の人間なんだな」
と、妙に冷静に受け止めている自分がいた。
この時、まだ何も終わっていなかった。
でも、何かは確実に終わっていた。
