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【大人の黒スニーカー図鑑】黒は「無難」じゃない。キャンバスの黒、レザーの黒、スエードの黒——素材で選ぶ、40代のための一足#PR


黒いスニーカーは、しばしば「逃げの色」と言われます。何にでも合う。汚れが目立たない。失敗しない。だから、迷ったら黒を選んでおけばいい──そう考えて、気づけば下駄箱が黒とネイビーばかりになっている40代は、決して少なくないはずです。

正直に告白すれば、私たちは以前、その風潮にあえて異を唱える記事を書いたことがあります。「黒とネイビーはもうやめろ。原色のスニーカーは自己投資である」と。装いが心に与える影響(着衣認知)の観点から、無難な黒に逃げ続ける停滞を戒めたのです。その考えは今も変わっていません。

けれど、です。逃げの黒と、選んで履く黒は、まったく別のものです。無難だから黒にするのではなく、黒という色の力を理解した上で、最良の黒を一足選ぶ。それは停滞ではなく、むしろ成熟です。そして実は、黒ほど素材によって表情が激変する色はありません。

弊サイトでは先に、白いスニーカーを「キャンバスの白」と「レザーの白」の二系統に分けて読み解く図鑑をお届けしました。今回はその対になる一篇です。黒は、白よりもさらに奥が深い。キャンバスの黒、レザーの黒、スエードの黒──三つの黒は、まるで別の靴のように違うのです。順に見ていきましょう。

黒は「無難」ではない──素材で激変する、黒という色

白いスニーカーが大きく二系統に分かれたのに対し、黒は三系統に分かれます。これが黒という色の、面白くも難しいところです。

キャンバス(帆布)の黒は、光を吸い込む、マットでくすんだ黒です。布の織り目が反射を抑え、つや消しの、肩の力が抜けた黒になる。もっともカジュアルで、デニムやカーキと無理なく溶け合います。

レザー(革)の黒は、光をまっすぐ返す、つややかで硬質な黒です。輪郭がくっきりと立ち、フォーマルに近い端正さを持つ。スラックスやジャケットを受け止められる、いちばん「きれいめ」に振れる黒です。

そしてスエード(起毛させた革)の黒は、この二つの中間にして、もっとも色気のある黒です。起毛が光を複雑に吸って、見る角度で濃淡が揺れる。マットでも光沢でもない、奥行きのある黒。大人にしか履きこなせない、陰影のある黒です。

同じ「黒のスニーカー」と一括りにされがちなこの三つは、装いの中でまったく違う仕事をします。自分が黒に何を求めているのか──気楽さか、端正さか、色気か。それを見極めることが、黒選びの出発点です。

【キャンバスの黒】PRO-Keds アメリカ 黒──気取らない黒の、原点

まず、いちばん気楽な黒から。キャンバスの黒は、黒という色の構えを解いてくれます。

PRO-Kedsのロイヤル系がまとう黒キャンバスは、つや消しの、まっすぐな黒です。バルカナイズド製法(生ゴムを加硫硬化させてアッパーとソールを一体化する古典的な工法)による細身のシルエットに、反射を抑えたマットな黒がのる。これが、不思議と重くなりません。

黒キャンバスの美点は、その実用性にもあります。白いキャンバスが汚れや黒ずみにあれほど神経を使わせるのに対し、黒は泥跳ねも経年も目立ちにくい。気兼ねなく履き倒せる黒、というのは、白には決して出せない価値です。デニムにもカーキのチノにも合わせやすく、最初の一足としても、白の対極に置く二足目としても頼れる。気取らない黒の原点が、ここにあります。

同じキャンバスの黒でも、並び立つ名作それぞれに表情があります。コンバースのオールスターやジャックパーセルの黒は、つま先のゴム(トゥキャップ)の白や、かかとのラインがほどよいアクセントになり、真っ黒になりすぎない軽さを残してくれる。ヴァンズのオーセンティックやエラの黒は、もっとも飾り気のない、潔いマットブラック。スケートカルチャーが育てた気負いのなさが、黒という色の構えをさらにほどいてくれます。いずれもPRO-Kedsと優劣を競う相手ではなく、マットな黒キャンバスという同じ系譜を分け合う仲間たちです。

【レザーの黒】スタンスミス、ジャーマントレーナー系──きれいめと、オフィスの境界線

次に、もっとも端正な黒。レザーの黒は、スニーカーをきれいめの領域へ連れていきます。

たとえばアディダスのスタンスミスは、白の印象が強い名作ですが、黒レザー仕様もまた格別です。つるりとした黒い革に、穴飾り(パーフォレーション)で控えめに描かれた三本のライン。白のスタンスミスがもたらす清潔感とはまた違う、引き締まった端正さが足元に宿ります。あるいは、ドイツ軍のトレーニングシューズに由来するとされる、いわゆるジャーマントレーナー系の黒レザー。武骨さと品の同居した、独特の知的な佇まいがあります。

ここで一つ、正直に線を引いておきます。「黒レザーのスニーカーなら、オフィスや少しきれいめの場でも履けるのか」という問いは、実は本記事の範囲を超えます。それは“どの黒を買うか”ではなく、“その黒をどこまで履いていいか”という、シーンとマナーの問題だからです。この境界線については、別記事「スーツにスニーカーはダサいのか、通勤おじさん回避の鉄則」と「高級レストランにスニーカーはマナー違反か」で具体的に線引きしているので、オフィスでの可否が気になる人は、そちらを併せて読んでみてください。本記事では、レザーの黒が“きれいめに最も振れる黒である”という一点を押さえるに留めます。

【スエードの黒】プーマ クライド、PRO-Keds プラス──色気のある、大人の黒

そして、三つ目。もっとも大人びた黒が、スエードの黒です。

起毛したスエードの黒は、光を複雑に吸い込み、見る角度で濃淡が揺らぎます。マットなキャンバスとも、つややかなレザーとも違う、陰影のある黒。この奥行きこそが、スエードの黒に色気を与えています。

スエードの黒を語るなら、プーマのクライドに触れないわけにはいきません。NBA選手の名を冠した最初のシグネチャーモデルの一つとされるこの靴は、ニューヨーク・ブロンクスの夜に育てられ、最初期のヒップホップ・シューズの一つとなったと言われます(その経緯は別記事「プーマ・クライドの歴史」で詳しく辿っています)。スエードの黒が放つ、あの不良っぽい色気の源流が、ここにあります。PRO-Kedsにもスエードの一足があり、起毛の質感はキャンバスとはまるで違う表情を見せてくれます。

ただし、スエードの黒には手入れという宿命がついて回ります。起毛は埃を抱きやすく、放っておくと白っぽくくすんでくる。買ったその日にやっておくべき作法と、素材別の育て方については、「スエードスニーカーの寿命を延ばす儀式」と「PRO-Keds 3素材完全メンテ事典」で一通り整理してあります。色気のある黒は、いたわってこそ、その色気を保つのです。

黒を「重く」「野暮ったく」しないための、いくつかのコツ

黒いスニーカーには、失敗の典型があります。重く見える。喪服のように沈む。あるいは、埃で全体が白茶けて、かえってだらしなく見える。せっかくの黒を台無しにしないために、いくつかのコツを挙げておきます。

ひとつ目は、ソールの色で抜くか、締めるか。白いソールの黒スニーカーは、足元に軽さとコントラストが生まれ、重さが抜けます。逆にソールまで黒で統一したオールブラックは、究極まで引き締まる代わりに、装い全体が重くなりやすい。きれいめに締めたいときはオールブラック、軽さが欲しいときは白ソール、と使い分けるのが賢明です。

ふたつ目は、素材のツヤを装いと合わせること。カジュアルな装いにつやつやのレザーの黒を合わせると、靴だけが浮く。逆に、きれいめの装いにマットなキャンバスの黒だと、少し物足りない。装いの格と、黒のツヤの格を、おおまかに揃えると失敗しません。

みっつ目は、手入れ。黒は汚れこそ目立ちませんが、埃と白い粉、そして履きジワの白茶けは、白以上に目立ちます。ブラッシングひとつで黒は蘇る。黒を黒のまま保つ手入れは、白とはまた違う方向で、確かに必要なのです。

では、黒と原色、どちらを履くべきか──「黒はやめろ」と書いた我々の、今の答え

冒頭に戻ります。かつて私たちは「黒とネイビーはもうやめろ、原色を履け」と書きました。それは矛盾ではないのか、と問われれば、こう答えます。

あの記事が戒めたのは、考えることをやめ、無難という名の惰性で黒を選び続ける態度でした。下駄箱が黒一色になり、何を履いても代わり映えしない停滞。そこから抜け出す劇薬として、原色を勧めたのです。

けれど、黒という色を理解した上で、最良のキャンバスの黒を、レザーの黒を、スエードの黒を選んで履くのは、それとはまったく別の行為です。良い黒は、自己主張せずに装い全体を引き締める、最良の名脇役になる。逃げの黒と、選んだ黒。同じ黒でも、その意味はまるで違うのです。

原色で攻める日があってもいい。そして、選び抜いた黒で全体を締める日があってもいい。その両方を意識して使い分けられること。それこそが、色から逃げない大人の足元なのだと、今の私たちは考えています。

40代の男が、黒いスニーカーを履くとき。それが「迷ったから黒」なのか、「この黒を選んだ」なのかは、足元を見れば、不思議と伝わってしまうものです。

マットなキャンバスの黒で気楽に街を歩く日。つややかなレザーの黒で背筋を伸ばす日。陰影のあるスエードの黒で、少しだけ色気を纏う日。同じ黒の中に、これだけの表情がある。それを知り、その日の自分に合う黒を選べること。黒は無難な逃げ場ではなく、使いこなす者にとっては、むしろ最も奥行きのある色なのである。足元の黒に、そういう成熟が滲むようになって初めて、私たちは黒を「履きこなした」と言えるのではないでしょうか。

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