がんは「一つの病気」ではない
がん治療を1年近くしていて、がんについて、いろいろなことを調べているが、調べれば調べるほどわからなくなる。臓器のがんは「癌」と漢字で表し、臓器以外の血液とかを含めたがんは「がん」とひらがなで表すところから始まって、ステージ4は、手術しても根治することはできない状態切除治癒不能で、化学療法などの全身治療が選択される、など、まずは自分の病状について調べた。
その過程で、がんが、一つの病気ではないことがわかった。例えば、「胃がん」という病名でも、実際には生物学的性質の異なる多くの病気の集まりなので、現在のがん治療は、「胃がん」という病名だけではなく、がん細胞の遺伝子やタンパク質の特徴、転移の状態、患者の全身状態などを総合的に評価して決定する「個別化医療(Precision Medicine:精密医療)」が基本となっている。
がんの確定診断では、食道に近い噴門部、胃体部、胃角部、前庭部、幽門部のどこにがんができたかという発生部位の特定が行われ、がん組織が正常の胃粘膜に比較的似た構造を作る分化型腺がん、正常構造をほとんど作らず、悪性度が高いことが多い未分化型腺がんに分けられる。
そして、がんの進行度を示す0から4までの5段階に分かれたがんのステージがあり、ステージ0からステージ3は、手術での根治が目指せるが、ステージ4はがんが最初に発生した場所から離れた、別の臓器(肺、肝臓、骨など)に遠隔転移していて、手術不適応の最も進行した状態で、遠隔リンパ節転移のみ、肝転移、肺転移、腹膜播種、骨転移、複数臓器への転移などがあり、予後や治療戦略が異なる。
並行して、がん細胞の分子学的特徴を調べる。胃がんでは少なくともHER2、PD-L1、MSI-H、 dMMR、CLDN18.2、FGFR2bなどの分子マーカーが調べられる。さらに、同じがんでも、患者の年齢、心臓機能、腎機能、肝機能、栄養状態、日常生活動作、持病によって使用できる薬が変わり、これらを総合して、治療が決定する。
私の場合は、組織型は悪性度の高い低分化腺がんで、発生部位は胃噴門部、進行度は大動脈周囲リンパ節への遠隔転移があるのでステージ4、HER2は3+の陽性、よって切除治癒不能として診断されたため、一次治療として抗HER2療法と免疫療法を含む薬物療法を行っている。
胃がん以外のがんも同じようにさまざまな指標で分類される。大きく分けても100種類以上あるとされ、その分類方法は一つではない。基本的には、「どの細胞から発生したか」によって分類される。実際には、同じ肺がんや胃がんでもさらに多数のサブタイプが存在する。
これらのがんに対応するため、例えば、最も有名ながん専門病院の国立がん研究センター中央病院の診療科・診療部門は、がんの臓器ごと・治療法ごとに専門化されていて、現在36の診療科・診療部門が設置されている。
このように、がんは一つの病気ではなく、数百種類以上の異なる病気の総称と考えられているが、そのことは一般に浸透していない。がんに罹患したときに自分の病状を詳しく話しても理解してもらえないので、簡単に「胃がん」などと答える。多くの人はこれを聞いて質問を止めるが、「大丈夫?」と言ってステージを聞いてくる人もいる。
「ステージ4」と答えると、押し黙ってしまうか、慰めようとして余計なひと言を言われることが多い。知り合いの若い女性はいきなり泣き出した。
気まずいので、私は「今は、手術前にがんを小さくするための点滴を打っています」と言うことにしていて、ステージは言わない。
