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がん患者の糖摂取問題

 がん情報を探していると糖について二つの相反する意見に出会う。ひとつは、「糖はがんの餌なので摂るべきではない」というもので、もう一つは「経口摂取した糖はがんの餌にはならない」という意見。
 私は糖尿病もあるので、少し調べてみた。若干、専門的な話になるが、糖を気にしているがん患者やその家族の皆さんには、ぜひ、読んでほしい。
 「糖を食べると、その糖だけが直接がんの餌になって増殖する」という考え方は、人間では十分に証明されていない。一方で、「糖をいくら摂っても問題ない」という意味でもない。特に、砂糖入り飲料や果糖を大量に含む加工食品の過剰摂取は、肥満、インスリン抵抗性、慢性炎症などを介して、がんの進行や再発に悪影響を及ぼす可能性がある。
 しかし、果物や穀類などに含まれる自然な糖質まで極端に制限することを支持する臨床試験は現時点では存在しない。治療中の患者では、過度な糖質制限による体重減少や筋肉量低下のほうが、現時点では大きな問題と考えられている。
 がん細胞は正常細胞よりも大量のブドウ糖(グルコース)を取り込む。だが、「がん細胞が糖を使う」ことと、「糖を食べなければがんが飢え死にする」ことは全く別の話である。人間は糖を食べなくても、肝臓、筋肉、アミノ酸、グリセロールから糖を作るので、糖質を食べなくても血糖値は一定に維持され、その糖は正常細胞にもがん細胞にも供給される。
 「糖を食べないことで、がんだけを飢餓状態にする」ことはできないのに、多くの人が勘違いをしている。がんの餌が糖だと聞くと、短絡的に糖質を制限すればがん治療に役立つと考えがちである。私もそうだった。
 ケトン食や糖質制限食を調べた研究は多数あるが、動物では有効な例、逆に無効な例、一部では悪影響が示唆された例まで混在していて、人間で生存期間を延長したという質の高い臨床試験は現在のところ存在せず、日本や欧米の主要ながん診療ガイドラインでは、「がん治療目的で糖質制限を勧める」という記載はない。
 近年、「果糖が転移を促進する」という研究は確かに増えている。しかし、その多くは、細胞実験、マウス実験である。例えば、高果糖コーンシロップや砂糖入り飲料を大量に与えたマウスでは、脂質代謝、炎症、細胞膜合成などが変化し、一部のがんで腫瘍増殖や転移が促進されたという報告がある。
 重要なのは、これは「人間が普通に果物を食べる」ことを調べた研究ではないことである。実験では、人間換算でもかなり多量の糖を与えている場合が多い。
 果糖は、果物だけでなく、ジュース、清涼飲料、高果糖コーンシロップすべてに含まれている。果物には、食物繊維、ビタミン、ポリフェノール、カリウムなどが豊富で、糖の吸収もゆっくりである。しかし、ジュースでは食物繊維がほとんど除かれているため、糖が短時間で大量に吸収され、血糖値やインスリン値が急激に上昇する。安易に市販のフルーツ系飲料を飲まない方がよいかもしれない。市販のものは砂糖を多く含んでいるものが多い。
 以上のように、糖そのものが直接がんを育てるというより、糖の過剰摂取によって、がんが進みやすい体内環境がつくられる可能性が問題視されている。極端な糖質制限より、血糖コントロールを維持する、筋肉量を保つ、十分なエネルギーとタンパク質を摂ることの方が重要である。糖尿病があるため、急激な血糖上昇を避けることには意味があるが、「糖質を極端に避ける」ことを支持する証拠は乏しい。
 がん患者としては、砂糖入り飲料はできるだけ避け、全粒穀物や野菜、豆類から糖質を摂る。果物は適量なら通常は問題なく、食物繊維を十分に摂り、体重と筋肉量を維持する。もし、糖尿病があるなら、糖尿病の管理を優先するが、そうでない人も極端な糖質制限やケトン食は、主治医や管理栄養士と相談せずに始めない、ことが重要である。
 私のように化学療法・免疫療法を受けながら体重を維持できている患者では、「糖質をゼロにする」のではなく、「質を選ぶ」ことが重要である。皆さんの参考になれば幸いである。


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