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VISION ― プログレ/フュージョン ライナーノーツ 2026年1月

未踏の音世界への扉を開く、新たな一年が始まりました。

毎月1日にお届けする「プログレ/フュージョン ライナーノーツ」は、作品の背景やコンセプトに込められた想いを丁寧に紐解き、バンドの現在地とその音楽的進化を静かに照らすレビューシリーズです。
次回は、2月1日(日)にお届けします。


今月のFeatured Reviewは、この4枚。

  • Alter Bridge『Alter Bridge』

  • Soen『Reliance』

  • Megadeth『Megadeth』

  • The Hirsch Effekt『Der Brauch』

ほかにも、注目の15枚を動画とともに紹介します。

1月9日(金)

Alter Bridge『Alter Bridge』


ヘヴィ・ロックの世界において、これほどまでに希望を真摯に鳴らし続けてきたバンドが他にいただろうか。

Alter Bridgeの音楽性は、鉄壁のリズム隊とMark Tremontiの強靭なリフ、そしてMyles Kennedyの天を衝くヴォーカルによる構築美で語られる。

だが、彼らの本質はテクニック以上に、その歌詞世界に宿る精神的な高潔さにある。彼らのディスコグラフィは、人生の苦難に対する壮大な闘争の記録だ。

2004年のデビュー作『One Day Remains』で終わりからの再生を誓い、傑作『Blackbird』では逃れられない喪失と向き合い、前作『Pawns & Kings』では理不尽な運命への不屈を力強く提示してきた。

そして2026年1月9日、彼らは満を持してセルフタイトルとなるアルバム『Alter Bridge』を世に放つ。

このタイミングでバンド名を冠した意味は重い。先行して公開された2曲が示すのは、彼らが20年以上かけて磨き上げてきた哲学の到達点だ。

「Silent Divide」で、彼らは汚名を着せようとする悪意ある嘘に対し、反撃ではなく沈黙という武器を執る。”怒りは盲目だ(Remember rage is blind)”と諭し、嵐が過ぎ去るのを待つその姿勢は、騒がしい現代においてあまりに理知的だ。

さらに「What Lies Within」では、欺瞞に満ちた他者との関係において”怒りを解き放て、先へ進め(Release the anger, move on)”と歌う。復讐に囚われることなく、心の平穏の鍵は自分自身が握っているのだと気づくこと。これこそが、彼らが見出した最強の防衛策なのだ。

新作『Alter Bridge』にあるのは、単なる敵への攻撃ではない。怒りや憎しみという自身の内なる闇すらも克服し、光の方へ歩き出そうとする達観した魂の姿だ。

混迷を極める現代だからこそ、彼らの歌う真実は、かつてない説得力を持って響く。

流行がどう変わろうとも、彼らはただ誠実に、我々の足元を照らす灯火であり続けている。

このアルバムは、彼らがAlter Bridgeであることの誇り高き宣言であり、我々が再び歩き出すための指針となる一枚だ。


Beyond The Black『Break The Silence』

ドイツ発、シンフォニック・メタル。6作目のスタジオ・アルバム。


Walls Of Babylon『Aeons Apart』

イタリア発、パワーメタル。4作目のスタジオ・アルバム。


1月16日(金)

Soen『Reliance』


スウェーデンが誇るプログレッシブ・メタルの至宝、Soen(ソーエン)。

彼らの音楽を定義するのは、圧倒的な技術力以上に、そのサウンドスケープに存在するの劇的なコントラストだ。

彼らは単に複雑な楽曲を演奏するバンドではない。Pink Floydに通じる深遠な空間美と、現代メタルが持つ鋭利なヘヴィネスを融合させ、聴く者の感情を揺さぶる物語を紡ぎ出す達人である。

元OpethのMartin Lopez(Dr)を中心としたこのバンドは、アルバムを重ねるごとにその色彩を変化させてきた。初期の『Cognitive』(2012)で聴かせたポリリズムの快楽は、『Lotus』(2019)において川面を漂うような幽玄な美しさへと昇華され、『Imperial』(2021)では社会の不条理に牙を剥く攻撃的なヘヴィネスが前面に出た。

しかし、サウンドの質感がどう変化しようとも、彼らの根底に流れる美学は一貫している。それは、破壊的なリフの嵐の中でこそ、Joel Ekelöf(Vo)の叫ばないクルーナー・ヴォイスが最も美しく響くという、計算し尽くされた構築美だ。

そして来る1月16日、彼らは通算7作目となるニューアルバム『Reliance』をリリースする。

タイトルが示す依存信頼というテーマは、分断された現代社会への痛烈な問いかけだろう。

先行シングル「Mercenary」は、まさにSoenの真骨頂と言える一曲だ。
傭兵の名にふさわしい、Martin Lopezの叩き出す軍靴の行進のような冷徹で重厚なリズムと、切り裂くようなギターリフ。その殺伐としたの音像に対し、サビで訪れるのは、戦場の虚無を嘆くようなあまりに美しいの旋律である。

新作『Reliance』においても、彼らの描く世界観はブレることがない。激しさはより鋭く、静寂はより深く。そのダイナミクスの振れ幅は、過去最大級にまで広がっている。「Mercenary」が示す通り、Soenはメタルというジャンルの枠を超え、人間の激情と哀しみを同時に鳴らすことのできる稀有な存在だ。

このアルバムは、喧騒に満ちた世界で、我々が失いかけた感情の震えを取り戻すための、美しき劇薬となるに違いない。


Dieversity『IV』

ドイツ発、メタルコア。4作目のスタジオ・アルバム。


Edenbridge『Set The Dark On Fire』

オーストリア発、シンフォニック・メタル。12作目のスタジオ・アルバム。


Kreator『Krushers Of The World』

ドイツ発、スラッシュメタル。16作目のスタジオ・アルバム。


1月23日(金)

Megadeth『Megadeth』


このアートワークを目にした瞬間、誰もが言葉を失ったはずだ。

そこに鎮座するのは、我々がよく知る、軍服やビジネススーツに身を包み平和を皮肉るVic Rattleheadではない。

純白のスーツを纏い、正面を見据えるその姿。そして、向かって左半分だけが紅蓮の炎に包まれ、静かに焼け落ちている。この衝撃的なビジュアルこそが、40年以上にわたるMegadethの歴史がどこへ辿り着いたのかを雄弁に物語っている。

Dave Mustaineが敬虔なクリスチャンであることを踏まえれば、このが意味するものは単なる死装束ではないだろう。キリスト教教義において、白い衣は復活永遠の命の象徴だ。つまり、Vicの左半身を焼く炎は、憤怒と確執に彩られたバンドの過去であり、俗世の業火である。Mustaineは、それら全てを焼き尽くした灰の中から、自身の音楽を永遠の伝説(レジェンド)へと昇華させようとしているのだ。

最後に自らのバンド名を冠したアルバム『Megadeth』。その音像は、カバーアートの白さが示す通り、研ぎ澄まされた冷徹なまでの完成度を誇る。ここには迷いも、実験的な遊びもない。あるのは、鋭利なメスのように切り込まれるリフと、複雑怪奇な展開を統制する”インテレクチュアル(知的)・スラッシュ”の極致のみだ。それは、長きにわたる闘争の果てに手に入れた、悟りの境地のようなスラッシュメタルである。

かつて「Peace Sells... But Who's Buying?(平和を売ります、誰か買いませんか?)」と問いかけたVicは、もはや何も売ろうとはしていない。彼はただ、燃え盛る歴史の終わりを背に、静かに永遠を見据えている。このアルバムは、Megadethという巨大なシステムが機能を停止する音ではない。その魂が肉体を離れ、不滅の存在へと変貌を遂げる瞬間の記録だ。我々は今、一つの偉大な歴史が炎の中で完結し、神聖な静寂へと還っていく様を目撃している。

Megadeth、そしてVic Rattleheadよ、永遠に。


Alkaloid 『 Bach Out Of Bounds』

ドイツ発、プログレッシヴ・デスメタル。初のライブアルバム。


Dramatist『Wasting Words』

ドイツ発、ポスト・ハードコア。デビューアルバム。


Textures『Genotype』

オランダ発、プログレッシブ・メタルコア。6作目のスタジオ・アルバム。


The Hara『The Fallout』

イギリス発、メタルコア。2作目のスタジオ・アルバム。


Crystal Lake『The Weight of Sound』

日本発、メタルコア。7作目のスタジオ・アルバム。


1月30日(金)

The Hirsch Effekt『Der Brauch』

ドイツ・ハノーファーが産んだ異端児、The Hirsch Effekt(ザ・ハーシュ・エフェクト)。

マスロックの冷徹な計算とハードコアの激情を衝突させるその音楽性は、しばしば狂気と評される。だが、その狂気がどこから来るのかを知る者は少ない。彼らのバンド名は、実在したユダヤ系ドイツ人の女性医師、ラーヘル・ハーシュと、彼女が発見した医学現象”ハーシュ効果”に由来する。

”ハーシュ効果”とは、特定の固形微粒子が粘膜を透過し、血液循環へと移行する現象を指す。これは当時の医学的常識を覆す発見だったが、保守的な学会は彼女を嘲笑し、黙殺した。失意の彼女は孤立を深め、最終的には精神病院にて、錯乱と孤独の中でその悲劇的な生涯を閉じたという。このバンドが描くのは、そんな”理解されざる者の苦悩”と、境界を越えて侵入してくる異物の衝撃だ。

2026年1月30日、彼らは7枚目のスタジオアルバム『Der Brauch』をリリースする。タイトルはドイツ語で慣習しきたりを意味する。かつてラーヘル・ハーシュを圧殺したのは、医学界の古びた慣習であった。本作で彼らは、社会や思考を硬直させるこの慣習という病理に、音楽という名のメスを入れる。

アルバム全編を貫くのは、まさに”ハーシュ効果”のごとき浸透圧だ。Nils Wittrock (Gt/Vo)の奏でる変則的なリフと、Ilja John Lappin(Ba)らの強靭なリズムは、聴き手の鼓膜という粘膜をやすやすと透過し、血流に入り込んでくる。インダストリアルなノイズと美しい合唱が同居する楽曲群は、天才医師の脳内で鳴り響いていたであろう、理性と狂気の不協和音を追体験させるようだ。

『Der Brauch』は、単に激しいだけのメタルアルバムではない。それは、古いルール(慣習)によって排除された全ての魂への鎮魂歌であり、安寧とした日常の血管に異物を送り込む劇薬である。精神の均衡が崩れるギリギリの場所で鳴らされる美しきカオス。

ラーヘル・ハーシュが見た絶望と真実は、100年の時を超えて、今ここで爆音となって蘇る。


Our Mirage『Fractured Minds』

ドイツ発、メタルコア。4作目のスタジオ・アルバム。


Therion『Con Orquesta』

スウェーデン発、シンフォニック・メタル。ライブアルバム。


Urne『Setting Fire To The Sky』

イギリス発、メタルコア。3作目のスタジオ・アルバム。


Course Of Fate『Behind The Eclipse』

ノルウェー発、プログレッシブ・メタル。3作目のスタジオ・アルバム。


Møl『Dreamcrush』

デンマーク発、ポストブラックメタル/シューゲイズ。3作目のスタジオ・アルバム。


【その他のメタル・リリース情報】

  • 1/9 Uuhai『Human Herds』

  • 1/9 Venger『Times of Legend』

  • 1/23 The Damned『Not Like Everybody Else』

  • 1/23 Helix『Scrap Metal』

── a vision beyond the visible.

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