【うさぎとかめとカタツムリ】 第一話  「挑戦状を持ったカタツムリ」


雨上がりの午後のこと。

『うさぎとかめ』で有名になった二匹は、中学校の校庭のベンチでお茶を飲んでいます。

「あれから有名人やなぁ、俺ら」

うさぎは耳をピクピク動かしながら、どこか得意げです。

「たまたまですよ」

かめは、相変わらず控えめです。

そんな、昼下がり、誰もが予想しなかった出会いが待ってました。

世界一急がないお客さんがやってきたのです。

ベンチの下から小さな声が聞こえてきます。

「・・・・あの、お二人さん」

二匹が足元を見ると、一匹のカタツムリ。

背中には立派な殻。

歩く速さは、びっくりするくらいゆっくり。(ラップ調で読んで)

「何や、お前」

うさぎがのぞき込みます。

カタツムリは、小さく咳払いをすると、静かに話はじめます。

「あなた方のレースを見て、前からずっと思ってたことがあります。」

「なんやねん」

「正直に申しあげます」

ひと呼吸置いてから、カタツムリは、ゆっくりしゃべりはじめます。

「・・・・あのレースは・・・とんだ茶番でした。」  

風が、一瞬、とまります。

うさぎの耳がピクリと動きます。

かめは口を半開きにしたまま固まってます。

でも、カタツムリはやめません。

いや、余計に拍車がかかります。

「居眠りをするうさぎさんもうさぎさんです」

「・・・・・」

「その隙をついて勝ったかめさんもかめさんです」

「・・・・・」

「お二人には、勝負に対する誇りというものが、少し足りなかったように思います」

うさぎの耳がピンと立ちます。

そして、堰をきったように、うさぎが吠えはじめます。

「うるさいわ!エスカルゴ!」

「殻取ったら、ナメクジ!」

「お前なんか!勝負以前の問題やないか!」

カタツムリは首をかしげます。

「どういう意味ですか?」

「お前、そもそもレースに出られへんやろ!」

うさぎは、トドメでも刺したかのような笑みを浮かべます。

「誰が?レースに出られないのですか?」

カタツムリもひきません。

「お前やないか、外科、泌尿器科」

・・・・・後半の意味は誰もわかりません。

実は、うさぎには、話の最後に思いついた言葉をつけ足す癖がありました。

本人だけは、いつも大爆笑です。

「アハハハハ!」

かめは苦笑い。

カタツムリは無表情。

風だけが少し笑ってるようでした。

【1打数0安打】【三振】

しばらく沈黙が続きます

とうとう、かめが重い口を開きます。

「・・・・でも」

二匹が振り向きます。

「カタツムリさんのいうことにも一理あると思います」

うさぎの笑顔が消えます。

「あの時、ボクはうさぎさんを起こすべきだったのかもしれません」

「そして、正々堂々と負けるべきでした」

そう言うとかめは、頭と手と足を、甲羅の中へ引っ込めてしまいました。

完全に落ち込んでます。

それを見たうさぎはニャッと笑って言います。

「これがほんまの『手も足も出えへん』やな」 

甲羅の中から、小さなため息がもれます。

「・・・・・・」

【2打数0安打】【三振】

それでも、誰も、うさぎを止められません。

「カタツムリ!かめいじめとったら、竜宮城、連れて行ってもらえへんで」

「・・・・・」

【3打数0安打】【少し不調】

しばらくして、

カタツムリが、心を決めたように、静かにうなずく。

そして、前に出ます。

「では、お二人にお願いがあります」

「なんやねん」

「今度のレースに、ボクも参加させてください」

うさぎは耳を疑いました。

「・・・・はぁ?」

かめも思わず甲羅から頭を出します。

「えっ?」

「ボクもお二人と勝負がしたいんです」

しばらく沈黙。

【ブッッ】

うさぎが吹き出します。

「笑わすなよ!」

「お前が、どうやって勝負するねん」

カタツムリは落ち着いた口調で答えます。 

「できます」

「ただし、お二人が一つだけ条件をのんでくださるなら」

今度は、かめが身を乗り出します。
 「なっ、何ですか?」

うさぎは腕を組みます。

「もったいぶんな」

「言わんかい」

「いわんかい」

「イワンのバカ」
《レフ・トルストイ作》

「・・・・・」

【4打数0安打】【不調】

カタツムリは校庭の向こうを指さします。

「あそこに中学校の塀があります。」

「スタートはここ」

「最初の関門はあの塀を乗り越えること」

「そして、塀の向こうにある公園に滑り台があります」

「その滑り台のてっぺんに一番先に着いた者が勝です」

うさぎは耳をピクピクさせながら

「簡単やないか、外科、脳神経外科」

【リズムまで悪い】

「・・・・・」

【5打数0安打】【絶不調】

そして、カタツムリ最後にもう一つ条件を付け加えました。

「なお、勝負は、明日の正午」

【雨天決行です】

うさぎは耳をピーンと立てて

「やったろやないか!」

かめは、少しだけ不安そうに、空を見上げます。

一方、カタツムリは、不敵に微笑みます。

その笑顔の理由を、この時、うさぎとかめは知る由もなかったのです。

こうして・・・・・・

『うさぎとかめとカタツムリ』の不思議な勝負が幕を開けたのです。


第二話「越えられない壁」

8月4日(火曜日)投稿

お楽しみに

      カタツムリより

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