想像的世界への熱望から生まれた「ナルニア国物語」
児童文学の古典に数えられている「ナルニア国物語」(1949-1954)を書いた作家で、オックスフォード大学などで中世文学を教えたC.S.ルイス(1898-1963)は少年時代にリヒャルト・ワーグナーの「ニーベルングの指環」に出会って、北欧神話の世界に魅了された。 彼の自叙伝「喜びのおとずれ」の中で、ルイスは1911年、13歳の時に初めてワーグナーに出会った時に「純粋な‘北方性’に飲み込まれた」と書いている。
【私は……『ジークフリートと神々の黄昏』という言葉を目にした。私が見たのは、その一冊に添えられたアーサー・ラッカムの挿絵の一枚であった。私はワーグナーのことも、ジークフリートのことも聞いたことがなかった……。純然たる「北方性」が私を飲み込んだ。大西洋の遥か上空、北国の夏の終わることのない黄昏の中に浮かぶ、巨大で澄み渡った空間のヴィジョン。隔絶、峻厳……。そしてほぼ同時に、私はこれにずっと、ずっと昔に出会ったことがあると悟った……。自らの過去へのその没入とともに、ほとんど胸が張り裂けんばかりの、「喜び」そのものの記憶が即座に込み上げてきた。かつて手にしていたものを、今、数年ぶりに取り戻したという確信。自分はようやく追放の身と不毛の地から、自らの祖国へと帰還しつつあるのだという知識が。】
ワーグナーは、ルイスが北欧神話や武勇伝に魅了されるようになるきっかけとなった。北欧やスカンジナビアの神話はルイスに何か達しがたいもの、想像的世界への熱望を与えたのだ。
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