フランス・コホート:保存料系食品添加物曝露と、高血圧またはCVD発症率の上昇の関連
NutriNet-Santéという大規模な追跡調査の結果に基づき、食品添加物としての保存料や酸化防止剤の摂取と、高血圧および心血管疾患の発症リスクとの関連を分析したものである。フランスの成人約11万人を対象とした15年間にわたる調査の結果、特定の保存料を多く摂取する層ほど、健康上のリスクが高まる傾向が確認された。具体的には、亜硝酸ナトリウムやソルビン酸カリウム、アスコルビン酸などの広く使われている成分が、血圧上昇や冠動脈疾患の発症に関与している可能性が示唆されている。本論文は、加工食品に依存しすぎない新鮮な食事の重要性を説くとともに、消費者保護のための添加物規制の見直しを提言している。学術的な知見として、これまで不足していた人間に対する保存料の長期的影響を明らかにした貴重な資料である。
Hasenböhler, Anaïs, Guillaume Javaux, Marie Payen De La Garanderie, ほか. 「Preservative Food Additives, Hypertension, and Cardiovascular Diseases: The NutriNet-Santé Study」. European Heart Journal, 2026年5月20日, ehag308. https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehag308.
背景と目的
実験研究では、一部の保存料系食品添加物が心血管系に有害な影響を及ぼす可能性が示唆されている。しかし、ヒトを対象としたデータは不足している。本研究では、NutriNet-Santéコホート、フランス、2009〜2024年を用いて、これらの化合物への曝露と高血圧および心血管疾患、CVDの発症との関連を検討した。
方法
食事摂取量は、繰り返し実施された24時間食事記録、最大96回、により評価した。この記録には市販食品のブランド情報も含まれた。食品添加物への曝露は、複数の食品成分データベースと、食品マトリックス中で実施したアドホックな実験室分析を用いて評価した。追跡期間中の保存料系食品添加物への累積的かつ時間依存性の曝露とアウトカムとの関連は、多変量調整Coxモデルを用いて解析した。
結果
合計112,395人が解析対象となった。女性は78.7%、平均年齢は42.8 ± 14.7歳で、追跡期間の中央値は7.9年であった。総保存料には、少なくとも1人の参加者が摂取していた58種類の物質が含まれていた。
非抗酸化性保存料の総量は、高血圧発症率の上昇、高摂取群 vs 低摂取群:ハザード比 HR 1.29、95%信頼区間 CI 1.20〜1.39、およびCVD発症率の上昇、n = 2450;HR 1.16、95% CI 1.04〜1.29、と正の関連を示した。
一方、抗酸化性保存料の総量は、高血圧発症率の上昇、HR 1.22、95% CI 1.13〜1.31、と関連していた。
研究対象集団の少なくとも10%が摂取していた17種類の個別の保存料系食品添加物のうち、多重検定補正後、8種類が高血圧発症率の上昇と関連し、1種類がCVD発症率の上昇と関連していた。
結論
この大規模前向きコホートでは、工業的食品に広く使用されている保存料系食品添加物への曝露と、高血圧またはCVD発症率の上昇との間に複数の関連が観察された。基礎にある機序を明らかにするためには、実験研究が必要である。これらの新しいデータが確認されれば、消費者保護を向上させるために、これらの添加物の使用を規制する制度の再評価が求められる。
試験登録
ClinicalTrials.gov:NCT03335644。
NotebookLM













保存料食品添加物、高血圧、および心血管疾患:NutriNet-Santé研究に基づくブリーフィング・ドキュメント
エグゼクティブ・サマリー
本報告書は、フランスの大規模前向きコホート研究「NutriNet-Santé」(2009年〜2024年)のデータ分析に基づき、工業食品に広く使用されている保存料食品添加物と、高血圧および心血管疾患(CVD)の発症リスクとの関連性をまとめたものである。
主な分析結果は以下の通りである:
心血管疾患(CVD)リスクの増大: 非抗酸化保存料の総摂取量は、CVD全体および冠動脈疾患(CHD)の発症リスクを有意に高めることが示された。
高血圧リスクの増大: 非抗酸化保存料および抗酸化保存料の両方が、高血圧の発症リスクと正の相関を示した。
特定の添加物の特定: 個別の添加物では、ソルビン酸カリウム(E202)、亜硝酸ナトリウム(E250)、アスコルビン酸(E300)、クエン酸(E330)など、日常的に広く摂取されている複数の物質がリスク増加と関連していた。
媒介分析: 非抗酸化保存料とCVD発症の関連のうち、16.2%が高血圧によって媒介されていることが明らかになった。
本研究は、現在安全と見なされている規制基準内の摂取量であっても、長期的な心血管健康に悪影響を及ぼす可能性を示唆しており、現行の規制再評価と、消費者が最小限の加工食品を選択することの重要性を強調している。
1. 研究の背景と目的
食品添加物としての保存料は、微生物による劣化や酸化を防ぎ、製品の保存期間を延ばすために不可欠なものとして、工業用食品・飲料の20%以上(2024年時点)に使用されている。しかし、これらが人間の心血管健康に及ぼす長期的影響に関する疫学データは極めて限定的であった。
本研究は、11万人以上の参加者を対象に、ブランド固有の食事記録を用いて保存料への曝露量を精密に定量化し、高血圧およびCVD(脳血管疾患、冠動脈疾患を含む)との関連を解明することを目的とした。
2. 研究手法
2.1 対象者と追跡期間
対象: フランスのNutriNet-Santéコホート参加者 112,395名(女性 78.7%、平均年齢 42.8歳)。
期間: 2009年〜2024年(中央値 7.9年の追跡)。
データ収集: 最大96回の24時間食事記録。特定の商標(ブランド)情報を含む詳細な摂取データを収集。
2.2 曝露量の評価
複数の組成データベース、食品マトリックスのラボ分析、および企業の配合変更(リフォーミュレーション)を考慮した動的照合により、添加物ごとの曝露量を算出。
合計58種類の保存料を特定し、「非抗酸化保存料」と「抗酸化保存料」に分類して分析。

3.3 リスクに関連する特定の個別添加物
人口の10%以上が摂取している17種類の添加物のうち、以下の8種類が高血圧リスクの有意な増加と関連していた(複数テスト補正後)。
ソルビン酸塩: ソルビン酸カリウム (E202) [HR: 1.39]
亜硫酸塩: メタ重亜硫酸カリウム (E224) [HR: 1.16]
亜硝酸塩: 亜硝酸ナトリウム (E250) [HR: 1.16]
アスコルビン酸塩: アスコルビン酸 (E300) [HR: 1.14]、アスコルビン酸ナトリウム (E301) [HR: 1.12]
エリソルビン酸塩: エリソルビン酸ナトリウム (E316) [HR: 1.14]
その他: クエン酸 (E330) [HR: 1.25]、ローズマリー抽出物 (E392) [HR: 1.10]
4. 証拠の検討とメカニズムの考察
本研究で観察された関連性を裏付ける可能性のあるメカニズムとして、以下の点が挙げられている。
細胞毒性と酸化ストレス: ソルビン酸カリウム、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウムなどは、in vitro(試験管内)研究で細胞毒性を示す可能性が指摘されている。また、亜硝酸塩は酸化損傷を促進し、インスリン抵抗性を引き起こす可能性がある。
トランス脂肪酸の性質: ソルビン酸カリウムはトランス脂肪酸の一種であり、トランス脂肪酸が血圧上昇や心血管健康に悪影響を及ぼすことは広く知られている。
終末糖化産物(AGEs): ソルビン酸カリウムがin vitroでAGEsの活性化因子として働く可能性が示唆されている。
代謝への影響: プロピオン酸塩はマウスおよびヒトにおいて、グルカゴンやFABP4の産生を増加させ、インスリン作用を損なう可能性が報告されている。
5. 研究の強みと限界
強み11万人を超える大規模な前向きコホート。
ブランド特定を含む詳細な食事データと、それに基づく精密な添加物曝露量の定量化。
社会経済状況、ライフスタイル、食事の質(塩分摂取量、超加工食品の割合など)を含む広範な共変量の調整。
限界観察研究であるため、因果関係を直接断定することはできない。
ボランティアベースのコホートであるため、一般人口(特に教育水準や健康意識が低い層)への一般化には慎重を要する。
未診断の高血圧ケースが完全に排除できていない可能性がある。
6. 結論と提言
本研究は、工業用食品に遍在する保存料への曝露が、現在の規制範囲内であっても高血圧やCVDの発症リスクを高める可能性を、疫学的に初めて包括的に示した。
公衆衛生上の示唆
規制の見直し: 保存料の安全性評価において、保存性(便益)と心血管疾患リスク(リスク)のバランスを再検討する必要がある。
食事ガイドライン: 心血管疾患予防の観点から、「新鮮で最小限の加工」を施した食品を優先的に摂取するという推奨事項を補完するものである。
今後の課題: 他の地域や人口集団での再現性の確認、および詳細な生物学的メカニズムを解明するための実験的研究が求められる。
4つの添加物がすべて揃いやすい商品例
1. 市販の量産型ハム・ウインナー・ベーコン(加工肉)
日本のスーパーの惣菜コーナーや加工肉売り場に並ぶ、比較的安価で賞味期限が長めに設定されているブロックハムやウインナー、ピザ用ベーコンなどは、この4つがすべて、あるいは大部分が同時に使われる典型例である。
亜硝酸ナトリウム (E250): お肉のきれいなピンク色を保ち(発色剤)、ボツリヌス菌という恐ろしい食中毒菌の繁殖を抑える。
ソルビン酸カリウム (E202): 主にカビや細菌の増殖を抑え、開封後も含めた保存性を高める。
アスコルビン酸 (E300): ビタミンCである。亜硝酸ナトリウムの発色効果を助け、肉の脂質が空気で酸化して酸敗臭がするのを防ぐ。
クエン酸 (E330): 製品のpH(酸性度)を微調整し、ソルビン酸やアスコルビン酸が最も効果的に働く環境を整える「pH調整剤(または酸味料)」として使われる。
2. 魚肉ソーセージやカニカマ(魚肉練り製品)
加工肉と同様に、水分量が多く傷みやすい練り製品にもよく組み合わされる。特に「たらこ」や「明太子」を使ったペースト類や、魚肉ハムなどには発色剤(E250)と保存料(E202)が同時に使われるケースが目立つ。
3. 海外製のチルド惣菜・ソース・ディップ(サルサやBBQソースなど)
海外(欧米など)から輸入された、あるいは海外基準で作られた常温・チルドのソース類やサンドイッチ用スプレッド、味付け加工肉(パテやテリーヌ)にも、これらが一括して入っていることがよくある。
なぜこの4つが「セット」で使われるのか?
食品化学の視点から見ると、これらは「保存性と見た目を最大化するための黄金の連携(ハードルテクノロジー)」を形成している。
アスコルビン酸(E300)が亜硝酸Na(E250)を助ける: アスコルビン酸はお肉の酸化を防ぐだけでなく、亜硝酸Naが肉のヘモグロビンと結合してピンク色に変わる反応を劇的に早める。これにより、亜硝酸Naの使用量を抑えることができる。
クエン酸(E330)がソルビン酸K(E202)を助ける: ソルビン酸カリウムは、食品の環境が「弱酸性」のときに最も強い抗菌力を発揮する。そのため、クエン酸を少量加えてpHをコントロールすることで、保存料の効果を最大限に引き出している。
