「人の話をちゃんと聞く」とは、どういうこと? ~やさしいコミュニケーション連載 第六章
「ちゃんと聞く」とは、どういうこと?
「人の話は、ちゃんと聞きましょう」
子どものころから、そう言われたことがある人は多いと思います。
でも、
ちゃんと聞く
とは、具体的にどういうことなのでしょうか。
相手が話している間、黙っていること。
相づちを打つこと。
最後まで口を挟まないこと。
もちろん、それも大切です。
けれど、それだけで相手が、
「この人は、ちゃんと聞いてくれた」
と感じるとは限りません。
自分では聞いているつもりだったのに、相手から、
「全然聞いてくれていない」
「そういうことを言ってほしかったんじゃない」
「ただ聞いてほしかっただけなのに」
と言われてしまうこともあります。
そうなると、言われた側も戸惑います。
「ちゃんと聞いていたのに」
「良かれと思ってアドバイスしたのに」
「何か役に立つことを言わなきゃと思っただけなのに」
そんなふうに感じて、少し悲しくなることもあるでしょう。
でも、人の話を聞くというのは、ただ音として言葉を受け取ることではありません。
相手が何を話しているのか。
その奥で、どんな気持ちを抱えているのか。
今、答えがほしいのか。
ただ気持ちを受け止めてほしいのか。
そこに少し意識を向けることが、「ちゃんと聞く」ということなのです。
こんなこと、ありませんか?
友人が悩みを話し始めたとき、
「それなら、こうすればいいよ」
とすぐに解決策を言ってしまう。
相手がつらそうに話しているのに、
「でも、前向きに考えたほうがいいよ」
と励ましてしまい、相手が黙ってしまう。
相手の話を聞きながら、
「自分だったらどうするかな」
「次に何を言えばいいかな」
「役に立つことを言わないと」
と考えてしまい、相手の言葉そのものを十分に受け取れていない。
相手が話している途中で、自分の似た経験を思い出して、
「分かる。私も前にね……」
と、自分のことを話し始めてしまう。
相談に乗っているうちに、相手の問題を自分が解決しなければいけないような気持ちになって、どっと疲れてしまう。
反対に、聞き役ばかりになってしまい、自分の話はほとんどできないまま帰ってきて、あとから寂しくなる。
どれか一つでも心当たりがあっても、大丈夫です。
それは、相手を大切に思っていないからではありません。
むしろ、
「力になりたい」
「嫌われたくない」
「ちゃんと返さなきゃ」
「相手を楽にしてあげたい」
という気持ちがあるからこそ、起こることもあります。
ただ、その気持ちが強くなりすぎると、相手の話を受け取る前に、答えを出そうとしてしまうことがあるのです。
4コマ漫画

帆乃香のひとこと
誰かが悩みを話してくれたときって、
「何かいいことを言わなきゃ」
「解決してあげなきゃ」
って思うことがあるよね。
それは、相手を大切に思っているからこそ出てくる気持ちだと思うんだ。
でもね、相手はいつも答えを求めているとは限らないんだよ。
ただ、
「つらかったね」
「それは疲れるよね」
「よく頑張ってきたね」
と、自分の気持ちを一度受け取ってほしいだけのときもある。
アドバイスは悪いものではないんだ。
でも、相手の気持ちを受け取る前にアドバイスしちゃうと、相手には、
「気持ちを聞いてもらえなかった」
と感じられることがあるんだ。
まずは、答えを出す前に、相手の気持ちを一つ受け取ってみようね。
大丈夫。一歩ずつで変われるよ♪
「聞く」と「解決する」は違う
誰かが悩みを話してくれたとき、私たちはつい、解決方法を探したくなります。
「こうしたほうがいい」
「ああしたほうがいい」
「それはやめたほうがいい」
相手のためを思って、そう言いたくなることがあります。
特に、まじめな人ほど、
「聞くだけでは役に立っていない」
「何か答えを出してあげなければいけない」
と感じやすいかもしれません。
でも、悩みを話している人が、いつも解決策を求めているとは限りません。
自分の中では、どうすればいいか薄々分かっていることもあります。
ただ、疲れていて気持ちを整理したいだけのこともあります。
誰かに、
「それは大変だったね」
と受け止めてもらうことで、ようやく次を考える力が戻ってくることもあります。
人は、気持ちを置き去りにされたまま正論を渡されると、受け取る余裕をなくしてしまうことがあります。
たとえそのアドバイスが正しくても、
「そういうことじゃない」
「分かってもらえていない」
「責められている気がする」
と感じることがあるのです。
聞くことは、相手の問題をすぐに解決することではありません。
相手が今どんな気持ちでいるのかを、一度そのまま受け取ること。
それが、聞くことの第一歩です。
「共感」と「同意」は違う
相手の話を聞くとき、
「共感しなければいけない」
と思う人もいるかもしれません。
でも、共感とは、相手の考えにすべて賛成することではありません。
たとえば、相手が、
「もう全部投げ出したい」
と言ったとします。
そのとき、
「投げ出したほうがいいよ」
と同意する必要はありません。
けれど、
「それくらい追い詰められているんだね」
と受け取ることはできます。
相手が、
「あの人が全部悪いと思う」
と言ったときも、
「本当に全部あの人が悪いね」
と決めつけなくてもいいのです。
ただ、
「それくらい腹が立っているんだね」
「傷ついたんだね」
と、相手の感情を受け取ることはできます。
共感は、相手の意見を丸ごと肯定することではありません。
相手の中にある感情を、
「そう感じているんだね」
と認めることです。
この違いが分かると、人の話を聞くときの負担が少し軽くなります。
相手に同意できない話でも、相手の気持ちを受け取ることはできるからです。
すぐに自分の話へ移らない
誰かの話を聞いていると、自分の似た経験を思い出すことがあります。
相手:
「最近、寝ても疲れが取れなくて」
自分:
「分かる。ボクも前にすごく疲れていた時期があって――」
これは、悪いことではありません。
似た経験を話すことで、相手が安心することもあります。
「自分だけじゃなかったんだ」
と思えることもあります。
けれど、相手の話がまだ途中なのに自分の経験へ移ってしまうと、相手は、
「自分の話が終わってしまった」
「聞いてもらえなかった」
「話題を取られた」
と感じることがあります。
大切なのは、自分の話をしてはいけないということではありません。
順番です。
まずは相手の話を受け取る。
そのあとで、自分の経験を短く添える。
そして、もう一度相手に返す。
この流れにすると、経験の共有になりやすくなります。
例
相手:
「最近、寝ても疲れが取れなくて」
自分:
「寝ても疲れが残るんだね。それはしんどいよね。いつ頃から続いているの?」
相手が少し話したあとで、
自分:
「私も前に似たことがあって、つらかったよ。〇〇さんも、今かなり無理しているのかもしれないね」
このように、相手の話を受け取ってから自分の話をすると、会話の中心が相手から急に奪われにくくなります。
「ちゃんと聞いているつもり」でも、相手に伝わらないことがある
自分では、相手の話を聞いているつもりでも、相手にはそう見えないことがあります。
たとえば、スマホを見ながら相づちを打っているとき。
相手の目を見ずに、
「うん、聞いてるよ」
と言っているとき。
相手が話している途中で、
「つまり、こういうことでしょ?」
とまとめてしまうとき。
相手の話を聞きながら、すぐに正解や解決策を探しているとき。
こちらは聞いているつもりでも、相手には、
「早く終わらせたいのかな」
「本当は興味がないのかな」
「分かっているふりをされているのかな」
と感じられることがあります。
聞くことには、二つの面があります。
一つは、本当に相手の話に意識を向けること。
もう一つは、相手に「聞いている」と伝わる形で反応することです。
どちらか片方だけでは、すれ違いが起こることがあります。
聞き役になりすぎる人もいる
一方で、人の話を聞くのが得意な人ほど、別の悩みを抱えることがあります。
いつも相談される。
相手の話を最後まで聞いてあげる。
相手が落ち着くまで付き合う。
でも、自分の話はほとんどできない。
相手はすっきりして帰っていくのに、自分はどっと疲れてしまう。
そんな経験はありませんか?
聞く力がある人は、周りから頼られやすいものです。
でも、聞くことと、相手の感情を全部引き受けることは違います。
相手の話を大切にすることと、自分を後回しにし続けることも違います。
「人の話をちゃんと聞く」というテーマでは、相手を受け止める方法だけでなく、自分を守る方法も大切です。
聞き役になる人ほど、
「どこまで聞くか」
「今日は聞ける状態か」
「自分の話もしていいか」
を考える必要があります。
ここから先について
ここまでは、「ちゃんと聞く」とは何か、そして聞くつもりでもすれ違いが起こる理由について見てきました。
ここからは、実際に人の話を受け取るための具体的な工夫を紹介します。
相手が話しやすくなる相づち
気持ちを受け取る返し方
アドバイスの前に確認する言葉
自分の話に移る前のワンクッション
聞き役で疲れすぎないための境界線
今日からできる実践ミッション
人の話を聞く力は、特別な才能ではありません。
少しずつ、相手の言葉を受け取る練習をしていけば大丈夫です。
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