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第174回直木賞候補作『神都の証人』の感想など

1月12日(月)に「ひいろ書店」さんで直木賞読書会が開催されます。私も申し込んだので、この日までに直木賞候補作を1作品以上読むことになりました。

第174回直木賞候補作『神都の証人』

今回、候補作をいろいろ読む時間が取れなくて「1作だけ読むとしたらこれ!」と、大門剛明先生の『神都の証人』を購入しました。この本が第16回山田風太郎賞を受賞した作品だったからです。

山田風太郎賞受賞作が直木賞を受賞するパターンがある

これまで山田風太郎賞の候補作や受賞作が5度、直木賞を受賞しています。

山田風太郎賞を受賞後、直木賞候補になり惜しくも受賞を逃した作品が4つありますが、16回の歴史の中で直木賞を受賞した候補作や受賞作が5つもあるのは、見逃せない事実だと思います。

①第6回山田賞候補作『つまをめとらば』
→第154回直木賞受賞
②第9回山田賞受賞作『宝島』
→第160回直木賞受賞
③第10回山田賞候補作『熱源』    
→第162回直木賞受賞
④第12回山田賞受賞作『黒牢城』   
→第166回直木賞受賞
⑤第13回山田賞受賞作『地図と拳』  
→第168回直木賞受賞

そういう理由で、『神都の証人』を読むことにしました。

あらすじ

神都・伊勢を舞台に、冤罪で殺人犯にされてしまった父の無念を晴らすため娘の波子と法律家たちが、昭和初期から令和まで戦い続ける物語。

みどころ

この物語は伊勢神宮のそばが舞台なので、「お木曳き」が物語の中にしばしば出てきます。伊勢神宮は式年遷宮と言って、20年ごとに社殿を建て替えるそうです。その際、社殿を建てるのに使用する木材(御用材)を陸や川から運ぶそうで、それを「お木曳き」というのだそうです。

何度も「お木曳き」の様子が描かれることで、時間がかなり経過したことが分かり、印象深かったです。何度「お木曳き」が巡ってきてもまだ終わらない戦い。冤罪を晴らすための気の遠くなるような時間の長さを「お木曳き」で表したのは素晴らしいと思いました。

この物語は時間の経過の中で、中心的に描かれる法律家が変わっていきます。しかしどの人物も「冤罪を晴らしたい」という同じ志を持っています。

「人は変わっても志は受け継がれていく」

私は、この「志のリレー」がまるで式年遷宮のようだと思いました。式年遷宮で社殿が変わっても中に祀られている神様は変わりません。同じように冤罪を晴らすために戦う法律家が変わってもその中の「志」自体は変わらないのです。そう考えながら読むと、この物語の深みが増して、とても面白かったです。

この物語は文学的か?

直木賞は大衆文学の賞でありながら、「文学性が低い」という理由で落とされてしまう賞です。過去の選評を読むとそう書かれてあるものがあります。ただ面白いだけでは受賞できないことに直木賞の奥深さもあります。なので、この作品の文学性を探ってみたいと思います。

そもそも「文学的」とはどういうことでしょうか? 新明解国語辞典で、「文学」を引くと、こう書いてありました。

⁑ぶん がく 【文学】
㊀芸術の一様式。体験を純化したり 構想力を駆使したり することによって得られた作中人物の行為や出来事の描写を通じて、「人生いかに生くべきか」という主テーマが読者の想像力と読解力と豊かな感性により自ら感得されることをねらいとするもの。〔普通、小説・詩歌・戯曲を意味し、広義では、随筆・評論を含む〕
「文学性」
㊁学問的対象としての「文学」。文芸学。
「文学概論」
㊂哲学・歴史学・文芸学・社会学などの総称。
「文学博士・文学部」
㊃〔古〕学芸。

新明解国語辞典第八版

どうやら、ただ面白いだけではなく、「人生いかに生くべきか」について考えさせられるものが「文学的」な作品のようです。

『神都の証人』を読みながら、「自分やその周りのことだけを考え、自分たちに関わりがなければそれで良いという考え方」の問題点についていろいろと考えさせられました。読書を通じてこのようなことに思いをめぐらす時間も持つことができたこの小説は、ただ面白いだけではなく、文学的と言えるのではないでしょうか。

今、「冤罪」がテーマの小説が直木賞を受賞する意味

直木賞や芥川賞のように、長い歴史を有する文学賞はタイムマシーンの役割も持っていると思います。これまでの受賞作も、何年か経った後に読み返すことで、その当時に戻ることができます。2024年に冤罪の再審無罪判決が確定した出来事がありました。『神都の証人』は、この時代を後々思い出すためのタイムマシーンの役割を果たすと思います。

他の候補作を読んでいないので予想はできませんが……。

『神都の証人』。とても素晴らしい作品でした。他の候補作を読んでいないので、もしかしたらもっと面白い作品が候補作の中にあるのかもしれませんが、読んで良かったと思いました。選考会で多くの委員が推す作品になることを祈っております。

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