怪談百物語#25 流行病
僕達の間で流行っていた遊びがある。
教室でやっていたからか、学校中に広がっていった。
遊びを作った僕達は流行の発信者なのを学年中に自慢して回っていた。
するとある日、別のクラスの女子が僕達に話があると呼び出した。
「あなた達が流行らせたって言ってるけど、私のお兄ちゃんの方が早かったからね。」
「はあ?ふざけんなよ。俺達が作った遊びなのに嘘つけ。」
「ほんとそう。嘘ばっかだわこいつ。」
「お兄ちゃんの学校で流行ってるのパクったんでしょ?そんなの自慢して恥ずかしくないの。泥棒。」
頭にきた。
「じゃあそのお兄ちゃん呼べよ。」という話になり、放課後学校から一番近い公園で待ち合わせることになった。
ランドセルを置いて公園に向かうと、そこには女の子と僕らより少し年上に見える男の子が待っていた。
たぶんあの子のお兄ちゃんなんだろう。
僕達を見つけると、こちらに小さくに手をあげて挨拶してくれた。
「あなた達遅すぎ。待ちすぎて風邪ひきそうなんだけど。」
後ろの男の子は「いや、さっき来たとこ。」と口パクで申し訳なさそうに首を振っていた。
「こんにちは。そっちの人がお兄さん?」
「そう、はじめまして。うちの妹がごめんね。」
――やっぱりこいつ嘘吐きなんじゃね?お兄さんに責任なすりつけてるっぽいね。
なんてこそこそと話していると、女の子がいきり立って噛みついてくる。
「あなた達が自慢してる遊び、全部嘘!作ったのはうちのお兄ちゃんだし、流行らせたのもお兄ちゃん!謝って!」
大きな声に圧されて言葉が詰まる。
――でも作ったのは俺達なのは本当だし、流行らせたのも俺達。
クラスのみんなはそう言ってくれるし、他のクラスの子達も初めてする遊びだって喜んで一緒に遊んだ。
「どうにも話が分からないんだけど、いったいどういう事?」
お兄さんは何も聞いていないみたいで、話も全く理解できてないみたい。
あきれ顔で女の子を見るけど、顔を真っ赤にしてフーフー言って今にも泣きだしそうだ。
説明できないよなあ。
「あの、俺達こういう遊び作ったんですけど。それがお兄さんが作った遊びに似てるってこの子が言いだして。」
年上の子に話すのは緊張する。
女の子が説明してくれないので僕達四人でたどたどしく説明をする。
話が進むにつれ、お兄さんの顔がだんだん暗くなっていくのがわかる。
――これって本当にお兄さんの方が?いや、俺達で考えたじゃん。うん、でも似たようなのがどこかであったのかも。
不安になって俺達は時々顔を見合わせ相談しながら説明していく。
「そういうことなんだ。ううん、大丈夫。わかりやすかったよ。説明してくれてありがとうね。」
わかりづらかったらごめんなさい、と謝る僕達をお兄さんは微笑みながら労ってくれた。
無理して笑ってるのがわかるくらい表情は曇ってたけど。
女の子も落ち着いたようで、具合の悪そうなお兄さんを「大丈夫?」と心配していた。
「うん、大丈夫。これ早めに話しといた方が良さそうだから。」
そう言ってさっきまでの優しい表情を変え、真剣に僕達を諭すように話し始める。
「その遊びはね、僕達の学校の先輩から聞いたことがあるんだ。先輩はそのまた先輩から、学校で長く受け継がれてきた遊びらしいよ」。
僕達が不満げにしていてもお兄さんは文句ひとつ言わずに話を続ける。
「この遊びは数年に一度だけ、びっくりするほど流行るっていうのも聞いたんだ。先輩の代でも、もう十年以上は流行ってなかったみたいだけどね。どうしてだか僕らがやり始めると流行り出しちゃって。」
学校中が僕達が始めた遊びで盛り上がったんだ、当時は嬉しかったよ。
そう恥ずかし気に話すお兄さんは、学校での僕達の表情と一緒だ。
自慢と照れが混じっていた表情がまた厳しくなった。
「でもこの遊びには続きがあって。」
ここからが本題なんだけど、と言われて僕達も気を引き締める。
「この遊びが流行らなくなって、皆が忘れたころの話なんだけど。
流行の発端となったグループのうち、誰か一人いなくなるんだ。
まるで最初からいなかったみたいに。
誰が消えたのか、仲の良かった子達でも誰一人覚えていないんだ。」
ぷっ、と吹き出す声が聞こえた。
「あははは!嘘だあ!真面目な顔して話すからなんだと思ったけど、兄妹揃って嘘吐きじゃん!」
友達が笑いだす。
「本当だよね!ばっかみたい。時間無駄にしちゃった。」
「遊びにいこうぜー!俺達の作った遊びで!」
皆で笑って公園のアスレチック広場に向かって走り出した。
足の遅い僕は一番後ろで、最後に女の子達の方へ振り向いた。
女の子は顔を真っ赤にして悔しそうに泣いていた。
お兄さんは女の子を慰めながら、何かを諦めたように力なく笑って、僕に手を振ってくれた。
僕は小さく手を挙げて挨拶をして、僕達三人はその日もたくさん遊んで帰った。
それからしばらくして、僕達が作った遊びの流行は終わった。
――お兄さんの話やっぱり本当だったんじゃないかな。
今の僕達の顔、どこかあの時のお兄さんと似てる気がするんだ。
