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怪談百物語#86 寝坊

朝9時に目が覚めた。
遅刻だ、どうあがいても間に合わない。
上司に連絡を入れて優雅な時間を過ごす。
半休だ。
午前中の仕事は少ないらしく、十分手が回るそうだ。
何が起きてもどうにかなる。
この悪運の強さが私の自慢だ。
さて、普段見られない番組でも見ようか。
リビングのソファーに座ってリモコンをポチポチ。
おお、行きたかったレストランが特集されている。
この番組を見たと言えば10%オフか、ラッキー。
さて、そろそろ出かけるか。
手慣れた準備は10分もかからず終わる。
 「いってきます。」
誰もいない部屋に習慣づいた掛け声を置いていく。

朝8時に目が覚めた。
急げば間に合う!
手慣れた準備は5分もかからず終わる。
よし、このまま駅まで走れば。

道路に出た途端、右側から赤色が見えたのは覚えている。
車にはねられたらしい。
過失割合はまだわからないが、謝罪をして以降全て保険会社に任せている。
運転手には悪いことをしてしまった。
それにしても事故に遭うなんて初めてだ。
まったく、俺の悪運はどこいったんだよ。

有難いことに入院生活は楽しいものとなった。
毎日友人のうち何人かが遊びに来てくれるし、読んだ事のない小説を同室の患者さんが貸してくれた。
充実した入院生活を送っている。
その中でも毎日のように来てくれる友人がいる。
だがいつもあまり楽しそうな顔をしていない。
 「会社で何かあったのか?仕事押し付けられたりしていたなら、本当にすまない。」
 「いや、君が悪くないのはわかるけど。そろそろ許してあげて欲しいなって。」
急に話が飛んだのか?
繋がらない話の流れに頭が追い付かない。
 「毎日君が、俺は悪運が良いはずなのにって言うから。すごく気にしてるみたいだよ。その人。」
疑問符が浮かび増えていく。

あまりに間抜けな顔をしていたからだろうか、友人が苦笑して諭すように語りかける。
 「君を守ってくれてる人がね、事故の当日寝坊したみたいなんだ。だからあまり責めずにもう許してあげて欲しいなって。」
もしかして。
そう思って友人に問いかける。
 「その人ってどんな人?男性、女性?」
 「君によく似た男性かな。女性もすぐそばにいるけど。二人とも、君が入院してからずっと申し訳なさそうにしてるよ。」

今は亡き両親の顔を思い出した。
思えば、二人とも俺によく似て寝坊しがちだったな。
俺が似たのか。
友人が帰ってからぼそっとひとり呟いた。
 「父さんや母さんのせいじゃないからさ。ほんと俺が悪いんだ。いつも見守ってくれてありがとうね。」
そっ、と両肩に重みと温かみを感じた。

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