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怪談百物語#87 断捨離

年末のテンションで洗濯機を捨ててしまった。
十年近く使った古い洗濯機で、最近は脱水の度に衣類が偏って止まってしまう。
買い換える分には良い。
だが、単に捨ててしまった。
買い換える予定はない。
一人暮らし用の安いものでも税込みで三万を超える。
年の瀬に三万は無い。
ただでさえホームベーカリーを買ったせいで金欠なんだ。
困った。

ホームベーカリーで餅をつきながら今後を考える。
高級な機種なので、餅はつけるし米でパンが作れる。
野菜を蒸すことだってできる。
でも服は洗えない。
どうしようかと実家の両親に相談した。
週末に洗濯物を送って、洗って送って返してもらえないかと思ったのだ。
母から返信が来た。
httpで始まる、無料で洗濯機を譲ると書かれた記事を紹介された。
場所はうちから電車で三駅離れた場所だった。

父に車を出してもらい、洗濯機を受け取りに向かう。
 「無料で譲っていただくなんて悪いじゃないか。」
 「でも渡せるお金なんてないんだよ。色々買っちゃったし。」

父の小言が車内に響く。
ずっと響く。
踏切、赤信号の度にずっとずっと。
お前は昔からそうだ、とお小遣いの話にまでさかのぼる。
止めてくれ。

俺が何も言えなくなったころ目的地に着いた。
二階建ての一軒家。
しゅうへんの家と比べても比較的新しく見える外見。
それとは裏腹に汚れが染みついた表札。
間違いなくここだ。
取引用のメールで、到着したことを告げるとすぐに玄関のドアが開いた。
 「どうも、この度は「早く持ってってくれる?お願い。」」
食い気味に言われてしまい、父も俺も同じような顔で呆けてしまう。
すぐに背を向けて戻る家主であろう女性。
父と顔を見合わせると、鏡のようによく似ていた。

家に上がって二人で洗濯機を運ぶ。
 「ありがとうございます!大切につ「返すとか言われても受け取らないから、そっちで処分しといて!」」
二人とも無言で洗濯機を車に積み込んだ。
あんな態度だが気を遣ってくれていたようで、水は一切零れない。
一応用意しておいたタオルに書かれたキャラクターが、寂し気にこちらを見つめている。
四つ折りのそれは片目だけで。
 「さっさと帰って飯食うか。一旦うちよってけ、焼肉買ってあるから。」
やったぜ!
久しぶりの焼肉に涎が溢れてくる。
父さん母さんありがとう!

うまかった。
食べ終わってからまた父の運転で洗濯機を家に運ぶ。
捨てた物より少しだけ新しい機種が、少しの間空虚だったスペースに置かれた。
父を見送ると早速洗濯機を回してみた。
何も入れずに回る洗濯機からは汚れ一つでてこない。
綺麗な状態じゃないか。
安心して翌日から選択ができる。
万事塞翁が馬だな。

朝起きると選択が終わっていた。
予約洗濯というらしい。
最近の機種は素晴らしい。
ちょっと古い機種だけど気にしない。
洗濯機の蓋を開けると、びしょぬれの髪をした女性の首が上を向いて洗濯物の中央に鎮座していた。
急いで蓋を閉めて後ろの壁にもたれかかる。
足に力が入らず、ずるずると壁に沿ったあと尻が地面に着く。
歯の根が合わない。
一瞬だけ見た顔が忘れられない。
昨日見た、洗濯機の持ち主の顔によく似た顔だった。

洗濯機には触らないまま、昨日の女性に連絡を取る。
取引用のメールに連絡するも返信が来ない。
まだ評価を終えていないことを思い出した。
そちらから連絡が取れないかアプリを起動するが、アカウントごと消えていた。
直接家に乗り込むか。
昨日の家はどのあたりにあるかと父に聞いたが、そんなこといちいち覚えていないと言われて怒られた。
朝早くにそんなことで連絡するなだと。
理由を話す間もなく通話を切られた。

どうすることもできずに放置したまま出社した。
今日は帰りたくないの、と同僚に冗談交じりで言うと二百円くれた。
酒でも買えだと。
優しいんだろうけどそういう気分じゃなかった。

一応酒を片手に返ってきた。
あの女を追い払えるんじゃないかと思って、一応日本酒のカップ酒を選んだ。
いや、でも怖い。
家中の電気を点けて洗濯機の前に立つ。
何か理由がわかればよかった。
あの女性の正体、何故洗濯機の中にあるかの理由。
何もわからないままのこの状態が怖い。
唾を飲むと一息に蓋を開けた。
放置していたせいか生臭い、生乾きの洗濯物が詰まっていた。

あれから何度か確認するように選択をした。
毎日朝になると洗濯槽の確認。
洗った後に何かないか。
服に汚れは打ちていないか。
早く新しい洗濯機が欲しい。
何も起きない日々が続いている。
おかしかったのは初日の一度だけだ。
それなのに、この洗濯機は使いたくない。
断捨離なんてするもんじゃなかった。
しっかり考えてから捨てればよかった。
この洗濯機を手放した女のように。

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