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怪談百物語#71 寝具

T県に住む友人から聞いた話。

友人にはT県にある家具工房で働く同級生がいる。
高校を卒業してすぐに働いたのはクラスではそいつだけだった。
家具工房は地元から急行電車で二駅ほど離れた工業地帯にある。
たまに会って遊ぶときには
「自転車で通勤してるんだけ、往復だけでクタクタだよ。」
なんて愚痴をよく聞いていた。
毎朝一時間ちょっとの自転車通勤、そりゃ疲れるだろ。
なんて返すと
「電車でずっとこっちを見てくる男がいてさ。時間を変えてもずっといるんだよ。」
どうやらストーカーに狙われているらしい。
男が男に狙われることもあるんだな。
とこの時、友人は軽く考えていた。

それから友人は進級して、また工房で働く同級生と遊ぶ約束をした。
就職して一年経つ頃だ。
どうやらあいつは退職したらしいと他の同級生から聞いた。
その話が聞きたくて会う約束を取り付けた。

当日、同級生は暗い表情で待ち合わせ場所に着いた。
社会人として立派に働いていた姿はそこにはなかった。
やっぱりまだ、お互いに子どもみたいなものだ。
弱弱しい同級生の姿に友人はそう思った。
成人した二人は居酒屋で話をすることになった。
不慣れな注文を死ながら、同級生はぽつりと話し始めた。
 「あの電車でこっちを見てきた男、職場にまで来やがった。」
以前聞いたストーカーだ。
それで会社を辞めたのか、と聞くと「ああ、そうだ。周りに迷惑かけたくないしな。」と言う。
警察を呼んだり、会社の人に助けてもらえばよかったんじゃないか。
そう言うも
 「何をしてもダメだった。警察は話を聞くだけだし、会社の人も迷惑そうにしてるだけだった。」
もうどうしようもなかったんだ。そう言って同級生はテーブルに届いたビールをあおった。

部外者が何を言っても仕方がない。
そう思った友人は、話題を変えるために自分がもうすぐ引っ越すことを同級生に伝えた。
通学に時間がかかっていたので、大学の近くに部屋を借りることにした。
これまでのように遊ぶことができなくなることを伝えた。
すると友人は引っ越しを喜んでくれた。
 「新しい生活か。いいな、引っ越しが決まったら教えてくれ。何かお祝いを送るよ。」
いいってそんなの、と断るも暗い顔が明るくなったのを見ると本格的には断れない。
とりあえず引っ越し先が決まったら連絡することにして、その場はお開きとなった。

引っ越しが決まったのは夏休み頃。
友人はさっそく同級生に連絡した。
 「引っ越しが決まったんだな、おめでとう。そうだ、DIYで良ければ家具作ってやるよ。一応工房で色々作ってたからさ。」
引っ越し費用と家賃でかなりお可燃い困っていた友人は、その申し出に喜んで飛びついた。
できれば寝具が欲しいんだよね。そう伝えると
 「任せとけ。布団は無理だけど、ベッド本体ならつくってやるよ。マットレスも中古で良ければ多分手配できる。」
と力強い返事がもらえた。友人が喜んでいると、ふとあのストーカーのことを思い出した。
 「ああ、それなら解決したから大丈夫。新しい仕事も決まったし、こっちも新生活が楽しみだよ。」
明るい同級生の声が聞けて安心した。

それからしばらくして引っ越し当日。
色んな荷物を業者に頼んで、友人は同級生の運転する軽トラに乗って新居に向かった。
軽トラは社用車らしく、同級生の新しい職場であろう家具工房の名前がデカデカと書かれていた。
 「腕によりをかけて作ったんだ。きっと寝心地は最高だぜ。」
運転する友人は満面の笑みで荷台を指さす。
こんなにしてもらっても何のお礼をできないことを伝えても、気にするなと笑い飛ばしてくれる。
高校時代の姿を思い起こすような、快活な姿。

引っ越し先に着くと、業者の人が荷物を運んでくれる。
 「そのベッドも運びましょうか?」
 「いや、分解してあるんで俺らで運べます。」

業者が申し出るも、同級生が何故かそれを断る。
理由を聞くと
 「少しずつ運んで組み立てていくから、一気に運ばれると邪魔になるんだ。」
と言う。
なるほど、と合点がいったので業者には帰ってもらう。
二人で少しずつ運んで組み立てていく。
 「じゃあ俺は帰るよ。一人で寂しくないか?」
ガハハ、と笑って友人は軽トラに乗り込んだ。
何から何までありがとう、と伝えると
 「おう、気にするな!また遊ぼうぜ!」
窓から手をだしてこちらに振って、同級生は帰っていった。
部屋に戻ると、狭いリビングにはこまごました食器や家具、テーブルが置かれている。
もう今日は寝るか。
友人は寝室へと移動した。
するとさっきまでは気付かなかったが、嫌な臭いが部屋に充満していた。
中古のマットレスが悪いのだろうか。
確か不動産屋からもらった消臭剤が棚に入っていたはず。
荷ほどきしていあにダンボールを避けながら取ってくると、マットレスに思いっきり吹きかける。
ようやく臭いが消えた。
これで休める、とベッドに飛び込む。
マットレスはやけに固かった。
良いマットレスはこんなものなのか?
疑問に思いながら友人は眠りについた。

荷ほどきもようやく終えたころ、友人は悩んでいた。
どうにもマットレスが臭い。
何度消臭剤をかけても、臭いがどんどん強くなってくる。
そろそろ我慢できなくなった友人は同級生に連絡を取った。
しかしメッセージは未読のまま、電話にも出る気配がない。
地元の同級生たちに聞くも誰も連絡先を知らないという。
軽トラに書かれた会社名を思い出しながらネットで調べるも、覚え間違いがあったのか潰れた工房しか出てこない。
まったく、このマットレスをどうしたものか。
使っているうちにスプリングが錆びてきたのか、赤い染みがそこら中に浮き出ている。
困りつつも、その友人は今もそのマットレスを使っているという。

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