怪談百物語#77 英雄ごっこ
バイト終わりの帰り道。
家の近所で小学生くらいの子達がキャーキャー騒いでいた。
よほど楽しいのか、笑う口元が妙に目立って見える。
道路のど真ん中はさすがに危ないと思ったけれど、注意しに行くとこっちが不審者扱いされる。
ため息をついて十まりで帰ろうと来た道を戻る。
家に着くとキッチンには父が立っていた。
「ただいま。今日はカレー?」
「おかえり。よくわかったなあ。」
父はカレーしか作れない。
トラックの運転手として日本中を走る父は、かなりフレキシブルな勤務体系。
早く終わったり休みの日にはこうしてカレーを作ってくれる。
食卓でスマホを触りながら出来上がるのを待っているが、母は一向に帰ってこない。
「母さんは今日も遅くなる?」
「だろうなあ。二人で寂しく食べようか。」
できたぞー、とホカホカの山盛りご飯とカレー鍋が食卓に置かれる。
福神漬けと水を持って来ると父は準備万端だ。
僕も急いでカレーをご飯にかけた。
「いただきます。」
お皿を洗い終えて時計を見ると、針は20時を指していた。
そろそろ母が帰ってくる時間だ。
「ただいまー。」
噂をすれば、玄関から母の声が聞こえる。
カレーカレー、と歌いながらリビングに入ってくる母。
スーツが少し汚れている。
「母さん、その汚れどうしたの?」
ん?と体中見回すと汚れを見つけて悲鳴を上げる。
「あの人を運んだ時についたのね。あーもう、やっちゃった。」
母によると、人が倒れていたので救急車を呼んであげたそうだ。
場所は近所の道路のど真ん中。
男性が倒れていて、危ないから道路の端に寄せた。
その時に汚れたんだ、と。
「あの人何があったのかわからないけど、体中に小っちゃい歯型がついていたのよ。」
涎ついてるかも、と洗う手間にいら立つ母。
それを横目に僕は夕方の小学生たちを思い出していた。
まさかね。
でも一応避けて帰って良かったのかもしれない、と少しほっとした。
