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怪談百物語#21 マッサージ

「プレオープン中です!ぜひお試しくださーい!」
商店街中に響くほどの大声が聞こえる。
良く通る声に気を引かれてそちらを見ると、どうやらマッサージ店の従業員が呼び込みをしているようだ。
「ただいま無料で頭皮マッサージ行っております!次回割引のクーポンもお配りしております!」
近くで見た笑顔は溌剌としていてやる気に満ち溢れていた。
あの人みたいに元気になるなら、一度行ってみるのもいいな。
受け取ったチラシに目を落とす。
商店街の端、ずっと空き店舗だったあそこのテナントに入ったようだ。
日本でも有数の歴史を持つ、地元でも有名な商店街だ。
ここから5分ほど歩いたところに私の実家がある。
小学生のころにはあそこのスーパーでお母さんと買い物に来ていた。
中学生になったら向こうに見えるゲームセンターで遊んで、たまに先生にバレて怒られたものだ。
高校生になってバイトを始めると、帰りにお弁当買ってきてと母に頼まれ、そこのお弁当屋さんでよく買って帰った。
私はこの商店街で育ったようなものだ。
だが、あそこのテナントのシャッターが開いたところは一度も見たこともない。
そんな不人気な場所で大丈夫なのだろうか。
少し失礼なことを考えながら、気になったので様子を見に行く。
商店街をしばらく歩くと店の様子がうかがえる。
店の様子は見えないが、顔見知りのおばさま方たくさん並んでいるのが見えた。
大丈夫そうで何よりだ。
おばさま方に見つかる前に帰ろう。
急いで踵を返した。
あの人たちん見つかると話が長いからなあ。
今度空いているときにでも行ってみようか。
最近目がかすむので、頭皮マッサージでも頼もうかな。
クーポンをお財布へ大事に挟んで、今日は帰ることにした。

それからしばらく仕事が忙しくなり、商店街に寄る元気もなく真っ直ぐ帰宅する日が続いた。
ようやく仕事も落ち着き、迎えた給料日。
上司曰く、今月の給料には寸志がついているそうだ。
やった。ケーキでも買って帰ろうか。
早速駅のATMでお金を降ろして、商店街にある行きつけのケーキ屋さんに向かう。
店長さんおすすめの季節のフルーツタルト。
それと私の大好きなモンブランが1つだけ残っていたので、それを頼んでお会計を待つ。
「今月もお疲れ様。保冷材は?」
「ありがとう。大丈夫です、すぐ帰るんで。」
「そう、いつもありがとうね。ケーキ2点で890円だよ。」

そう言われてお財布を探っていると、くしゃくしゃになった紙を見つけた。
行こう行こうと思っていたマッサージ店のクーポンだった。
利用期限は今月末。
丁度いい、今日は贅沢しよう。
店長さんに謝って保冷剤を1つ入れてもらう。
「ごめんね、おじさん。ちょっと寄るとこ思い出してさ。」
「そうかい、気を付けてな。お母さんによろしく言っといてね。」

笑顔で見送られて店を出る。
どんなマッサージが受けられるのだろうか。
頭皮だけじゃなく足もやってもらおうかな。
わくわくしながらマッサージ店に向かう。

やった、今日はツイてる。
お店の前には誰も並んでいない。
足どり軽く手お店の前に立つと、少しだけ勢いよくドアを押して店内に入る。
入ってすぐ左に靴箱らしき棚が置かれていた。
棚の上には「ここでスリッパに履き替えて席に座ってお待ちください。」と書かれた紙が貼られている。
新しくできた店のはずなのに、貼られた紙に染みが浮かんでいた。
ここはあまり期待できそうにない。
不潔なマッサージ店はちょっとなあ。
上がっていた気持ちが落ち込んでしまった。
まあ足のマッサージくらいならすぐに終わるだろうし、クーポンもあるから一度だけ。
そう思いスリッパに履き替え受付に向かう。
合皮でできた緑の古めかしいスリッパ。
「はあ。」
ため息が口をつく。
まあ初回は安いし、とクーポンを出して店員さんが来るのを待つ。
クーポンにのっている写真には、新しくて清潔な店内がうつっていた。
詐欺じゃない?もう一度ため息。
「お待たせいたしました。」
ヒッ、と驚きで息をのむ。
いつ来たのか、受付には店員さんが立っていた。
「こちらにご記入お願いします。」
紙と鉛筆を渡されたので、名前と住所と希望するマッサージの内容を記入する。
記入欄の文字が非常に達筆なのに驚いた。
手書きだろうか、マッサージを按摩と書くお店は初めてだ。
記入を終えて店員さんに渡す。
「そのままお待ちください。」
待合室にいるよう求められたので、座って呼ばれるのを待つ。
お客さんがいないのに待つのか、またため息ひとつ。
ケーキもあるのに、また明日にすればよかったかな。
これで腕が悪ければと思うとさらに気が滅入ってしまった。

誰もいない待合室で硬いソファーに座ってしばらく待つ。
呼ばれる気配がない。
5分、10分、15分。
時間がどんどん過ぎていく。
中は忙しいのかと思い受付を覗く。
誰も見えない。それどころか物音ひとつしない。
20分。
ケーキが心配になってくる。
それに、いい加減何の説明もなく待たされることに腹が立ってきた。
「すみませーん!」
店中に声が響く。だが店員さんは出てこない。
もういいや。
「すみません、今日はもう帰ります!」
どのくらい待つかくらい説明してくれれば、時間を無駄にすることもなかった。
いらだちもあって強い口調になってしまった。
少し罪悪感を抱いて家に帰った。
迎えてくれた母と一緒にケーキを食べて、少し落ち鬱いた。
「いつもおつかれさま。」
お風呂わいてるよ、と言われて心が安らぐ。
マッサージ、また明日行ってみようかな。お風呂に入りながら考える。
いきなり帰ったことも謝ろう。
商店街とは長い付き合いだから、あのお店との仲も良くしていきたい。
子どものころからお世話になってるから。

翌日の仕事終わりにもう一度マッサージ店に向かった。
だが定休日なのか店は閉まっており、その日は帰ることにした。
いつお店が開いてるのかネットで調べることにした。
するとお店が入っているテナントに関するニュースが一番にヒットした。

ニュースによると、あそこは私の母が生まれるよりも前にはマッサージ店だったそうだ。
最新鋭の機械を揃えており、商店街自慢の店になると周囲から期待を寄せられていた。
だがその機械がまずかった。
当時の最先端技術と言えば放射線だった。
施術に使われた機械は、今よりも緩い法の下で決められた安全基準で開発されたものだった。
そのせいなのかは不明だが、施術後に体調を崩す人が多くそのうちの何人かは死亡に至った。
店の関係者の状態はさらにひどく、それほど経たずに全員死亡した。

ニュースにはそう書かれていた。

嫌な歴史があるリッチなのに、よくあそこでお店を始めたなあ。
あきれながら検索を続けるとお店のホームページが見つかった。
開店日と開店時間を確認する。
あれ?
開店日は月・水・金、開店時間は9時から17時。
私の仕事は大体18時に終わる。
おかしい。
終わるのが早い日でも、それから電車に乗って帰ることを含めると間に合わない。
店の閉店時間より遅くなる。
閉店時間が過ぎていたから、あんなに対応が悪かったのかな?

それから何度か商店街に通っているが、タイミングが悪くマッサージのお店が開いてる時間には行けていない。
あの日入ったお店と同じ内装なのか気になってはいるのだけれど。

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