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怪談百物語#61 屋台飯

短腕へ出張することになった。
どんな国か調べているうちにうまそうな画像を見つけた。
 「屋台飯か。」
台湾の夜は夜店の屋台飯で決まり!というブログを読んでいく。
聞いたことのない名前とうまそうな画像がたくさん載っている。
調べるのに夢中になって時間を忘れた。
時計を見ると19時、夕食はまだだ。
 「この辺にあるかな。」
台湾料理の店を検索してみた。

意外と近くにあった。
自転車で15分の距離、時間は20時。
今なら何でも上手く食べられそうなちょうど良い空腹感。
 「こんばんはー。」
店のドアを開けると独特なスパイスの香りが漂う。
小さな店内にはコック帽をかぶった男性が一人、髪を上でまとめた美しい女性が一人。
 「いらっしゃいませ、お好きな席どうぞー。」
流ちょうな日本語だがおそらくは本場の方だろう。
どことなく漂う異国感に期待が高まる。
奥に座るあの女性も日本人じゃなさそうだ。
店に馴染む姿から、おそらく調理場の彼と同郷なんじゃないだろうか。
見つめていると女性が顔を上げ、目が合う。
にこりと笑う姿も綺麗だ。
会釈を返すと女性はまた視線を下げた。
テーブルの上に料理はない。
調理が遅いのだろうか、私も早く注文しなければ。

お盆にごと料理がテーブルに置かれる。
 「お待たせしました、ルーローハン定食です。ごゆっくりどうぞー。」
にっこりと愛想の良い接客は素晴らしい。
出された料理もめちゃくちゃうまそうだ。
 「いただきます。」
早速手を合わせて端を進める。
豚の旨味が出た濃厚で香ばしいスープが、お米に染み込んでとてもおいしい。
少しばかりピリッとくる子のスパイスは八角だろうか。
他にも独特な香りが漂い食欲を掻き立てる。

あっという間に食べ終えた。
 「ごちそうさまでした。」
手を合わせて会計の準備をする。
食事に夢中になって忘れていたが、奥の女性に目が行く。
テーブルは綺麗なままで食事を済ませた形跡がない。
お店の関係者なのか。
それにしては座っているだけなのもおかしい。

見ているうちに女性は席を立ち、厨房に立つ男性の下へと向かう。
男性の耳元で何かを話すと、少し後ろに下がって何かを待つようにつっ立っている。
何かに気付いたように皿洗いを中断し、男性は奥の棚から小さな箱を大事そうに取り出した。
ここからだと良く見えないが、その箱にはおふだ?おさつのような赤い紙切れがぎっしりと入っていた。
男性はそのおさつを数枚取り出すと調理場に戻る。
コンロに火を入れたかと思うと、おもむろにそのおさつを燃やし始めた。
綺麗な炎が明かり、煤となった紙が宙に舞ってボロボロと熱気にあおられ崩れていく。

突然の異国情緒あふれる幻想的な光景を前に、私は財布も出さずにボーっと見つめることしかできないでいた。
 「お待たせいたしました。美味しかったですか?」
帰る準備をする私に気付いたのか、最初と変わらない愛想の良い笑みを浮かべながら男性がこちらに来る。
 「あのさっき会何を燃やしたんですか?」
単刀直入に聞くと男性は頭を書きながら答えた。
 「あれはあの世のお金です。私は日本にきて店を開きました。夫婦でがんばりました。でも妻すぐ亡くして、故郷のお葬式しました。でも妻まだここに居ます。お腹空いてもご飯食べられません。だから死後のお金渡して、向こうの屋台で何か食べてもらえればと。あの世のお金、燃やして渡してます。」

笑顔の男性にも悲しい人生があるんだな。
涙もろい私はすでにグスグス泣きそうになっている。
 「そうなんですね。それじゃああの女性が奥さんなんですね。」
ハテナを浮かべる男性に、ずっと店にいた女性の背格好をできるだけ詳細に伝えた。
 「ああ、それは妻です。元気そうにしてましたか、嬉しいです。」
美人でしょ、と涙の浮かぶ笑顔を見て私はもう我慢できなかった。
はい、とても美人でした。と訳の分からない返事をしながら会計を済ませる。


いや、良い店だった。
また食べに来よう。
次は朝食の豆乳スープも気になるな。
朝も奥さんはあの店にいるのだろうか。
夫婦仲良くやっているあの店が、長く続くように私は祈った。

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