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怪談百物語#63 7/30

世間では最近メタバースが流行りらしい。
俺達がやってるこれもそのメタバース?なんだろうか。
ネットで繋がる世界で、アバターを使って。
この世界で俺はライブ観戦に嵌っている。

現実じゃ集まりにくいご時世だ。
趣味のライブ観戦も、ライブハウスが閉まっているせいでご無沙汰だ。
こっちの世界ならいつでもライブが見られる。
ありがたい世界だ。

演奏する側にとっても、時間だけ合わせればすぐに集まれるので便利らしい。
CGでできたこの世界ならいつでもどこでも盛り上がれるというわけだ。

今夜は友人のバンドがステージに立つらしい。
俺がいつも通っているライブハウスなので、広場で待ち合わせてからライブハウスへ向かう。
落ち合った友人は手ぶらだ。
楽器も何も持たなくていい。
部屋に置いてあるのをPCに繋げるだけ。
でかい荷物を持ち歩く必要がないのもこの世界の利点なんだ、と友人と話しながらライブハウスへ向かう。

ライブハウスに着くと一旦お別れ。
向こうは打ち合わせでオーナーと話すらしい。

ステージの前にはすでに観客が数名集まっていた。
画面の右下に18/30と表示されている。
30人入れるライブハウスに、開始前なのにもう18人も入っているということだ。

友人のバンドは結構な人気らしく、ファンも多い。
現実では鳴かず飛ばずだったので、友人の俺も嬉しい。
やっぱり顔か?なんて友人は話していた。
単にネットのおかげで友人のバンドを知る機会が増えて、そのおかげでファンが増えたんじゃないかと俺は思っている。
まあ見た目が理由の可能性も大いにあるとは思う。
あそこのバンドメンバー、人間離れしてるんだよなあ。

ライブが始まった。
ステージ上では四人が全力で演奏している。

3Dの小さなポメラニアンがドラムを壊さんばかりに叩いて。
ギターを咥えたトナカイが大きく首を振り回して。
如何にも宇宙人な女の子が男声で叫んで。
その横で友人がベースを弾いている。

現実のライブじゃできないパフォーマンス。
それを上回る熱い演奏。
特にドラムのポメラニアンはいつにもまして激しい演奏だ。
観客も今にもとびかからんばかりにステージ前で暴れている。
画面の右下に表示されている人数は30/30、満席だ。
ライブハウスは熱気で包まれている。

ライブが終わり、観客が次々に消えていく。
ネットからログアウトするだけで帰れるのも利点かもしれないな。
友人達は、最後の観客が消えるまでお礼を言い続けていた。

 「いやあ、お疲れ。今日の演奏もよかったよ。」
このCGの世界でライブハウスを運営しているオーナーさんだ。
俺も友人達もいつもお世話になっている。
 「いつも使わせていただいてありがとうございます。全力で演奏させてもらいました。」
 「ほんとここ最高です。ずっと演奏してたかったなあ。」

バンドメンバーとオーナーの会話に混ぜてもらう。
ここのオーナーは現実でもライブハウスを経営している。
そこの常連だった俺が友人のバンドを紹介して、今に至る。

 「今日の演奏はいつにもまして激しかったよ。」
 「いやもう今日は嫌なことがあったんで。いつもよりガンガンやらせてもらいましたよ。」

ポメラニアンは熱気が抜けないようで、息も荒く答える。

 「本当なら打ち上げしたいんだけどね、こっちだとそれも難しいから。」
 「えーっと、メンバーが四人とオーナーと俺とで六人か。今じゃ外でも飲めない人数ですよ。」

しばらく打ち上げはお預けかな、とオーナーは寂しそうに肩を落とす。
元気出して下さいよー!バンドメンバーがわちゃわちゃとオーナーを慰める。

俺は一歩引いていたからか、おかしなことに気付いた。
画面の右下には7/30と表示されている。
この場にいるのは全員で六人だ。

まあCGの世界だ、バグの一つや二つあるんだろうな。
帰った観客のデータが更新されずに残っているのかもしれない。
 「じゃあまた来月、よろしくお願いします!」
 「うん。いつもありがとうね。店の方にもいつでも来て良いからね。」

閉めてるから誰もいないけどね、と笑えない冗談が飛んでくる。
どう反応すればいいんだ。
苦笑いのままボーカルの宇宙人が消えていく。
 「それじゃ僕もそろそろ。失礼します。」
ギターのトナカイも続いて消える。

右下の数字は5/30と表示されている。
更新が遅いだけでちゃんと減っては行くようだ。
まあオーナーも気にしてないみたいだし、大丈夫か。
 「俺もやることあるから帰るわ。またな。」
ドラムのポメラニアンが消える。

右下の表示が直ったようで、数字は3/30に変化した。
 「じゃあ俺らもそろそろお暇しようか。」
 「そうだね。それじゃあオーナー。来月またお邪魔しますね。」

友人を連れてログアウトする。
時間は23時、風呂に入って明日の準備をしないと。

翌朝、スマホの着信音で目が覚めた。
寝ぼけ眼で確認すると、友人からのメッセージが届いていた。
 「おい、ニュース見たか?」
急いでいるのか、メッセージの直後にリンクが送られてきた。
タップして確認するとどうやら殺人事件のようだ。

――昨夜、男性が同居する妻を殺害し逮捕。

短い見出しの良くあるニュースだ。
送ってくるってことは関係者かなにかだろうか。
まわらない頭で聞いてみる。
 「知り合いか?」
直接的過ぎたかもしれない。
メッセージを削除しようとするも、先に友人から電話がかかってきた。
 「おはよう。ニュース見たけどあれ、知り合いだったのか?」
気遣いながら窺うように友人に聞く。
 「ああ。ドラムだよ、うちの。あいつ逮捕されたんだ。奥さん殺して。」
時間的にライブが始まる前だよな、たぶん。
そう言う友人の声は震えていた。

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