家から徒歩3分のトンネルのラクガキ
日本国、というか、わりと世界中のどこでもそうではないかと思うのですが、公共の施設や建造物へのラクガキは、法律で禁じられています。
バンク○ー氏など、なんとなく赦されている事例もあるにはありますが、あんなものは世界的に見ても特例のようです。
特になんの芸術的センスも持たない一般人が、「S○X」だの「090-XXXX-XXXX 即ハメOK」などとマジックやスプレーで描くのは、刑法第260条となる建造物等損壊罪と見做され、5年以下の懲役が科されます。
罰金刑は存在しないそうなので、お金を払っておけばチャラになる、などということはありません。
おそらくは大抵が執行猶予つきになるのでしょうが、誰でもやろうと思えばできる手軽さと、ブタ箱へブチ込まれるリスクの大きさが合っていないような気がしないでもない。いや、ダメなものはダメなんだけど。
無論のこと、バン○シー氏の拠点であるイギリスでも「Criminal Damage Act 1971(1971年刑事損壊法)」に該当する犯罪です。どうでもいいけど「Criminal Damage Act 1971」ってバンド名っぽくてかっこいいな。
さて、ラクガキが描かれている場所といえば、自分はトンネルの中が思い浮かびます。
小さい頃に住んでいた家は、裏手に高速道路があって、その高速道路の真下には、数百メートルおきに、いくつものトンネルが設置されていました。
特に、家からいちばん近いトンネルなんかは、徒歩3分で行けるような距離にありました。
そのトンネルの向こう側にはずっと「立ち入り禁止」の看板がかかっていて、そこから先は通れないように塞がれていました。
要するに、トンネルの先はずっと工事中で、工事が終わるまでの間、実質的に行き止まりになっていたのです。
つまり、通り抜けることができない。
地元の人々はみんなそれを知っているので、誰もこのトンネルには来ません。
自分はそれを気に入って、一時期は秘密基地のような気分でやってきては、地べたに座って、ゲームボーイポケットを起動させるのでした。おかげで視力は一気に下がりました。
トンネルの中でゲームをやると目が悪くなるので、良い子は真似しちゃダメだぞ。でも、ちょうど今みたいな夏休みの炎天下に於いては、トンネルって涼しくて快適なんだよなあ……。
内部は当時の時点でかなり年季が入っており、独特の匂いがしました。というかもっとはっきりいうと、臭かったような気がする。
しかし、家の目の前が田圃とドブ川、畦道は俺たちの庭、ドブ川の溝にくっついた蝉の脱け殻を拾い集めては破壊するのが僕の夏の思い出、いうような環境に育ったせいで、当時の自分の衛生に対する意識は非常に低かったので、あまり気になりませんでした。
今おもえば絶好の立ちションスポットだったので、酔っ払ったお父さんなどが夜中にアンモニアを撒き散らしていた可能性もあるのですけどね……。
汚い話はともかくとして、というかこれもまた汚い話にはなるのですが、トンネルの壁には、ありとあらゆるところにラクガキがありました。
そのほとんどが、解読不能の言語。
「SEX」とか「即ハメ」とかも書かれていたと思われますが、まだ自分は健全だったので、もし書かれていても、その意味はわかりませんでした。ラクガキの大半は、読めないような乱雑なもの。
もはや、文字と呼べるようなものなのかどうかもわからない。かといって、これが絵だとも思えない。そのよくわからない赤や緑や黄土色のサイケデリックな彩色が、トンネル内の光に照らされている。
まるで異世界のよう。家から徒歩1分なのに。
のび太の部屋の隣がアニマル星に繋がっていたのと同様に、うちの家もこのトンネルと繋がっている……。
まあ、オシャレなアニマル星と違って、このトンネルは薄汚いのですが。チッポの住んでいる洋風の一軒家は、団地のアパート暮らしだった自分には憧れだったなあ。
すぐ上が高速道路だというのも、なんとなく異世界感を演出していました。真上を走る車の音が、終始ガンガン聞こえる。
神戸へと向かう車、京都へと向かう車、もっと遠くの広島や名古屋へと向かう車。たくさんの車たちが頭上を行き交っている。
見たことのない街へと向かう車たち。誰が描いたのかわからないラクガキ。世の中には未知のものだらけ。
なんとなくワクワクする。マサラタウンにさよならバイバイしたサトシの気分になる。家から3分しか歩いていないのだが。
しかし、その日々はそう長くは続きませんでした。
しばらくしてトンネルの先の道路が開通し、人も自転車も車もバンバン通るようになってしまって、全く秘密基地ではなくなってしまったのです。ラクガキもいつのまにか消されていました。
地元では街のクリンリネスへの意識が高くなり、早い段階で路上喫煙の罰金を設定したり、路上駐車の取り締まりを厳格化しており、現在はゴミもほとんど落ちておらず、近所にたくさんあった放置車両もすべてどこかに運ばれていきました。
もちろん、壁のラクガキなんて全く見かけることがありません。つまりは治安が良くなったということで、喜ばしい限り。
なのですが、あのラクガキだらけの臭いトンネルを懐かしくも思うのです。
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サウナはたのしい。
