『家庭という名の「最小組織」を経営せよ』〜PMと人事が「共働き」をハックして導き出した、時間と手取りの全体最適〜
まえがき:家庭という組織に、経営戦略を実装する
夫が勤務時間中、廊下に寝そべり土間を覗き込むようにして、5歳の息子と掘ってきた化石をひたすらカリカリとクリーニングしている―。
会社の人が見たらいかにも怒られそうな光景ですが、私はその姿を横目で見ながら「何やってんだか…」と呆れるのみ。なぜなら、彼が勤務中に化石を磨けるほどの圧倒的な「余白時間」を捻出できていることこそが、我が家という組織における『全体最適』の形だからです。
夫は元々ソフトウェアエンジニアで、プログラミングはお手のものです。以前から、職場のチャットが「離席中」にならないようにするため、5分に1回自動でマウスを動かす自作のプログラムを平然と使っていました(笑)。
最近の彼はさらに進化(人としては退化?)しており、プロジェクト資料のレビューなどのタスクをすべて生成AIに丸投げし、自分は「承認ボタンをポチポチするだけの簡単なお仕事」に終始しています。
先月なんて社内でAIを使いすぎたせいで利用制限がかかってしまったそうで、「やばい、サボれない」と焦っている時さえありました(笑)。
真面目な人事の私から見れば、「こうやってサボる人がいるから、企業が出社回帰に向かうんだよな…」と思わなくはありません。
ですが、私は夫のその姿を見ても注意したりはしません。彼が平日の日中にそうやって自分の時間を楽しみ、家事を驚異的な効率で終わらせてくれていることが、家庭の利益に繋がっていると知っているからです。
私たちは、それぞれ別の東証プライム上場メーカー勤務で、夫はPM(プロジェクトマネージャー)、私は採用人事として働いています。そんな会社員夫婦が、揃って1年間の育児休業を取得し、先日同じタイミングで職場復帰を果たしました。
元々は2人ともフルタイム復帰の予定だったのですが、わけあって揃って時短勤務でスタートすることになりました。しかし、実際に働き始めてわずか1か月。夫は早々にフルタイムへと戻る決断をします。
かといって、世間でよくある「妻だけが時短をとってキャリアをセーブし、家事育児もメインで引き受ける」という、テンプレ通りの両立のカタチに落ち着いたわけではありません。私たちは、形骸化した世間の普通をすり抜け、我が家にとって一番心地よく、かつ家計のメリットも最大化できる独自のスタイルへと舵を切ったのです。
これは、国の給付金制度や会社の仕組みを夫婦でシビアに計算し、お互いの得意・不得意をパズルのように組み合わせて導き出した、我が家なりの泥臭い「家庭の経営戦略」の記録です。
第1章:「2人時短」というファーストアクションと、大企業の制度の罠

💡 復職前説明会での予期せぬ「人事的ハック」
きっかけは、復帰数か月前に参加した「復職前説明会」でした。
もともと仕事が好きな私たち夫婦は、2人ともフルタイムで復帰する前提で、下の子の入園申請を行い、無事上の子と同じ園で内定も出ていました。
ただし我が家の居住自治体では、時短勤務で復帰する場合でも、1日6時間以上勤務すれば、雇用契約上の勤務時間(つまりフルタイム)で利用調整されます。「万が一後から時短に変更したくなっても、退園させられることは無い」と事前に確認だけはしていました。
会社の説明会に向けたアンケートでも「フルタイム勤務予定」と書いていたのですが、同時期に復帰予定のパパママがたくさん参加するその説明会で、昨年から始まった「育児時短就業給付金」という国の制度についての詳しい説明や、時短予定者の質疑応答を横から聞いていたところ、私の人事としてのアンテナが働いたのです。
説明会担当だった人事部の同僚から、以下のような裏ワザ的なアドバイスがありました。
「ひとまず全員、時短勤務の申請はした方がいいと思います。フルタイム予定の人も、お子さんのお熱などで勤務時間が足りなくなるかも知れません。給付金は総労働時間が足りない月だけ支給されるため、申請しておいて、結果的にフルタイムで働く月があっても問題はありません。」
それを聞いた私は、「ならおすすめに従って一旦は時短で復帰してみようかな。もし仕事が忙しくてオーバーしてしまう月があっても、その時は給料を普通に貰えるだけだし。」という軽い気持ちで決定しました。
一方、夫はその話を伝えても特に「それなら私も」とはならず、予定通りフルタイムで復帰するつもりで手続きを進めていました。
そもそも仕事好きな夫が今回1年もの育休を取ってくれたのは、今の会社に5年ほど在籍してほぼすべてのプロジェクトを経験し、「そろそろ転職かな」と考えていた時期だったからです。
実際に復帰を前に転職活動もしてみたのですが、「男性で1年育休を取得し、さらに有給消化をしてから転職」というのは面接で少し変な空気になることもあったそうで、残念ながらこのタイミングでのご縁はありませんでした。
「転職しないのなら」と、この給付金のお得な話に乗っかり、復帰直後からいきなりヘビーなプロジェクトにアサインされる危険を避ける手段として、最初のうちはのらりくらりと「2人で時短」にしてみようか、ということになり、急遽方向転換をしたのです。
📉 制度が突きつけるデメリットと、夫の決断
こうして私たちは時短勤務を選択し、GW明けからそれぞれの職場に復帰しました。 しかし、実際に1か月間この「2人時短システム」を回してみたところ、思わぬ誤算に直面することになります。
まず、福利厚生サービスの「カフェテリアポイント」です。人事制度など、難しい説明文書を読むのが大の苦手な夫(育休の手続きなどもすべて私が代行しました)曰く、「時短になったせいで、今年度使えるポイントが元の2割以下に激減している!」とのことでした。
(他社の制度のことはよく分からないものの、人事の私からすると「大手企業がそこまで時短者に不利な制度にするかな? ほぼ1年育休を取っていたため、今期は稼働月分のみの付与になっているだけでは?」と密かに思っています。)
真偽はどうあれ、下の子が毎週のように体調を崩し、その都度1日数千円の病児保育を使い倒している今この瞬間に、半額補助として使えるポイントがないのは、家計にとってダイレクトな損失です。
さらに追い打ちをかけたのが、賞与と給与の算定ルールでした。夫の会社は制度の運用がしっかりしており、時短を申請すればきっちりその時間でタイムカードを切って上がれる素晴らしい環境です。しかし裏を返せば、申請した時間の稼働率通りに、基本給もボーナスも確実に減額されるということ。
夫のフルリモートOKという自由な働き方や、有給休暇が数十日溜まっていて消費しないと消えてしまう現状を並べてみた時、わざわざこれだけのデメリットを背負ってまで、夫が時短を続ける意味はありませんでした。
「別に時短じゃなくても業務は回せるし、それならちゃんと稼げるフルタイムに戻した方が良いよね」
復職わずか1か月で、夫は早々にフルタイム勤務に戻り、残業代もきっちり申請するスタイルへとシフトして、家庭全体のキャッシュフローを最大化することにしたのです。
第2章:人事が教える「給付金シミュレーション」と、私の現場のリアル
📊 知らないと損をする、残業代が生み出す「手取り逆転」のカラクリ
一方、私の場合は少し事情が違っていました。
夫が勤める巨大企業とは違い、その2%にも満たない規模感の我が社では、時短勤務者であってもガッツリ「1人分の戦力」としてカウントしないと現場が回りません。
加えて、勤務時間は「月のトータル」で柔軟に管理される傾向にあり、出社の日は短く、在宅の日は長く働くといったコントロールが各自に委ねられています。つまり、時短勤務をしていても、「業務量に合わせて必要な分だけ働き、給与は実際の稼働率に応じて支払う」という風土があったのです。
ここで、なぜ私が「時短復帰」にお得感を見出したのか、その理由を人事目線で解説させてください。
昨年度に新しく始まった国の制度「育児時短就業給付金」は、子供が2歳になるまで(厳密には2歳の誕生日の前々日が含まれる月まで)、時短勤務中に支払われた賃金の「最大10%」の補助が、雇用保険から支給される制度です。

最大のポイントは、その算定根拠が「産休直前6か月の実績平均」になること。つまり、残業代を含めた産休前の給料と比べて、復帰後の給料が10%以上減少していれば、新月収の10%が支給されるという仕組みです。
(※減少した額が全額補填されるわけではなく、あくまで「復帰後の給料の10%」が支給額の上限となります)
この「10%以上減少」という条件。実は、産休前に残業をしていた人ほど、この条件を楽々とクリアできる仕組みになっています。
わかりやすく、一般的な「1日8時間勤務」の社員を例にして、産休前の残業時間別に「何時間の時短申請をすれば給付金が満額(10%)もらえて、フルタイム復帰(残業ゼロ)よりもお得になるのか」を、「基本給30万円」の場合でシミュレーションしてみましょう。
🧮 産休前の「残業時間別」手取りシミュレーション
【基準】フルタイム復帰(残業ゼロ)の場合
額面月収:30万円 …… (A)
💰 毎月の手取り:約24万円 …… (a)
(※わかりやすく手取りを額面の約8割として算出)
この「手取り24万円(a)」を基準として、産休前の残業時間別に、3つのパターンを見ていきます。
パターンA:産休前に「月15時間以上」残業していた人
👉 結論:「月にたった1時間」の時短でも、手取りがフルタイムを上回る!
【産休前の月収】 約33.6万円((A)+ 15時間分の残業代約3.6万)
【満額支給の条件】 33.6万円 − 10%(3.36万円) = 約30.2万円以下になること
つまり、元々平均15時間以上残業していた人は、復帰後に残業をゼロにするだけで支給条件をクリアできます。そのため、極端な話、「月にたった1時間だけ」マイナスになるようなわずかな時短申請でも、満額支給されます。(※時短申請できる単位は会社によります)
▼「月1時間」時短した場合のシミュレーション
額面月収:約29.8万円 ➔ 手取り:約23.8万円 …… (b1)
給付金額:2.98万円(新月収の10%) …… (c1)
💰 合計手取り:約26.7万円((b1)+(c1))
(※給付金は非課税のため全額手取りにプラスされます)
💡 基準(a)のフルタイム復帰より、毎月の手取りが「約2.7万円」増える完全な逆転現象!
パターンB:産休前に「月10時間」残業していた人
👉 結論:「1日30分」の時短で、手取りがフルタイムを上回る!
【産休前の月収】 約32.4万円((A)+ 10時間分の残業代約2.4万)
【満額支給の条件】 32.4万円 − 10%(3.24万円) = 約29.1万円以下になること
残業ゼロ(基本給30万円)のままだとボーダーを少し超えてしまうため、「1日30分の時短」を申請して基本給を下げれば条件をクリアします。
▼「1日30分」時短した場合のシミュレーション
額面月収:約28.1万円 ➔ 手取り:約22.5万円 …… (b2)
給付金額:2.81万円(新月収の10%) …… (c2)
💰 合計手取り:約25.3万円((b2)+(c2))
💡 毎日30分早く帰れるのに、基準(a)のフルタイム復帰より手取りが「約1.3万円」増える逆転現象!
パターンC:産休前に「残業ゼロ」だった人
👉 結論:「1日1時間」の時短で、満額の給付金がもらえる!
【産休前の月収】 30万円((A)のみ)
【満額支給の条件】 30万円 − 10%(3万円) = 27.0万円以下になること
ボーダーをクリアして満額もらうためには、「1日1時間の時短」を取ってきっちり基本給を下げる必要があります。
▼「1日1時間」時短した場合のシミュレーション
額面月収:約26.2万円 ➔ 手取り:約21.0万円 …… (b3)
給付金額:2.62万円(新月収の10%) …… (c3)
💰 合計手取り:約23.6万円((b3)+(c3))
💡 逆転はしませんが、基準(a)との差額はたったの4,000円。この金額で毎日1時間のゆとりが買えます!
これが、「産休前の残業代」が強力な「貯金」になるカラクリです。残業代が多かった人ほど、少ない時短で手取りを逆転させることができるのです。
なお、もし育休明けに一度フルタイムで復帰してしまうと、給付金の算定根拠が「残業がほぼできない復帰後の給料」に書き換わってしまい、この特権を自ら捨ててしまうことになるので要注意です。
💡 産休前「月45時間残業」が生み出した、無敵のハック術
私の場合は、より一層この「お得感」を確信していました。 なぜなら、私は産休前に月45時間もの「がっつり残業」をしていたからです。産休前の給与が高かった分、給付金を満額もらうためのボーダーラインに対して、たっぷりと貯金がありました。
そのおかげで、復帰後にほんの少しだけ時短にして基本給を高く保っても、余裕で条件をクリアできることが確定していました。
しかも、万が一繁忙期で少し残業をして給料が上がってしまっても、制度の説明資料を読む限りでは、ボーダーラインを超えない限りは、稼いだ分にさらに10%の給付金が満額乗っかり続ける可能性すらある、まさに「無敵」の状態でした。
私はこの仕組みを生成AI(Gemini)に叩き込み、損益分岐点を正確に割り出した上で、元々1日7時間45分勤務のところを7時間にする、月15時間の時短勤務を選択しました。
「残業なしのフルタイム以上の手取りを得て、賞与の減少も最小限に抑えながら、時短勤務というステータスで体力温存ができる」まさに良いとこ取り状態です。
ただし、ここで人事として2つの注意点をお伝えします。
1つ目は、上限額の存在です。時短中の給与と給付金の合計が「47万1,393円(※2026年7月までの上限額)」を超える場合、超過分はカットされます。無限にもらえるわけではありません。
2つ目は、ハローワークの目です。制度上、「支給条件さえ満たしていれば残業してもOK」に見えますが、実は会社からハローワークへ給付金を申請する際、給与の証明としてタイムカードや出勤簿が一緒に提出されることがあります。
そのため、給付金目当てに形だけ時短申請をし、毎月のようにフルタイムを超えて残業していると、「時短勤務の実態がない」と判断され、支給打ち切りになる可能性が十分にあります。
フルタイムをオーバーした場合でも、それが突発的なものであり、支給条件を満たしてさえいれば、その月は残業代にプラスして支給される可能性はありますが、基本的にはフルタイムを下回る範囲で賢く調整してくださいね。
この制度適用の最大の「肝」は、実際の労働時間が時短になっているかどうかよりも、「週の所定労働時間を減らす手続きをしたかどうか」にあります。つまり、会社に時短申請を出すだけで給付の適用対象になり、ハローワークへの手続きは基本的に、会社経由でしてもらえます。
もし復帰にあたって会社側からこの制度についての案内がなければ、遠慮せずに「時短申請をして給付金を受けたい」と人事に聞いてみることを強くお勧めします!
🍀 おまけ:ライフを最優先したい人へ、人事からのメッセージ
ここまで、「手取りを最大化するハック」に焦点を当ててお話ししてきましたが、もしあなたの家庭の戦略(全体最適)が「今はとにかく子供との時間や、自身の心身のゆとりを最優先したい」というフェーズなら、無理に手取りを追わず、迷わず短い勤務時間を選択してください。
育児・介護休業法により、企業は3歳未満の子を育てる従業員から申し出があった場合、原則として「1日6時間」の時短勤務制度を適用する義務があります(※労使協定による一部例外を除く)。会社はこれを基本的には拒否できませんので、遠慮はいりません。堂々と希望を出してくださいね。
たとえ6時間勤務を選んで基本給が大きく下がったとしても、そこに非課税の給付金(新月収の10%)がプラスされることで、家計へのダメージは確実に和らぎます。
「手取り最大化」を狙って浅い時短にするか。「時間最大化」を狙って6時間勤務にするか。 給付金という強力な武器をどう使うかは、それぞれの「家庭の経営戦略」次第なのです。
🏃♂️ 時短申請と業務量のギャップに驚く日々
さて、月15時間の時短を申請した私でしたが、現実はなかなか計算通りにはいきません。復帰後の現場は、初月から目まぐるしい忙しさになりました。
なぜなら、どれだけ緻密に制度をハックして時短勤務をしていようとも、目の前に降ってくる業務量自体は、フルタイムのそれと全く変わらなかったからです。
前述の通り、我が社では時短であってもガッツリ「1人分の戦力」として現場に組み込まれます。
追い打ちをかけるように、復帰初月は労務対応や重大なトラブル対応、ベンダーとの価格交渉など、派遣社員や限定正社員の方々に一任するには少し重たすぎる仕事が、たまたま重なってしまいました。大抵は急な対面・オンラインでの会議や、突発的な電話対応。気がつけばあっという間に時間が過ぎていきます。
世の中の時短勤務の皆さんは、このシビアな時間制限の中で、いつも本当に効率よく業務を回されているんだなぁと、身をもってその凄さを実感する日々でした。
正直なところ、「時間を気にせず、好きなだけ残業して力技で終わらせられる」環境の方が、私にとっては精神的にも肉体的にも何倍も楽だったと思います。
というのも、私には少しワーカホリック気味なところがあり、目の前の仕事が終わらないと気持ち悪くてのんびりできないタイプです。
「時短だから」と割り切って簡単な仕事だけでお茶を濁すこともできず、こぼれているボールがあれば拾ってしまうし、同僚が困っていれば手助けしたくなり、自ら進んで仕事を抱えにいってしまう面もありました。
結果、月15時間の時短にするはずだった復帰初月は、蓋を開けてみれば「フルタイムマイナス1時間」という、ほぼフル稼働の状態で着地していました。
第3章:キャリアのポートフォリオ戦略。過去の学費投資の回収と、アラフォー人事の「保険」

🔍 育休中のがっつり転職活動と、現在のスタンス
「なぜそこまで頑張って両立するの?」と思われるかもしれません。実は、これには明確な理由があります。
そもそも私が現職に入社した最大の理由は、「攻めの採用人事」というミッションにワクワクしたからでした。 いわゆるJTC(日本の伝統的大企業)が「モノ売りからコト売りへ」と舵を切り、大々的にデジタル化を打ち出す。そのための重要なデジタル人材採用を、CxOクラスの役員と直接連携しながら牽引していく―そんなエキサイティングなポジションでした。
入社後1年弱はこのミッションをがむしゃらに遂行し、一定の成果も上げました。 しかしその後、会社の急激な状況変化により、本来のミッションはあえなく立ち消えに。 せっかく入社していただいた方々も数名退職してしまうような、悔しい状況に陥ってしまったのです。
そんな中で産育休に入った私は、復帰数か月前には既に「自分が本来やりたかったミッションには、少なくとも向こう3年以上は戻れる見込みがない」ことを悟っていました。だからこそ、育休中に「がっつり転職活動」をすることにしたのです。
📊 人事が「自分の職務経歴書」を客観的に査定した結果
しかし、現実は甘くありません。
現役の採用人事である私が、自分自身の職務経歴書を客観的にジャッジすると、私はなかなかに「クセの強い人材」です。
これまでの「何でも屋」な経歴は、同年代で人事一筋を歩んできたプロフェッショナルと比較すると、どうしても中途半端に見られがちです。
転職回数も多いため「長期的な就業」に懸念を持たれやすく、子供が小さいので残業もあまりできない。その割に、給料だけは一丁前に高い。 採用側の視点に立てば、「出来ればもう少しまっすぐな経歴で、給料も高くない人が欲しい」 と思うのもよく分かります(笑)。
地方に本社機能がある会社自体が少ない中で、こんなクセ強な人材とぴったりマッチするポジションなど、そう簡単に見つかるはずがありません。
アラフォーという年齢を考えても、現在の安定した立場を手放して、リスクの高い無謀な冒険はできません。「子育てとの両立」「仕事のワクワク感」、そして後述する「過去の投資」を回収できる「英語環境」。
このすべての条件が揃った会社から内定が出ない限りは無理に動くつもりはなく、現在は細々とご縁を探している状態です。
ならば、今の会社にいるうちにできるだけポジションを上げておき、次のステップのチャンスを掴みやすくするためにも、社内評価を高く保っておく。 ここで得られるスキルや、大企業人事としての「箔」は、今のうちにすべてゲットしておこう―。
その前向きな割り切りと、次への「保険」づくりこそが、私がこの組織を戦略的に生き抜くための、現在のスタンスなのです。
🎓 10年越しで活きた「短大時代の単位貯金」
私がお話しした「過去の投資を回収できる環境」へのこだわり。
実は、「自分に投資し、市場価値を上げて回収する」という価値観は、私たち夫婦の共通認識です。その背景には、私たちが過去に経験した「投資と回収」のストーリーがあります。
私は高校卒業後、ハワイの短大へ留学し、リベラルアーツ(一般教養)を専攻して無事に卒業しました。本来ならそのまま現地の4年制大学(海洋生物学部)へ編入する予定だったのですが、直前に父親の仕事の環境変化により実家の年収が半減し、やむなく帰国することになりました。
現在の夫(当時は彼氏)を日本に置いて留学していた私は、急な帰国自体は「まぁいいか」とすぐに割り切れたのですが、いざ戻ってみると、「短大卒、既卒、無名な海外大」の三重苦で、日本の新卒一括採用の波に全く乗れないという厳しい現実が待っていました。
苦戦しながらもどうにか正社員の職を見つけ、その後も何度か転職を重ねる中で、「やっぱり四大卒になりたい」という思いがフツフツと湧き上がり、日本から完全オンラインで学べるアメリカの大学への編入を考え始めました。
学費は親に借金するか、自分で払える範囲でゆっくり単位を取るつもりで、まずは夫にボソッと相談してみたところ、彼から意外な提案が返ってきました。
「4大卒になって転職先の幅が広がったら、最終的にあなたの年収も上がるだろうし、トータルで見たら今やっておいた方がいいんじゃない。将来への投資ってことで、家計から出したらいいよ。」
我が家の「家庭の経営戦略」の片鱗は、すでにこの時にありました。 当時私たちはまだ20代。結婚して2年ちょっとで、ちょうど中古マンションを購入して連帯債務でローンを組み、リフォームをしている真っ最中でした。
そんな家計が一番火の車になりそうな時期に、さらなる自己投資を「家計からの投資」として決断してくれたのです。
夫の後押しもあり、トントン拍子で大学進学を決定。ハワイの短大から単位を移す手続きの過程で、留学当時のとある工夫が役に立ちました。
私は4年制大学へ編入すると授業料が高くなるのを見越して、卒業に必要な60単位を超え、あらかじめ短大のうちに理系単位(物理、化学、生物、数学など)も含めて「合計90単位」ほど取得してから卒業していたのです。
同じ理系の括りとはいえ、今回はビジネス専攻への変更で専門分野が異なったため、すべての単位が認定されたわけではありません。それでも、当時のこの工夫のおかげで、オンライン編入時には約70単位が認定され、時間と学費の大幅な節約に繋がりました。
第2章でお話しした「残業代の貯金」ならぬ、10年越しの「単位の貯金」が活きた瞬間でした。
🚀 アメリカ企業への転身と、手に入れたプライム企業への「切符」
「大学に編入する」と決めたものの、当時在籍していた会社での両立は絶望的でした。
コロナ前ということもあり当然フル出社。残業もいつも36協定(月45時間)ギリギリでした。給与水準も低く、先輩ママたちを見ていても、育休明けに時短勤務を選択すると、収入が「アルバイトと変わらない水準」まで激減してしまうという厳しい現実がありました。
「ここではとても子供なんて望めない。その上、働きながら大学の勉強なんて絶対に無理だ」と判断した私は、オンライン留学のスタートとほぼ同時に、4度目の転職活動に踏み切りました。
そんな時に転職エージェントから紹介されたのが、ほぼフルリモート勤務で、就労時間は個人の裁量に完全に委ねられている、年俸制のアメリカ企業でした。
驚くほどスムーズに転職が決まり、この自由度の高い環境のおかげで、在籍中に子供を出産することもできました。仕事できっちり成果を出して給料を大幅にアップさせつつ、夫からの家事・育児・経済面でのフルサポートを受けながら、大学も5年かけて無事に卒業することができたのです。
そしてそのタイミングで、応募要件が「大卒以上」である現在の東証プライム企業へと、5回目の転職を叶えました。条件提示の際も、短大卒ではなく「大卒」として算出されたため、大幅な年収アップに成功したのです。あの時の学費への投資は、ここで見事に回収されました。
私たち夫婦には、望んでもいないのに片方がキャリアを諦めて、仕事をセーブするという選択肢はありません。それは、家計全体の収入が下がるだけでなく、どちらか一方に不満や犠牲が偏ってしまうからです。
また、将来どちらかの身に何かが起きた時のための「リスクヘッジ」としても、夫婦2人ともが労働市場での価値を高く保っておく必要があると考えています。
夫が自分の仕事だけでなく、常に「家庭の全体最適」を考えて大胆なハックをしてのけるのは、この強烈な共通認識が根底にあるからなのです。
第4章:適材適所の1日スケジュール。睡眠不足を防ぐ「24時間体制」と無駄のない動線

🛏️ 「2寝室制」と、朝型・夜型を活かした二交代制シフト
そんな私たちの現在の家庭は、お互いの得意分野と生活リズムを噛み合わせた仕組みによって、驚くほどスムーズに回っています。
前提として、夫は完全な「朝型」(22:30就寝、6:00起床)、私は完全な「夜型」(0:30就寝、7:00起床)の人間です。子供が生まれて以降、私たちはこのギャップすらも、役割分担の最適化にフル活用してきました。
我が家は、寝室を完全に分けています。玄関側にある【寝室①】は夫と5歳の上の子、リビング横の【寝室②】は私と1歳の下の子です。
夕方の動線も、合理性を徹底的に追求しています。料理が得意な夫は「夕飯の準備」に専念し、時短勤務の私は、堂々と早めに会社を出てお迎えに行き、18:30頃に子供たちと帰宅します。
ここからの夜のスケジュールは、流れるような連携プレーです。
18:30〜:帰宅後、下の子に授乳をして子供たちの食事タイム。私が下の子の食事補助をしながら上の子に声掛けをする間に、夫が大人の分の調理をします。
19:30〜:子供たちをリビングの床で遊ばせながら、大人の食事タイムです。
20:30〜:私と下の子がお風呂へ。夫はリビングで晩酌を楽しみながら、上の子の遊び相手と、下の子をお風呂から上げる係を務めます。
21:00〜:私がお風呂から上がったらバトンタッチ。夫と上の子がお風呂に入るタイミングで、洗濯機を回しておいてもらいます。私はリビングで下の子のケアを済ませ、寝室②へ移動して添い乳での寝かしつけに入ります。
21:30〜:下の子が深く眠ったら、私はそっと寝室②を抜け出して寝室①へ行き、上の子と「おやすみ」のルーティンを交わします。その後、洗い上がった洗濯物を干して浴室乾燥のスイッチを入れ、翌日の保育園の準備とアプリの入力を済ませます。
これらをすべて終わらせたら、時計は22:30頃。ここからがやっと私の自由時間です。
🔄 早朝の「ベッド交代」という体力温存術
そして、この24時間体制における最大のポイントであり、我が家のリスクヘッジの真髄が「早朝の対応」です。
夜中の授乳は2〜5回ほどありますが、最後の授乳となる早朝5〜6時台に、下の子が完全に覚醒してもう寝てくれないことがあります。そんな時、私は下の子をリビングに残して寝室①へ行き、眠っている夫を起こして交代してもらうのです。夫はこの時点で7時間ほどたっぷり眠っているため、スッキリと起きてくれます。
夫がリビングに向かい下の子の相手をしている間、私は夫が使っていた寝室①の布団に潜り込み、上の子と添い寝をしながら、上の子の起床時間までもう一度眠らせてもらいます。
この「睡眠の分散確保」があるからこそ、夜型の私は日中の体力を落とさずに、仕事と育児の両立を乗り切ることができているのです。
第5章:結論。配られたカードで「最小の組織」を最大化する

🤖 PM夫の「時間ハック」と、病児保育の損益分岐点
では、冒頭でお話しした「フルタイムに戻した夫が、日中にどうやって土間で化石を磨く時間を捻出しているのか」という謎の種明かしをしましょう。
夫は自身の仕事を完璧にコントロールし、職場では「いつもポイントを外さず優秀で、一番忙しいはずなのに爆速でレスをくれる人」という、家とは別人のようなポジションをすでに確立しているようです。
PMという職業柄、プロジェクトがオンタイムで進行し、周囲へのレスが早ければ、日中に何をしていようが文句は言われません。その高いタイムマネジメント能力と周囲からの信頼があるからこそ、彼は高い給与を会社から引き出しながら、平日に自分の時間をしっかりと確保するという大胆なハックを成功させているのです。
一方の私はというと、人事は人にまつわるあれこれを司る仕事であり、1人で黙々と進められる業務ばかりではありません。長時間パソコンの前から消えていたらすぐにバレてしまいます。そのため、夫のような大胆なハックは、小心者の私には到底真似できません。
私がやっている「ささやかなハック」と言えば、業務時間中に食洗機のセットや洗濯物干しなどの家事をしながら、会社提供のオンライン学習システムで動画を流すことぐらいでしょうか。当社は業務時間の10%までは自己啓発に充てることが認められているので、このぐらいはセーフだと思っています。
たまにあるのは、在宅勤務の日に夫婦でランチへ行き、帰宅が30分ほどオーバーしてしまうこと。「育休中にタスクをこなしていた分の、見えない貯金を切り崩している」と、都合良く解釈し、こっそりガス抜きをしている程度です(笑)。
こうした日常の小さなコントロールだけでなく、ここのところ毎週のように発生している「下の子の病児保育対応」についても、私たちの選択は徹底的に合理的です。
朝起きて「熱がある!」と急遽病児保育に預ける時、我が家のかかりつけでは以下のような過酷なミッションが発生します。
① 電話で利用希望の旨と病状の説明をする
② 睡眠時間や食事内容などの記録用紙に記入し、着替えなどの持ち物を準備する
③ 子供を連れて受診し、新型コロナやインフルエンザの検査を受ける
④ 病名や隔離の要否、スタッフ確保の兼ね合いをクリアできたら、2階の施設へ預け入れ
⑤ 抗生物質など重要な薬が出た場合は、薬局で受け取ってすぐに病児保育へ届ける
これらが全て終わるのは、どんなに急いでも朝9時半〜10時頃です。出社の日ならそこから移動もあるため、始業はもはや昼休み直前になってしまいます。
在宅勤務の日であっても、これだけのミッションをこなしながら「スマホでチャットを返すだけ」でごまかすのは不可能です。結果的に勤務開始を遅らせるしかなくなり、時短勤務の私の給料はダイレクトに減ってしまいます。
そのため、私は出社の日でも在宅の日でも、上記の①と②(事前準備)だけを担当し、一番時間と手間のかかる③以降はすべて夫が対応してくれています。
フルリモート環境を構築し、勤務中にもスマホ片手にしれっと離席してミッションを完遂できる夫が動く方が、家計全体で見た時に確実にダメージが少ない。つまり、これが我が家における全体最適なのです。
🤝 「全体最適」という名の、我が家の結論
これだけ家事育児の大部分を背負っていても、夫自身には「家庭にフルコミットしている」という自覚は1ミリもないそうです。
彼に言わせれば、「自発的にやってるわけじゃなくて、仕方なく、やらないといけないからやってるだけ。それは『コミット』とは言わない」とのことです(笑)。
私は家事育児の多くを夫に任せているので不満を言える立場にはありませんが、当の夫もなぜか、そこまで不満だらけというわけでもなさそうです。なぜなら夫にとっては、まだ言葉の通じない下の子の世話をするよりも、ペラペラ喋る上の子の相手や家事をしている方が「何倍も楽(コントロール可能)」だからです。
そのため土日など、私は下の子が起きている時間の大半をリビングに縛り付けられ、床に座ってテレビを見るぐらいしかできません。椅子に座ればすがりついて泣かれ、少しでもトイレなどで離れれば即ギャン泣きが始まるからです。
その間に夫は掃除・洗濯・料理をこなし、上の子がパパと遊びたいと言えば相手をして、一日中忙しく働いています。一見すると不平等に見えるかもしれませんが、これこそがお互いの「得意」と「楽なこと」を組み合わせた、我が家の究極の適材適所なのです。
それでも、育休中の私が「ほぼゼロ家事」で下の子の世話に専念し、上の子の送迎も含めた全ての家事育児を夫が回していた怒涛の期間に比べれば、復職後は送迎も半々になり、日常のルーティン家事も私が一部担えるようになりました。
下の子も保育園に入ったことで日中に大人だけの時間ができ、2人とも在宅勤務の日にはたまに外へランチに行けるなど、現在の生活に対する充実度は非常に高いと感じています。
世間の「普通の両立」の形に当てはめれば、我が家は間違いなく「ちょっと変わった家庭」でしょう。
フルタイム勤務の夫が日中に病児保育の対応をし、土間で化石を磨き、晩ご飯の準備をする。一方で、月15時間時短のはずの妻が実質フルタイムでゴリゴリに働く。
けれど、会社の用意した古い制度や、世間のありきたりな常識に、自分たちの生き方を合わせる必要なんて全くありません。
「こうあるべき」という形に縛られず、自分たちのリソースと制度の仕組みを客観的に見つめ直し、お互いの強みとメリットを噛み合わせた「独自の心地よいシステム」を構築すること。
配られたカードをどう活かし、家族全体の幸福度を最大化するか。
「家庭」という最小の組織を経営する私たちのこれからの歩みは、このお気に入りのシステムと共に、明日も何一つ妥協することなく続いていきます。
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