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【番外編】作文『パンツーの花は、くさかった』

「学校のかだんに 
パンツーの花がさいていました。」


人前で読んだ作文の、
人生最初の記憶である。


サマンサ・小学二年生。

春。
父親参観の日。

学校の花壇にはパンジーがたくさん咲いていた。

参観日の課題は作文。
お題はもちろん
「パンジー」である。

先生の諸注意。

「カタカナの『ヅ』と『ジ』、間違えないでねー」

「はあーい!」

「作文できたら手を上げてねー」

「はあーい!」

サマンサ  「……」

いやな予感。

これ、
当てられるヤツだ。

誰も手を上げないと
当てられる。

誰かが手を上げても
なぜか当てられる。

この予感だけは
本当によく当たる。

まずい。

それなら。

サマンサ
「はいはいはいはい!」

先生
「じゃ、じゃあサマンサさん」

当時のサマンサ。

無口。

人見知り。

引っ込み思案。

幽霊生徒。

モブ・オブ・ザ・モブ。

なのに。

発表だけは、
自分から当たりに行く。
当たり屋サマンサなのである。

発表が好きだからではない。

当てられると分かっている。
なのに、

「当てられるまで待つ」

この時間の恐怖。
拷問過ぎるのだ。

さて、発表だ。

立ち上がる。

教室中の視線。

サマンサ 「ゔ」

落ち着け。

まずは一行目だ。

ひと呼吸。

原稿用紙を見る。

サマンサ「!!!」

「パンツーの花がさいていました」

……。

やっちまった。

でも。

もう読むしかない。

教室の後ろには父がいる。

落ち着け。

落ち着くんだ。

にてんてん。

にてんてん。

……。

ん?

いや違う。

「シ」だ。

にてんてん。

パンジー。

「パン」
「ジー」
「パン・ジー」だ。

よし。
大丈夫。

サマンサ、
再び原稿用紙に
目を落とす。

たしか、
こんな感じの
作文だった。


学校のかだんに

パンツーの花がさいていました。

きいろ。

むらさき。

しろ。

どれもきれいです。

どんなかおりがするんだろう。

きいろはレモンかな。

むらさきはぶどうかな。

しろはなんだろう。

かおをちかづけて、

かおりをかぎました。

どれも
おなじかおりでした。

すこし
がっかりしました。

でも、

パンツーの花は、

くさかった。

     2ねん4くみ
       サマンサ


サマンサ、
作文の冒頭を読み上げる。

「学校のかだんに」


よし。
いいぞ。
落ち着いてる。

だいじなのは
次だ。

てんてん。
てんてん忘れんな。

よし。


「パンツーの花が」


あ。

・・・。

あーっ!!

頭の中では、
ちゃんと
「パンジー」
って読んでるのに!

なのに。

口がどうかしちゃったみたいだ。

そして最後、


「パンツーの花は、くさかった」

教室。

ドッカン。

父を見る。

苦い顔。

小さく手を振ってみる。

「がんばったよ」

のつもりだった。

父は振り返さない。

その横で、
ほかのお父さんたちが、

父を見る。

完全に、

「パンツーの父」

である。

しかも、
くさい。

授業が終わった。

父が教室を出ていこうとする。

もう一度、
手を振る。

やっぱり振り返してくれない。

怒ってる。

そう思った。


家へ帰ると父は、

「サマンサは間違えるのに、
なんでいつも
一番に手を挙げるんだろう」

とだけ言った。

実は、
その前の授業参観でも、

「はいはいはい!」

「はい、サマンサさん」

「わかりません!」

という、

ドリフのコントみたいなことを
やってしまったのだ。

だから今回は
絶対に怒らせたと思っていた。

ところが。

彼氏を紹介する。

パンツー。

結婚の挨拶。

パンツー。

サマンサの娘が小学校に上がる。

またパンツー。


父は決まって
この話をした。

しかも、
毎回うれしそうに。

あの日。

父は怒っているんだと思っていた。

違った。

父は、
あの日の「パンツー」が、

ずっと好きだったらしい。

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