見出し画像

「梅干しとうなぎと財布」を考える

梅干しとうなぎは、食べ合わせが悪いと言われています。

子どものころから何となく知っていました。梅干しとうなぎを一緒に食べてはいけない。理由は知りません。腹を壊すのか、吐くのか、翌朝うなぎになるのか。そのあたりは何も聞かされていませんが、とにかく組み合わせてはいけないことだけは覚えています。

幸い、これまで梅干しとうなぎを同時に食べる機会はありませんでした。

うな重を頼んでも、梅干しは付いてきません。漬物は付いてきますが、たいてい奈良漬です。店側も食べ合わせの言い伝えを警戒しているのでしょうか。それとも、単純にうなぎに梅干しを添える習慣がないだけでしょうか。

いずれにしても、僕は長年、梅干しとうなぎの衝突を避けながら生きてきました。知らないうちに健康を守っていたことになります。

ところが、調べてみると、梅干しとうなぎを一緒に食べても、特に問題はないそうです。それどころか、梅干しの酸味によって、うなぎの脂がさっぱりするとも言われています。食べ合わせが悪いどころか、味の相性はむしろいいらしいのです。

では、なぜ一緒に食べてはいけないと言われるようになったのでしょうか。諸説あるようですが、その一つに「梅干しによって食欲が増し、高価なうなぎを食べすぎてしまうから」というものがあります。

ずいぶん景気のいい忠告です。うなぎを食べすぎるとは、一体どのくらい食べることを想定しているのでしょうか。

一尾食べ終えたところで梅干しを口に入れ、脂がさっぱりしたので、もう一尾。さらに梅干しをかじって、もう一尾。食卓には何尾ものうなぎが並び、家族が次々と手を伸ばしていく。そういう家庭でなければ、食べすぎを心配する必要はありません。

僕がうな重を一杯食べたあと、梅干しによって食欲を取り戻したとしても、追加でもう一杯とはなりません。胃袋が「まだいけます」と言ったところで、財布が「無理です」と答えます。

そもそも財布は、一杯目の段階からあまり乗り気ではありません。店の前に掲げられた値段を見た時点で、すでに帰ろうとしています。それを何とか説得して店内に入り、今日は特別だからと自分に言い聞かせ、ようやく一杯のうな重にたどり着くのです。梅干し一個で二杯目に進めるほど、財布との交渉は簡単ではありません。

食べすぎるほどのうなぎがある人にとっては、梅干しは危険だったのかもしれません。しかし、こちらにとって大切なのは、目の前の一尾をどう最後までおいしく食べるかです。

うなぎは脂が乗っています。それが魅力なのですが、食べ進めるうちに少し重く感じることもあります。そこで梅干しを食べれば、口の中がさっぱりして、またうなぎがおいしくなる。それなら、むしろ積極的に合わせたほうがいいのではないでしょうか。

うなぎを何尾も食べるためではありません。一尾しか食べられないからこそ、その一尾を最後までおいしく食べるためです。

高い金を払って注文したうなぎを、途中から脂が重いなどと思いながら食べるより、梅干しを挟んで気分を立て直したほうがいい。最後の一切れまで、最初の一切れに近い気持ちで食べられるなら、そのほうが経済的です。

食欲が増したところで、うなぎを追加する必要もありません。ご飯を食べればいいのです。梅干しはご飯にも合います。うなぎがなくなったあとは、梅干しで残りのご飯を食べればよろしい。むしろ、うなぎを節約できる可能性すらあります。

そう考えると、梅干しとうなぎの食べ合わせを悪いことにしたのは、庶民ではなかったのでしょう。食卓にうなぎが何尾も並び、食べすぎを心配できる人たちです。梅干しで箸が進んだくらいで家計が揺らぐなら、最初からそんなにうなぎを並べなければいいと思いますが、金持ちには金持ちなりの事情があったのでしょう。

その忠告だけが時代を越え、うなぎを一杯食べるだけで決意が必要な僕のところまで届いています。しかし、もう心配はいりません。僕の食欲がどれほど増しても、財布がきちんと止めてくれます。

梅干しとうなぎの食べ合わせは、悪くないそうです。

うなぎと財布の食べ合わせは、今もかなり悪いです。

いいなと思ったら応援しよう!

皮肉屋ジョー🎭世の中まぜるな危険 牛乳を買います