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花冷えの朝に 捨てられないもの

晴れた朝。

冬に逆戻りしたかのような寒さに

ヒーターをつける。

せっかくの休みなのに

また、いつもの早朝覚醒だ。

外は 桜。

昨日の雨で しっとりと濡れている。

花冷えの朝、いつものように

熱いコーヒーを淹れている。

懐かしいあの日に会いたくて

私はそっと

御朱印帳を出してみた。


私たち夫婦は

春になると京都に花見に行くのが恒例だった。

京都は桜の名所が多いから

夫はいつも

御朱印帳を鞄に忍ばせていた。

最後の花見になったあの時も

夫はいつもどおり

御朱印帳を鞄に入れていた。

清水寺

平安神宮

錦天満宮

最後の花見の記憶が

蘇る。

二人で出かける花見は

これが最後になることを

多分、夫もわかっていた。

それでも いつもと同じように

花の名所を巡っては

御朱印をいただいていた。

夫の御朱印帳は4冊ほど。

最後の御朱印帳は

半分ほどで終わっている。

残り半分は

夫が亡くなって以来

真っ白なままでいる。


私は、夫が亡くなってから

断捨離を進めていった。

夫のものに囲まれて

一人暮らすことは

私には できそうになかった。

前を向くために

泣きながらも ひたすら

断捨離を進めていった。


そんな中、


あえて御朱印帳は

断捨離しなかった。

断捨離してはいけないと思っていた。

二人で巡った記録となっている

4冊の御朱印帳。


最後の一冊は

残り半分が

白紙のままでいいと思っている。


私が亡くなったとき

一緒に棺に入れて欲しい。

二人で巡った思い出を

私の亡骸と一緒に

棺に入れて欲しいのだ。


残り半分が 白いままの御朱印帳を

一人 見ている花冷えの朝。

コーヒーはまだ

ほんのり 温かい。


清水寺の御朱印
平安神宮と錦天満宮の御朱印






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