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#わたしの帰りたい場所〜203号室〜


#わたしの帰りたい場所
「あ〜、帰りたい」これが私の口癖。
あなたが亡くなってから、毎日のように「あ〜、帰りたい」と言ってしまう。
昨日も、今日も、たぶん、明日も・・・。

周囲の人に迷惑をかけ、反対されたけれど
揺るがなかった二人の思いを叶えた暮らしのスタート地点。
それがY市の賃貸マンション203号室。
二人の出発点となったあの部屋こそ、私の帰りたい場所になっている。

手狭で、水回りの設備も古く、収納も少なかったけれど
キッチンだけは広く、料理のしがいがあった。
あなたは買い物が大好きだったから
キッチン雑貨は、あなたの選んだものがほとんどだった。
二人暮らしなのに、土鍋だけでも大小5個はあったかな。
ラーメン屋さんが使う「湯切りザル」もあったね。
どこで見つけてきたの?

途中から冷蔵庫も大きなものに買い替えて
夜勤で私がいない時もあなたが困ら何ように作り置きをしたり
トマト好きのあなたが毎日トマトが食べられるようにストックしたり。

季節になるとあなたは梅をもらって来て「こんなにもらったよ」って
笑顔で帰って来たけれど、初めはどうして良いか途方に暮れた。
すぐ近くにスーパーがあったから急いで「梅酒のびん」と氷砂糖、
ホワイトリカーを買いに行って自家製梅酒を作ったのも
203号室のキッチンが初めてだった。
琥珀色になった梅酒を飲む時、二人で「バーごっこ」をしたり。
たまにはケンカもしたけれど、楽しい事に溢れていた。
そして日がよく当たる部屋で、お茶を淹れてくれるのはあなたの役目だった。
あなたが淹れてくれるお茶はいつでも間違いなく美味しかった。

Y市の中でも比較的静かな場所だったし、ご近所付き合いもあった。
隣の部屋のおばちゃんが
「奥さん、行ってらっしゃい」なんて手を振ってくれていた。
土地勘が無い私が、淋しくなく、家事と仕事を両立できたのも
あなたがいたから。
あなたの笑顔と励ましがあったから。
あなたが毎日、美味しいと言ってくれたから料理のしがいがあった。
あなたがいたから203号室は私の居場所だったんだと、今になって強く思う。

あなたが亡くなって心に大きな穴が開いてしまって
私一人ではとても耐えられなかった。
だから、帰郷を決めた。
帰郷したけれど、肝心のあなたがいないこの部屋は
ただの住所になってしまっている。
トマト嫌いの私の冷蔵庫にはトマトもないし、
お茶を淹れるのが下手な私は急須も断捨離した。
丁寧に暮らすように心がけてはいるけれど
心の穴は塞がらないまま。
だからふとした瞬間に「あ〜、帰りたい」と言ってしまうんだろうな。

天国からあなたが見ている私の暮らしはどうですか?
夢でいいから、何か言ってね。
「梅酒ロック、おかわり!」でもいいよ。

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