「歯科衛生士として27年。私が『訪問口腔ケア』の世界で最初に見つけた宝物」
こんにちは。私はこれまで20年近く、一般歯科の歯科衛生士として働いてきました。クリニックに来られる患者様の口腔ケアやスケーリング、歯磨き指導を行う毎日。長年培ってきた経験もあり、仕事にはそれなりの自信と愛着を持っていました。
そんな私が一念発起し、現在は老人ホームや障害者施設の訪問先で口腔ケアを行っています。
今回は、私が一般歯科から訪問の世界へ飛び込み、最初に出会った「忘れられない出来事」をお話しさせてください。
通じない言葉、初めての戸惑い
訪問の世界に入って最初に向き合うことになったのは、認知症を患っている患者様でした。
一般歯科であれば、「お口を開けてくださいね」と言えば、ほとんどの患者様が応じてくれます。しかし、訪問の現場ではその「当たり前」が通用しませんでした。
言葉でのコミュニケーションが難しく、頑なにお口を閉ざしてしまう患者様を前に、私はどう向き合えばいいのか分からず、20年のキャリアがありながら、ただただ戸惑うばかりでした。
「どうしたら怖がらせずに、安心してお口を開けてもらえるだろう?」
焦る気持ちを抑えながら、私はアプローチを変えてみることにしました。
目線を合わせる、ということ
言葉が伝わらないのであれば、態度や空気感で安心してもらうしかありません。
私はグッと腰を落として、患者様の目線の高さに合わせました。上から見下ろすのではなく、同じ目線になり、優しく微笑みながら、じっとこちらを認識してもらえるのを待ちました。
「私は怪しい者じゃないですよ。あなたのお口をすっきりさせに来ましたよ」
そんな願いを込めながら、じっと目を合わせていると……ふっと患者様の緊張が解けたような気がしました。そして、ゆっくりとお口を開けてくださったのです。
その瞬間は、心の中で小さくガッツポーズをしてしまうほどホッとしました。
言葉を超えて、心が通じ合った瞬間
お口を開けてもらってからは、これまでの経験を活かして丁寧に口腔ケアを行いました。
そして、すべてのケアが終わったとき、本当に嬉しいご褒美が待っていました。
お口の中がきれいになってさっぱりした様子で、その患者様が、私に向かって「ニコッ」と満面の笑みを浮かべてくれたのです。
言葉での会話はできなくても、心地よさはちゃんと伝わっている。
心と心が、確かに通じ合った瞬間でした。
「あぁ、私の手が、この方の笑顔と心地よさを作ることができたんだ」
一般歯科の診療室にいるだけでは味わえなかった、心の底から込み上げるような嬉しさが胸いっぱいに広がりました。
宜しかったらこちらの扉も覗いて見てください
