【TAMIYA】F1 Ferrari
【積みプラ王国へようこそ 〜会話編 第四話〜】
デカールが、漢を狂わせる 〜タバコと版権と、フェラーリ地獄〜
● 登場人物
積みオジ(推定63歳)……積みプラをこよなく愛する求道者。座右の銘は「積みプラ王に、俺はなる」。本日も箱を増やし、語彙を失う。
滅ちゃん(莉央/20歳)……模型店のバイト娘にして、積みオジの遠い親戚。知識ゼロ・悪気ゼロのギャル。励ましてるつもりで急所を抉る無自覚ツッコミの使い手。決め台詞は「滅!」。
概要
今回の発端は、たった一枚のデカールである。スタジオ27(ST27) の「フェラーリ F189用 “Marlboro” タバコデカール」——それが卓上に3枚。そしてデカールは本体を呼び、本体は版権の壁を呼び、版権の壁はさらなる本体を呼ぶ。気づけば机の上にはタミヤ(TAMIYA)のフェラーリF189 前期型・後期型、そして“ついで”のF310Bが2箱。タバコ規制とフェラーリの版権という、模型沼の二大魔境を巡る一部始終。ギャル・滅ちゃんの審判が、本日も冴えわたる。

■ 三枚のマルボロ ─ 使用・保存・バックアップ
積みオジ「やったぞ滅ちゃん! F189用のMarlboroデカールを手に入れたぞ! スタジオ27の逸品だ!」
滅ちゃん「なにそれ? ってか、なんで3つも同じデカールがあるのよ。まじダブってんじゃん」
積みオジ「ふっ、甘いな。1枚は使用する用、1枚は保存用、1枚はバックアップ。積みプラ道の鉄則は“三つ”と決まっている」
滅ちゃん「鉄則じゃなくて散財じゃん、それ……」

■ で、これ何? ─ タバコデカール、ドヤ顔講座
滅ちゃん「で、これ何? ドライバーの名前入りで“Marlboro”っていっぱい刷ってあるけど」
積みオジ(ドヤ顔)「説明しよう。かつてF1はマルボロをはじめ、タバコ広告で彩られていた。だが喫煙規制が強まり、やがて『プラモは子供のおもちゃ』という自主規制で、メーカーはキットにタバコロゴを入れられなくなった。そこで、本来の姿を取り戻したいモデラーのために、スタジオ27のような専門メーカーがタバコデカールを別売りするようになったのだ。これは失われた史実の復元……漢の責務よ」
滅ちゃん「いや、で……デカールだけあっても意味なくね〜? 貼る車、どこ?」

■ 本体降臨 ─ 幻のF189前期型
積みオジ「だから——今やなかなか手に入らぬ、タミヤのフェラーリF189 前期型を手に入れた! 1989年の名車、マンセルとベルガーの640型。F1初のセミオートマ・ギアボックスを積み、マンセルがデビュー戦のブラジルでいきなり優勝した伝説のマシンだ!」
滅ちゃん「へ〜。てか、どうして手に入らないの? タミヤなら作ればよくない?」
積みオジ(ドヤ顔)「フェラーリの版権よ。フェラーリは模型の版権に世界一うるさいメーカーでな、高額なライセンス料を課し、時に特定メーカーへ独占権すら与える。結果、タミヤはフェラーリとの版権契約が終了し、関連キットは軒並み絶版。F189のような名作は、今や中古市場でしか出会えぬ……“幻のキット”なのだ」
滅ちゃん「ふ〜ん。世界一うるさいのは、おじサンの蘊蓄だと思うけど」

■ まさかの内蔵マルボロ ─ そして後期型へ
滅ちゃん「あれ……ねぇ、このキットにMarlboroのデカール、入ってるんですけど? さっき3枚も別で買ったやつ、要らなかったんじゃ……」
積みオジ「よくぞ気づいた。これは規制が来る前の貴重な前期型——デカールにMarlboroが刷られている。ゆえに前期型は、付属のデカールをそのまま使って組む。これが我が計画の第一章よ」
滅ちゃん「えっ、計画? おじサン、作る気あんの? ちょっと意外なんだけど」

■ 後期型 ─ ポルトガルGP仕様、まさかの二台目
滅ちゃん「……馬鹿なの? ねえ、馬鹿なの? 滅、滅、滅! 同じF189を、レアなのに2つも買うなんて! しかも前は箱違いで2個、ロータスも2台……毎回2個じゃん!」
積みオジ「落ち着け。これには深謀遠慮がある。後期型のデカールには、実はMarlboroが無い。ゆえに後期型は——スタジオ27の別売りデカールを使って組む。これが計画の第二章だ」
滅ちゃん「……えっ。前期は付属で、後期はST27で。なんか、ちゃんと考えてるっぽい……?(怪訝)」

■ 後期型のデカール ─ こっちに、マルボロは無い
滅ちゃん「ほんとだ。後期型のデカールにはMarlboro、無いね。前期型には入ってたのに。……だから後期型には別売りのST27を使うって寸法か。前期は付属、後期はST27。え、意外と完璧な計画じゃん?」
積みオジ「ふっ。分かってきたな。これぞ積みプラ道の設計図よ」
滅ちゃん「……ん? でも待って、なんか引っかかる……(その違和感の正体には、まだ気づかない)」

■ デジャブの二箱 ─ なぜか燃えるF310B
滅ちゃん「で……こっちの、デジャブみたいな2箱は何? 全く同じF310Bが2つあるんですけど」
積みオジ「フッ。フェラーリが手に入らないとなると、不思議と燃えるんだよね〜。シューマッハの1997年型、F310Bを2つ手に入れてみた」
滅ちゃん「何が“燃えるんだよね〜”なのよ! ついで買い多くない!? デカールだけだったはずが、なんでフェラーリ4台になってんの!」

■ フェラーリ四重奏 ─ そして審判の刻
滅ちゃん「……はい、さっきの“引っかかり”、正体わかった」(指を折る)「おじサンの計画、聞いたよ。前期型は付属デカールで組む。後期型はST27のデカールで組む。F310Bは……まあ、燃えたから2個。うん、計画は完璧。完璧なんだけど——」
滅ちゃん「その前期型も、後期型も、ぜんぶ積むよね? 結局どっちも作らないよね? ……ってことはさ、その完璧な計画、最初から破綻してるじゃん!」
積みオジ「ん……んぐぐぐ……っ!」
滅ちゃん(北斗百裂拳の構えで、ビッ……と人差し指)「お前は……既に、詰んでいる! 滅!」
積みオジ「ひでぶ〜〜〜っ!!」
総評
本日のメーカーは2社。発端は スタジオ27(ST27)のフェラーリF189用 Marlboroタバコデカール、本体は タミヤ(TAMIYA)の1/20 フェラーリ F189 前期型(No.23)/後期型 ポルトガルGP仕様(No.24)、そして F310B(No.45)×2。タミヤの1/20 F1は今なお色褪せぬ名シリーズで、F189は1989年に登場したセミオートマ・ギアボックスの先駆け、マンセルとベルガーの640型。F310Bは1997年、シューマッハがタイトルを争ったV10マシンだ。いずれも単品なら一級の名キット——だが問題は、やはり買い方である。タバコ規制でキットからMarlboroが消えた歴史は事実だが、本作のF189前期型は規制前ゆえにデカールにMarlboroを内蔵しており、後期型のデカールにはMarlboroが無い。そこで男は壮大な計画を立てる——前期型は付属のデカールでそのまま組み、後期型はスタジオ27の別売りデカールで組む。前期は内蔵で、後期は別売りで。一見、隙のない完璧な設計図だ。だが、その計画には決定的な前提が抜けている。両方とも、積む。組まれぬキットに貼られぬデカール——前期も後期も棚に並べた瞬間、計画は最初から破綻していたのだ。版権終了で幻となったキットを前期・後期で揃え、勢い余ってF310Bまで二箱。デカール一枚から始まった旅は、フェラーリ四台+マルボロ計四枚という壮麗な未完成の山に着地した。失われた史実を取り戻すと言いながら、取り戻せていないのは己の財布の平穏のみ。これぞ積みプラ王国の住人の業(ごう)である。
評価 項目 評価 ひとこと
キットの出来(タミヤF189/F310B)★★★★★1/20 F1の名作、版権切れで今や幻
ST27タバコデカールの本格度★★★★★失われたマルボロを復元する逸品
「使用・保存・バックアップ」理論★★★★★散財を哲学に昇華する話術
マルボロ過剰在庫★★★★★別売り3枚+前期型1枚で計4枚
ついで買い係数★★★★★デカール1枚→フェラーリ4台
制作計画の完成度★★★★★前期=付属、後期=ST27、隙なし
その計画の実現性☆☆☆☆☆両方積むので最初から破綻
メモリー(前期型にMarlboro内蔵だった記憶)☆☆☆☆☆完全喪失。だから3枚買った
完成への距離∞既に、詰んでいる
タバコデカールが、漢を走らせた。 前期は付属で、後期はST27で——隙なき計画を立てておきながら、 貼る車は一台も組まれず、設計図は最初から破れていた。 取り戻した史実の隣で、財布だけが静かに沈んでいった。 ──積みプラ王に、俺はなる。(※作るとは言っていない)
