【短編小説】宿題を邪魔していたころすけが、大人になった日
ころすけがまだ小さかった頃、 我が家のリビングには、毎日のように小さな攻防戦があった。 主役は、宿題をする裕太と、なぜかその時間だけ張り切るころすけ。
裕太が国語のノートを開くと、 どこからともなくトコトコと歩いてきて、 まるで「待ってました」と言わんばかりに ノートの上へ“どすん”と座り込む。
「ころすけ、どいてよ」 裕太が押しても、ころすけは知らん顔。 しっぽだけ、ゆっくり左右に揺れている。
そのうち、 裕太が使っていた消しゴムを そっと口でくわえて逃走する。
「返してー!」 裕太が追いかけると、 ころすけは“遊んでもらってる”と勘違いして、 さらにテンションが上がる。
結局、宿題はぜんぜん進まない。
でも、裕太が本気で怒ると、 ころすけはすぐに分かる。 しゅん、と耳を下げて、 そっと裕太の足元に戻ってきて、 「ごめんね」の顔をする。
その顔を見ると、 裕太も怒れなくなる。
「もう…しょうがないな」 そう言って頭をなでると、 ころすけは満足そうに目を細めた。
あの頃のリビングは、 宿題よりも、笑い声のほうが多かった気がする。
今思えば、 あの“邪魔”は、家族の時間をゆっくり増やしてくれる 大切な儀式だったのかもしれない。
ころすけは、あの頃よりずっと大きくなり、 落ち着いた“大人の顔”を見せるようになった。 もう、ノートの上に座り込んで宿題を止めることはない。
裕太は、静かに宿題を進めながら、 ふと、あの頃の騒がしい時間を思い出す。 ページをめくる音だけが響くリビングは、 少しだけ広く、少しだけ静かだ。
「…あの頃は楽しかったな」 そんな思いが胸の奥でそっと揺れる。
けれど、宿題を終えると、 ころすけはゆっくり立ち上がり、 まるで「終わった?」と確かめるように 裕太のところへ歩いてくる。
そして、昔のように無邪気に邪魔はしないけれど、 裕太の足のあいだに顔をぐいっと突っ込んでくる。
「ころすけ、わかったよ。 そんなことされたら歩けないってば」
そう言いながらも、 裕太の声はどこか嬉しそうだ。
ころすけは、子どもの頃のように跳ね回らなくなった。 けれど、寄り添い方は変わっても、 その温かさはずっと同じ。
裕太は思う。 「ころすけは、大人になってもやっぱり可愛いな」
リビングの空気は、 あの頃とは少し違うけれど、 今も変わらず、家族の時間がゆっくり流れている。
ころすけとの日々をまとめた短編を、 Kindleで読めるようにしました。 → こちらから読めます
※この物語はフィクションです。ヘッダー画像はAI生成によるイメージです。
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