ReStart:019 人徳だけはありますねと言われた責任に浸る
昔、住んでいた街に降り立つ。
たまにラーメンを食べに来る。
変わらない街並み
記憶の中にあった昭和の細かい断片が、
そこにあったという記憶だけを残して、
空っぽの空気みたいになっていた。
その空気だって、
いつの間にか、また未来が覆いかぶさって、
きれいな何かに取ってかわるんだろう。
つかの間の大地が顔を見せていて、それを必死に白い壁が囲っている。
都市は大地に乗っかっていて、
それは隠すことができない事実なのに、
自然の断片を見えないように覆い隠して、
人がコントロールしているサマを、
いちいちそれで確認しているみたい。
都市は人工物だ。
自然というものが、アンコントロールな「もの」であるために、
徹底的に自然を排除し人工物で固めていく。
安心できる世界が積み重なり、都市になっていく。
自然というものは、得体のしれない、何かもわからない、
どんな振る舞いをするのか検討もつかないようなものなのだ。
だから、潔癖なほどに都市は、人工物で埋め尽くされている。
定期的に酒を飲む元同僚がいる。
オレと同じような特性があるらしい。
オレよりも社会に適合していないように思えるが、会社員としての素養はあるようで、いっこうに解雇はされそうにない。
彼に診断結果を見せたとき、
「でしょうね」と
ひと言あったのを覚えている。
目当ての店に着いた。
ちょうど、LINEがくる。
電車が激混みで少し遅れます!!
おれも同じ路線でやってきたが遅れてはいなかった。
たまに来ていた焼き鳥屋は、
記憶と同じ場所にあった。
その記憶は本当に自分のものなのだろうか。
懐かしいと、感じているけれど。
その記憶すらも、取り壊されて、空気みたいになるのかな。
おれという人間のいた事が、
キラキラした何かで覆い隠されて、
いつの間にか、当たり前の日常を作り出していくんだろう。
狭い階段を登りながら、
そんなことを思う。
彼が言う。
「自分は人と話す時、脳内で言葉選びとかニュアンスを、翻訳しながら会話しているんですよね、それでも伝わらないときがあるんです」
「おじさんと話すと、その翻訳いらないんですよね」
へー。そうなんだ。
彼と飲むとかならず、1回はこの話をする。
よっぽど、彼にとっておれを表現するのにちょうど良いのだろう。
悪い気はしない。
たしかに、今の職でもそんなことを言われた気がする。
そこまで深く考えていないけど、
ニュアンスとか気持ちとか、その言葉の奥に含有されている
"何か"を汲み取って、
"それ"を言語化することは好きなのかもしれない。
「気楽に話せる相手はこれまでもそんなに多くはいない」
と言ってくれる。彼とは思考の癖が似ているのだろう。
おれも楽しいし、褒められている気もするので良い心地で酔い心地だ。
まどの外には、タクシーが駅に向かって列を作っている。
家路に慌てる時間か。
それにあぶれた人たちを、都市の機能が拾う準備をしている。
うまくできた経済都市なんだな、ここは。
時間が深くなると、どうしても解雇の話が出てしまう、
愚痴のようなひがみのようなことがとめどなく。
おれは、死んだことすら気づいていない地縛霊のように、のたうち回って、ただよっている。
組織の仮面をかぶった連中への嫌悪感だけが足元に冷たく粘りついて、そこから離してくれないみたいに。
あの頃。
組織という仮面の集まりは、危険で不安でどうすることもできないアンコントロールな存在を、
危険極まりないと判断し、より安全な世界を積み上げたかったのだろう。
酒で間抜けな顔になっている自覚も持ちながら、
あの会社の理念が、いかに張りぼてであったのかを話し始める。
まだ、死を遠くに感じたい地縛霊が繰り返す、カラカラに乾いた怨念を。
元同僚は、待ち合わせに遅れてきた時と同じ顔色でつぶやく。
「だって会社でしょ。もともと理念なんてそんなもんでしょ?」
幾度となく、こんな会話をしてきた。
そのとおりだ。
「でも、おじさんね、あんた解雇されたくせにさ、人徳だけはある(笑)」
なにそれ?
「だってさ、こんなにあなたの周りの人がいなくならないでさ、人徳じゃんそれって」
「解雇されてるくせにだよ!(笑)」
地縛霊に人徳があるの?
「地縛霊は知らないけど、じゃないとイベントとか解雇されてるくせにやらないでしょ!」
先日、仲間の力を借りて、前職にかかわるイベントを主催した。
彼も手伝ってくれた一人だ。
そうなのだ。
みんな手伝ってくれる、
いなくならないでいてくれる。
こんな、地縛霊のような存在でも。
未練がましくても、やっぱりあの仕事が好きで、
なにかしらつながっていたいと思って、
一人で勝手に走っている。
そうしたら、一緒に走ってくれる人が集まってくれる。
感謝しかないのだけれど、それ以上に不思議な気持ちがずっとあった。
人徳があるって、なんかテレる。
そういってくれるのは。ありがたい。
でもそれって責任重大だし、それって、なんか、どうすればいいんだろう。
そうつぶやいた。
ラストオーダーはとっくに過ぎていて、
店内は、
おれたちのほかは、女性が一人、窓を眺めてジョッキをすすっている。
いつのまにか、喧騒は壁に染み込んで、その面影だけが店内に少しだけ残っていた。
「責任重大ですよ、解雇されてるくせに。ほんと、あんたと働きたかったって思うし。」
「でもね、
これでいいんですよ、だって、めっちゃいま、おじさん、可能性ひろがってるじゃん。」
「客観的に見てて、なんか好きにやってて、それって絶対に、解雇っていうのが無かったら出来てない。まじで!」
結局、都市を走る最後の電車が俺を住んでいる街に送ってくれた。
よくできている経済都市なんだ。
あの後、もう一軒行った。
初めて入る店で、タトゥーだらけの優しいバーテンさんと、他愛もない話をしたくらいの記憶しか残っていない。目の優しいバーテンさんだった。
人徳って言われて、
なんか少しだけだけど、何かできるのかもしれないなって、
今までは怨念みたいなものが最初にあったけど、
少しだけ、変わった気がした。
覆い隠されても、都市が必死で体裁を整えるわきで、自然は、小さく、あらゆるところから、その自然をほころばせ溢れている。
かっこをつけて、隠そうとすればするほど、都市は硬直化し自然はその隙間を縫って、突然に溢れていく。
都市の機能は必然で必要なものだ。
人の営みを守り続ける存在として。
解雇されたことが、おれの幅を広げている実感は確かにある。
そして、一緒に面白がってくれる人たちがいる。
それが人徳があると自分で言うのはちょっと違うけど、
でも、ありがたいことだし、
小さな思いだけど、この思いは小さくても、
一緒に続けていけたらなと自信がついた。
そして、仲間がいるありがたさとその責任を実感した。
電車からおりる。
街灯で照らされた道を歩く。
遠くから、最後の電車が夜の向こうへ消えていく
街路樹は人がそこに埋め、管理された存在。
その下には名も知れない雑草が、その管理された隙間を埋めている。
自然がそこにあって、ぬぐえない力づよさを見せつけてくれた。
それはただ自然のままにある。怨念や執念なんてものはないだろう。
そこに根を下ろしたというだけの話。
その雑草を愛でるおれがいる。それでいいのかもしれない。
おれには思いがある。
明日も良い一日でありますように
あとがき
ずっと、解雇されてからもあの仕事が好きだったなと思う。じゃあなんで解雇されるようなことをしたんだ?と思うけど、それも含めておれはあの仕事が好きだったし、だからこそそういうことをしていたのだと思う。今の仕事は、仕事とか環境は良いと思うけど、正直に言うと、まったく興味がわかない。半年くらいやれば興味くらい出るかなと思ってたけど、さっぱりだ。年齢もあるかもしれない。とはいえ、仕事は評価されているのも複雑な心境だ。
片手間でイベントを主催した。想いが強くなりすぎたんだろう。本当にありがたいことにたくさんの人が来てくれて楽しんでくれた。そして、手伝ってくれた仲間がいた。
おれは続けたかった。なんか、その気持ちを今だから違うかたちでチャレンジしてもいいのかなとと、飲みの席で考えた。夢は語れば楽しい、やれば苦しい。でもその夢は大きくはなる気がする。
トピック
思い出の街は都市としてそこにある
解雇されたくせに
だから、夢を語り動かしたいとちょっと本気に
