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光バイト 第四話

第四話 約束のクリスマス

十二月。
街は少しずつクリスマスの色に染まり始めていた。
フェリーチェにも小さなクリスマスツリーが飾られている。
ソフィの首には赤いリボン。
本人は迷惑そうだった。
「似合ってるぞ。」
恒一が言う。

「平和ですね。」
蒼が笑う。

その時、
恒一が一枚の依頼書を差し出した。

【光バイト】
クリスマス会補助
市立総合病院小児病棟

「病院ですか。」
「そう。」
恒一は静かに頷く。
「子ども達のクリスマス会だ。」

クリスマスイブ。
蒼はサンタクロースの格好をして病院へ向かった。
赤い服。
白いひげ。
鏡を見ると少し笑ってしまう。
「似合ってますよ。」
看護師が言った。
「そうですか?」
「はい。」
「ちょっと頼りないサンタですけど。」
二人は笑った。
病棟の子ども達は大喜びだった。
プレゼント。
ゲーム大会。
写真撮影。
病院中に笑い声が響く。
しかし。
その中で一人だけ、
ほとんど笑わない女の子がいた。
美咲。
九歳。
ベッドの上に座り、
みんなを見ている。
蒼は近づいた。
「サンタさんだよ。」
美咲は小さく頷く。
「うん。」
それだけだった。
クリスマス会の終わり。
蒼は聞いてみた。
「プレゼント何が欲しい?」
美咲は少し考える。
そして静かに答えた。
退院。」
蒼は言葉を失った。
「ごめんね。」
美咲は笑った。
「サンタさんでも無理だよね。」
その笑顔が、
なぜかとても寂しく見えた。
それから蒼は、
病院へ何度か顔を出すようになった。
光バイトではない。
ただ気になったのだ。
フェリーチェの写真を見せる。
ソフィの話をする。
「大きい犬なの?」
「大きい。」
「賢い?」
「パンの前では賢くない。」
美咲は笑った。
初めて見る笑顔だった。
「会ってみたい。」
美咲が言う。
「ソフィに?」
「うん。」
蒼は頷く。
「じゃあ約束しよう。」
「春になったら。」
「フェリーチェに来るんだ。」
「ソフィ席もある。」
「ソフィ席?」
蒼は説明する。
ステンドグラス。
窓際の席。
ソフィ。
パン。
美咲は声を出して笑った。
「変なお店。」
「最高のお店だよ。」
二人は指切りをした。
約束だった。

年が明けた。
一月。
病院から電話が入る。
蒼は言葉を失った。
美咲が亡くなった。
頭が真っ白になる。
約束したのに。
春になったら。
フェリーチェに来るって。
ソフィに会うって。
何も守れなかった。。。。。

蒼は病院へ向かった。
病室は静かだった。
窓の外には冬空。
蒼はただ立ち尽くした。

フェリーチェへ戻る。
ソフィ席に座る。
何も言えない。
ソフィが近づいてきた。
足元に伏せる。
いつものように。
「俺。」
蒼が呟く。
「何もできなかった。」
「約束も守れなかった。」
恒一は黙って聞いていた。

しばらくして言う。
「そうかな。」
蒼は顔を上げる。
恒一は一通の封筒を差し出した。
美咲の母親が届けてくれたものだった。
震える手で開く。
中には一枚の手紙。

【蒼お兄ちゃんへ】
サンタさんありがとう。
クリスマス楽しかった。
フェリーチェのお話も好き。
ソフィのお話も好き。
パンが好きな犬って面白い。
本当はね。
少し怖かった。
でもクリスマスの日は、
楽しかった。
春まで頑張ろうって思えた。
ありがとう。
最後まで笑っていられたよ。
美咲より



文字が滲む。
蒼の涙だった。
恒一が静かに言う。
「人を支える仕事はね。」
「人を助ける仕事じゃない。」
「その人の時間を。」
「少しでも温かくする仕事なんだ。」
蒼は手紙を握りしめた。
助けられないこともある。
救えないこともある。
それでも。
寄り添うことには意味がある。
そのことを、
美咲が教えてくれた。

その時だった。
隣のパン屋の扉が開く。
焼きたてメロンパンの香り。
ソフィが立ち上がる。
一直線。
パンへ。
蒼は涙を拭きながら笑った。
「空気読めよ。」
恒一も笑う。
「無理だな。」
「ソフィだから。」
店内に小さな笑い声が響く。
ステンドグラスの光が、
静かに二人を照らしていた。

第五話へつづく 🎄☕🐶🌈📖✨

#創作大賞2026   #お仕事小説部門

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