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パートナーの朝礼で、ラジオ体操を一緒にしていた

桂川です。才流のコンサルタント兼パートナー戦略研究会の主宰者として活動中。2025年に出版した書籍『パートナービジネス戦略 基本と実践』は界隈の経営者やパートナーセールス、事業開発の方から必読書との声をいただき、著者冥利に尽きる思いです。

先日、あるメディアで、パートナービジネスについて取材を受けました。その際に話そうと思ったことを、あらためて自分の言葉で書き直したのがこの記事です。

パートナービジネスの解像度を上げたい方にオススメ。コーヒーでも飲みながらお読みください。(ラジオ・ポッドキャスト風の音声でも聞けます)


朝八時半。静岡県沼津市、とあるパートナー企業の駐車場で、私はラジオ体操をしている。

隣にいるのは、その会社の営業担当者たち。私はメーカーの人間で、彼らに自社の商材を売ってもらう立場だ。本来なら、会議室で商品説明でもしていればいい。

でも私は、彼らの朝礼に混ざっていた。ラジオ体操をして、そのあと掃除もした。二十代の頃の話だ。

なぜそんなことをしていたのか。長いあいだ、うまく説明できずにいた。

「売ってください」と言って、あとは祈る

東証プライムに上場しているメーカーに入って、パートナービジネスの部署に配属された。もう二十年以上前になる。

いま思えば、当時の私は浅かった。マージンを決めて、契約を結んで、商材を渡す。あとは売ってくれることを祈る。それで回ると思っていた。

祈る。本当にそうだった。

契約社数だけは増えていく。なのに商談が生まれない。勉強会を開けば人は集まる。「勉強になりました」と言ってくれる。それから何も起きない。

なぜ動いてくれないのか。当時の私にはわからなかった。商材は悪くない。マージンも他社と遜色ない。説明もしている。それでも動かない。

いま振り返れば、答えは簡単だ。彼らが自社商材を売る理由を、私は考えていなかった。

パートナーの営業担当者は、四十も五十も商材を抱えている。その中で今日どれを提案するかを、常に選んでいる。私の商材が選ばれる理由。それを設計せずに、選ばれるのを祈っていた。

祈りは、戦略ではない。

言語化できなかった、すごい人の話

理由を考えるようになって、まず手をつけたのが「売れる型」だった。

パートナーに渡すべきは、商材そのものではなく、売り方なのではないか。そう考えて、社内で飛び抜けて売れている営業に目をつけた。

三十歳ほど年上の人だった。何を売っても売れる。言葉にできない引力がある。この人の売り方を型にして渡せば、パートナーも売れるようになるはずだ。

一日、二日と同行させてもらった。全部メモした。何を言い、どこで間を取り、どう場をつくるのか。正直、今見返すと笑ってしまうくらい細かく書き留めていた。

結局、できなかった。

その人が持っているのは、技術ではなく佇まいだった。長年かけて身についた、その人だけのもの。私が真似しても、別人の下手な物真似にしかならない。ましてや、会ったこともないパートナーの営業に渡せるはずがない。

型づくりは、振り出しに戻った。

では、何なら渡せるのか。

そこで発想を変えた。真似できない人を型にするのではなく、誰が使っても再現できるものを探す

受注した案件を十社、二十社と並べて、業種、規模、フェーズで切ってみる。すると勝率の高い領域が浮かんでくる。そこで止めずに、なぜその領域で勝てるのかまで掘る。顧客は何と比較し、最後の決め手は何だったのか。

掘りきると、驚くほど短い言葉が残る。ある複合機メーカーがパートナーに伝えていたのは、「印刷一枚、五円ですよ」というワンフレーズの言葉だった。

短い。覚えられる。だから、多くの商材を抱えた営業の口からも自然に出てくる。

覚えられない商材は、提案されない。 ここまで研ぎ澄ませて、はじめて型は現場で使われる。

渡すものは、言葉だけとは限らない。

前職で、ある商材の導入効果を示す簡易シミュレーションシートを、営業の立場で自作したことがある。数字を何項目か入れると、削減できるコストが出る。それだけのものだ。でも、これをパートナーに渡して使ってもらったら、自分でも驚くほど売れた。

理屈はさっきと同じだ。パートナーの営業は、顧客の前で効果を語りきれない。四十商材のうちの一つに、そこまで詳しくなれない。でもシートに数字を入れるだけなら、その場でできる。顧客の目の前で、削減額が出る。話が動く。

後日談がある。このシートは商品企画部門の目に留まり、やがて全社の標準ツールになっていった。現場の一営業がこしらえた道具が、会社の武器になった。

キラーフレーズも、キラーコンテンツも、やっていることは同じ。売れる理由を、パートナーが現場でそのまま使える形に落とす。 商材には、それぞれ効きどころがある。その一点を見つけて、手に取れる形にする。それを商材の数だけ、地道に繰り返していく。

型を渡しても、まだ動かない

型ができた。パートナーに渡せる武器が手に入った。

それでも、動かないパートナーはやっぱり動かない。

当たり前だった。型は道具でしかない。道具を棚に並べても、手に取る人がいなければ何も起きない。渡す相手を、私はまだ見ていなかった。

ここで多くのメーカーは、渡す先であるパートナーを増やそうとする。百社と契約すれば、そのうち何社かは動くだろう、と。

「とりあえず契約しましょう、損はないので」

そう言えば、たいていのパートナーは頷いてくれる。損がないから。そして、その先で何も起きない。百社と契約して、実際に動いているのは五社。よく見る光景だ。

数を増やしても、確率は上がらない。上がるのは、管理コストだけだ。

だから逆をやる。三社から五社に絞る。ただし、どの三社でもいいわけではない。こちらの商材を担ぐ理由があり、担当者の熱量も高い。利害が噛み合う相手を選ぶ。ここを外すと、いくら伴走しても徒労に終わる。

絞り込んだその中で、たった一人でいい、「この商材で売れた」という人をつくりにいく。

一人目をつくるための、九十日

勉強会に数十人が集まる。その中に、必ず一割ほど、食いつきのいい人がいる。質問が具体的な人。すでに顧客の顔を思い浮かべている人。

その人と、一対一で会う。

何に困っているのか。どんな顧客を抱えているのか。普段どんな提案をしていて、どこで詰まっているのか。聞くのは商材の話ではない。その人の仕事の話だ。

ここで見つけたいのは、会社としてのメリットではない。その人個人が、この商材を担ぐ理由だ。数字を伸ばしたい。社内で認められたい。キャリアを一段上げたい。人には必ず、何かしらの野心がある。

思い切って、直接聞いてしまうこともある。「◯◯さんの野心って、なんですか」。すると、会社の建前や表向きの個人評価の奥から、堰を切ったように本音が出てくることがある。踏み込んで聞かれて、はじめて外れる何かがある。そこに接続できたとき、初めて人は動くこともある。

そして期限がある。九十日

明確な根拠のある数字ではない。二十年の現場で得た感覚値だ。ただ、経験上ここははっきりしている。契約から三か月。熱が高いうちに、一人目の成功者をつくってしまう。

熱は、放っておけば冷める。顧客を五件、十件と紹介しても案件にならない。するとパートナーの担当者は思い始める。この商品、売れないんじゃないか。

一度そう思われると、温め直すのは骨が折れる。ゼロからではなく、マイナスからのやり直しになる。

ある大手企業でパートナー営業本部を率いる本部長も、同じことを言っていた。一度離れたパートナーは、戻ってこない。それが現実だと。長年この世界の最前線にいる人ほど、この手応えは共通している。

だから短期集中で伴走する。同行し、共同提案し、案件のハンドリングまで一緒にやる。自社に入った新人を一人前に育てるときと、感覚は同じだ。手取り足取り。

このとき、会議室にいては何も生まれない。

十五ほど年上の先輩に、新規パートナーの立ち上げの名手がいた。その人が何をしていたか。契約したパートナーのもとへ毎日通い、机を並べて一緒に架電する。週の半分は、夕方にさまざまな商材の勉強会を開く。毎日だ。毎日、通う。

派手なことは何もしていない。ただ、地味な接触を欠かさず積み上げる。すると、あるとき場の空気が変わる。一件目が出る。二件目が続く。止まっていた歯車が、回り始める。

モメンタムは、粛々と作るもの。一発の必殺技で生まれる熱はない。毎日の反復が、ある閾値を超えたときに、はじめて動き出す。そんな感覚。

拠点を回るか、本社で満足するか

大手事務機商社さんと契約した二社の話をしたい。

一社は本社と契約を交わし、オンラインで全国向けの集合学習会を開いた。効率がいい。一度で全拠点に届く。

売れなかった。

もう一社は、各拠点を一つずつ回った。拠点内で学習会をやり、拠点長と話し、営業一人ひとりと話す。半年かけて、ずっとそれをやった。

すると、食いついてくる拠点が出てくる。そこで最初の一件が生まれる。反応の薄い拠点には、優先度を下げて対応する。濃淡をつける。

差がついたのは、商材ではない。距離感だと思う。

朝礼のラジオ体操を思い出す。

あの頃の私は、理屈ではなく本能でやっていた。商品説明をしても届かない。ならば、彼らの一日の始まりに混ざるしかない。同じ体操をして、同じ床を掃いて、そこから話が始まる。

あれは非効率な行為ではなかった。距離を詰めるための、最短距離だった。

火をつける。広げる。絶やさない

一人目が生まれたら、次はどう広げるか。

私はいつも、三段階で考える。火をつける、火を広げる、火を絶やさない。

火をつけるのは、いま書いた通りだ。たった一人の熱狂的な味方を見つけ、その人に最初の成功を届ける。

火を広げるフェーズで大事なのは、その人の上司を巻き込むことだ。ボトムアップ型の組織では、上司の一声が組織の意思決定に変わる。「この商材、少し力を入れてみよう」。この号令が出た瞬間、一人の成功体験がチームのモメンタムになる。

そして、事例共有会をやる。

ここでひとつだけ、絶対に守っていることがある。メーカーが講師として立たない。

売ってくれたパートナーの営業本人に、話してもらう。

理由は単純だ。同僚が売れた話は、みんな真剣に聞く。「あいつができたなら、自分にもできるかもしれない」。でもメーカーが同じ話をすると、途端にポジショントークに聞こえる。

だから前には出ない。スポットライトは、売った人に当てる。ヒーローにする。称賛が、次の挑戦者を生む。

火は、そうやって広がっていく。

魔法の杖はない

パートナービジネスに魔法の杖があるかというと、ない。

二十年やってきて、ない。

数を追わない。直販が好調なうちに仕込む。一人目をつくって、上司を巻き込む。前には出ない。

どれも、当たり前のことだ。ただ、当たり前を続けることが、いちばん難しい。

パートナービジネスは、人と人のつながりの中で生まれる。AIで効率化できる部分は、これからどんどん増えるだろう。それでも、人が人を動かす部分は残る。

あの朝、ラジオ体操をしながら、私は何も売っていなかった。



今回書いたような現場の話は、書籍『パートナービジネス戦略 基本と実践』(日本実業出版社)でも体系立ててまとめています。 才流では、パートナービジネス戦略の立ち上げ・強化を支援するコンサルティングや研究会を行っています。よければあわせてどうぞ。

才流(サイル)|パートナー戦略研究会、お試し参加できます。


※この話は実際の経験をもとにしていますが、登場する個人や企業が特定されないよう、細部はぼかし、少し脚色しています。

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桂川 誠 | パートナービジネス戦略 著者&パートナー戦略研究会主宰者 読んでいただきありがとうございます。拙い文章で恐縮ですが、日頃の気づきをシェアしていきたいと思っています。 サポートいただけると嬉しいです!