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何が同じで、何が違うか——海外パートナービジネスの本で目が止まった5つの言葉

こんにちは。桂川(才流のコンサルタント兼パートナー戦略研究会の主宰者として活動中)です。

拙書『パートナービジネス戦略 基本と実践』は、Amazonレビューで高い星と多くのコメントをいただき、とても励みになっています。ありがとうございます。
パートナービジネスって、海外と国内で考え方や施策に差はあるの?——この問いが気になり海外書籍を読み漁っていた頃のメモを引っ張り出してきて、改めてまとめました。

パートナービジネスにアンテナが立っている方にオススメです。


パートナー契約は増えた。でも売上が立たない。
育成プログラムも作った。でも稼働しない。

パートナービジネスに取り組む企業から、こうした相談が年々増えている。構造的に何かがズレているのに、そのズレの正体がつかめないまま、施策だけが積み上がっていく。

Hans Peter Bech著『Building Successful Partner Channels』は、欧州ソフトウェア業界で35年以上チャネル構築に携わってきた著者が書いた、インダイレクトチャネル戦略の実践書。読みながら、グローバルと日本で重なる部分と、明確にズレる部分を考え続けた。目が止まったフレーズを5つ、日本の現場目線で読み解いてみたい。

1.「金があるならダイレクトで行け。時間があるならインダイレクトで行け」

Bechが友人の言葉として紹介しているフレーズだが、ここで読む手が止まった。

刺さりすぎて、自分の言葉に置き換えてXにポストしてしまった。

インダイレクトチャネル(パートナーチャネル)は最短ルートではない。でも、最もスケーラブルなルートにはなりうる。ヤプリはわずか4名のパートナー担当で、新規受注の30%をパートナー経由で生み出している。こういう構造は一朝一夕では作れない。

パートナービジネスの立ち上げには時間がかかる。パートナーの事業モデルを理解し、採用し、育成し、成果が出るまで伴走する。その間にダイレクトなら何件も受注できたかもしれない。それでもインダイレクトを選ぶのは、自社の営業リソースだけでは届かない市場を取りに行くため。

ただし覚悟だけでは始められない。直販で売れないものを、パートナーが魔法のように売ってくれることはない。この順序を間違えてしまうケースが、思った以上に多い。

2.「パートナーの損益モデルが成立しない限り、動かない」

パートナービジネスで、意外と見過ごされがちな盲点がここにある。

パートナーへの提案で語られるのは、たいていマージン率と製品の優位性。でもパートナーの経営者や責任者が本当に知りたいのは、この製品を扱うことで自社のPLがどう変わるか。そこに集約される。

本書にはこうある。インダイレクトチャネルとは「他者のビジネスモデルを自社内に組み込む挑戦」だと。ベンダーはプロダクトリーダーシップで勝負し、パートナーはカスタマーインティマシーで勝負する。同じ製品を扱っていても、見ている世界がまるで違う。その違いを理解しようと思ったら、パートナーの損益構造に踏み込んでいくのが一番の近道だと感じている。

私はこのプロセスを、PPFという3つの問いに落とし込んで使っている。パートナーの価値が高まるか。儲かるか。売りやすいか。拙著で体系化したフレームワークだが、読んでいてBechの主張との重なりに気づいた。この3つに答えられない商材は、どれだけマージンを積んでも、なかなか担いではもらえない。

クライアントのパートナー施策を支援するとき、パートナーの事業計画を一緒に描いてみせることがある。すると「こういう考え方をしたことがなかった」と驚かれることが少なくない。3〜5年のシミュレーション、何ヶ月でどれくらいの受注が見込めるか、利益はどれくらい出るか、パートナーの本業にどんな貢献ができるか。この1枚が描けないうちは、育成プログラムの設計はまだ早いかもしれない。

もう一つ大事なのは、メーカー・パートナー・エンドユーザーの三者がメリットを教授する構造になっているかどうか。どこか一者の利益が欠ければ、その座組は遅かれ早かれ崩れていく。

三益トライアングル|才流

※ 関連記事:パートナービジネスを成功させる2つのポイント

3.「育てるべきはスター(5%)と成長可能性層(15%)。その他(80%)には最小支援」

パートナーへのリソース配分を完全に均等にしている企業は、さすがに聞いたことがない。ただ、その傾斜の根拠が曖昧なケースは多い。顧客基盤が大きいから、業界での知名度があるから、そうした淡い期待だけで注力先を決めてしまい、結果として動かないパートナーに時間をかけ続けていることがある。

Bechの表現を借りれば、上位5%のスターには手厚い関係維持を、成長可能性のある15%に育成リソースを集中させ、残り80%には最小限の支援にとどめよ、と。

ただ、ここは前提の違いに注意したい。Bechが想定しているのは、グローバル展開する強いプロダクトを持つ欧米ソフトウェア企業。数百社、数千社を有に超える規模のパートナーネットワークが前提だからこそ、大量に採用して自然淘汰で選別するモデルが成り立つ。

日本市場ではそこまでの規模を必要としないケースも多い。むしろ最初から選んで組むほうが現実的で、そうすればスターや成長可能性層の比率は当然上がる。全員がスターになるわけではないが、5%-15%よりはずっと高い割合を目指せる。

大事なのは数の大小ではなく、均等配分をやめるという意思決定そのものだと考えている。拙著ではこれを4C-Fitというフレームワークで整理しているが、ポテンシャルと協業意欲の2軸でパートナーを評価し、注力先を絞り込むという考え方になる。意欲が高くてもポテンシャルが低いパートナーに時間をかけすぎてしまったり、逆にポテンシャルがあるのに意欲が見えないパートナーを放置してしまったり。一番勿体ないのは、インストアシェアを把握できておらず、ポテンシャルを見抜けていないケース。こうしたミスマッチは、層別の視点がないと気づきにくい。

アライアンス評価の4C-Fit|才流

4.「インセンティブは企業にではなく"人"に与えよ」

シンプルだけど、深い主張だと思う。パートナー企業の経営者と、現場の営業担当者の利害は一致しないことが多い。経営者がどれだけ前向きでも、現場が動かなければ売上にはつながらない。だからインセンティブは法人ではなく個人に届けよ、とBechは言う。

欧米ではSPIF(営業個人へのボーナス)がチャネルインセンティブの定番として広く使われている。ただし、目標設計が曖昧だったり繰り返しすぎると効果が薄れるとも言われていて、万能ではない。とはいえ「個人に届ける」という設計思想そのものは、的を射ていると感じる。

ただ、日本の大手中堅、上場を見据えるベンチャー企業では金銭インセンティブを個人に直接渡すのが社内ガイドラインやコンプライアンス上ほぼ不可能だったりする。(パートナーが、中小企業や個人事業主なら積極的に検討したい)

では、何で人を動かすか。
ここが設計の腕の見せどころになる。

たとえば、認定資格で社内評価が上がる仕組み。成功事例の名前入り掲載や、カンファレンスでの登壇。その人の社内での株が上がること、市場で名前が売れること。

金銭を渡せないなら、名前が残る場を用意する

クラウドサインの事例が印象に残っている。パートナーの営業担当者が「売りたい」と思う仕組みをゼロから設計していた。金銭ではなく、提案のしやすさ、顧客への説明のしやすさ、そして「この製品を扱っている自分」への誇り。動機づけの設計が、マージン率よりも先にくる。

関係の深さによって効くインセンティブの種類も変わってくる。担当者同士の接触段階で共創を求めても響かない。まず信頼を作り、成果が出たら部門長を巻き込み、やがて経営層同士の対話へと発展させていく。この段階を飛ばさないことが、思った以上に大事になる。

ここはBechの本には書かれていない。
日本にローカライズして設計すべき領域ではないか。

5.「市場でのリーダーシップに対する野心がなければ、チャネル戦略は機能しない」

最後にこのフレーズを持ってきた。ここまでの4つはテクニックや設計思想の話だった。でもBechが本書の冒頭で真っ先に言い切っているのは、そうした設計の手前にある前提条件の話。

パートナーは勝ち馬に乗りたい。

市場でリーダーになる意志を持たない企業と組んでも、自分たちが損をするだけ。そのことを、パートナーはよく知っている。だから野心のない企業には、パートナーが「一緒にやろう」と思えない。共鳴が生まれないのだと思う。

クラウドサインが「国民的製品にする」と宣言したこと。サイボウズがkintoneを軸に、20年かけてパートナーが独自ビジネスを築けるエコシステムを育ててきたこと。これらの企業に共通しているのは、市場でどこまで行くかを本気で示していること。

野心を示すことは、パートナーマーケティングのテクニックではなく、最初の一歩そのもの。実際、才流(サイル)で公開している協業提案書のテンプレートにも、「未来図」のスライドを入れている。自分たちはこの市場でどこまで行くのか。パートナーとどんな景色を見たいのか。ここを本気で語れるかどうかが、すべての起点になるのだと思ったりもする。

パートナーは、あなたの製品ではなく、あなたの覚悟を見ている。

※ 関連記事:なぜ、パートナーへの提案は「検討します」で終わる?協業を動かす4つの問い


煮詰めると、こうなる

5つのフレーズから受け取ったメッセージを、あえて強い言葉で煮詰めるとこうなる。

  • 時間がかかる覚悟を持て

  • パートナーの経営を理解しろ

  • 全員に均等配分するな

  • 人を動かす設計を考えろ

  • そもそも野心がなければ何も始まらない

共通しているのは、パートナーを自社の販売チャネルではなく、独立した事業体として見ているかどうかという視座。代理店、特約店、販社といった呼び方はしないということ。一部界隈では、イコールパートナーと呼ぶのはまさに。

Bechの本はグローバルソフトウェア企業の視点で、なぜそうすべきかを語っている。日本市場でどうやるかについては、拙著『パートナービジネス戦略 基本と実践』にまとめた。PPF、4C-Fit、5ステップといった実務ツールと、国内20社以上の事例を収録している。Bechの思想と併せて読むと、海外の理論と日本の実践が立体的につながると思う。

気になった方は、拙書を手にとって読んでくださるとうれしいなぁ。
既に読まれた方は、ぜひ感想をお聞かせください。


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桂川 誠 | パートナービジネス戦略 著者&パートナー戦略研究会主宰者 読んでいただきありがとうございます。拙い文章で恐縮ですが、日頃の気づきをシェアしていきたいと思っています。 サポートいただけると嬉しいです!