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書店の棚に、ぽっかり空いた穴がある。日本のBtoBを支える仕事に、なぜ教科書がないのか

こんにちは。桂川です。
パートナービジネスとBtoBマーケティングに情熱を注いでいます。

拙書、『パートナービジネス戦略 基本と実践』、おかげさまで★4.9の評価をいただいており、感謝、感謝です。(2026年5月29日現在)

『パートナービジネス戦略 基本と実践』(日本実業出版社)

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このnoteは、今まさにアライアンスやパートナーセールス(代理店営業)の最前線で、「正解のない問い」と格闘している同志に向けて書いています。

前回のnoteでは「なぜ私が書いたのか」という個人的な想いを綴りました。

今回は視点を変えて、「そもそも、なぜ今まで教科書が存在しなかったのか?」という問いについて、思考を整理しました。

これは一つの仮説ですが、みなさんが日々感じている「言葉にできないモヤモヤ」の正体を突き止めるヒントになれば幸いです。

では、始めます。


書店の棚に、ぽっかり空いた穴がある

書店のビジネス書コーナーに立つと、いつも同じ場所で足が止まる。

営業の棚は本で溢れている。マーケティングも選び放題だ。最新理論から実践ガイドまで、何でも揃う。

でも、その隣にあるはずの棚が、ない。

代理店やアライアンスの設計図を体系的に書いた本。隅から隅まで探しても、たぶん一冊も見つからない。

パートナービジネスは、ニッチな話ではない。世界の商取引の約75%がパートナー経由だという調査がある(Forrester Research)。日本でも、中小企業向けにIT製品を売る事業者の約76%がパートナーチャネルを使っている(中小企業庁、2019年)。

これだけ多くの会社が当たり前に選ぶ戦略なのに、教科書だけが、どこにもない。

多くの担当者が、手書きのメモと先輩の口伝だけを頼りに、手ぶらで現場に出ている。私もそうだった。

なぜ、この領域には知識が積み上がらないのか。理由をたどると、個人の努力ではどうにもならない壁が4つ見えてきた。


一人で5役を演じる仕事

パートナービジネスの担当者は、ただの営業ではない。

パートナーと一緒に売る。動かす。成果を支える。協業を仕組む。事業をともに創る。営業、マーケティング、サクセス、企画、事業開発——この5つを一人で背負う。

社内で分業されていても、パートナー企業の前に立つ瞬間には、5つの視点を全部持っていないと話にならない。

私がパートナーセールスだった頃は、地方の中小パートナーに対して、半分、中小企業診断士のつもりで向き合っていた。営業の理屈だけ持っていくと、相手の経営全体が見えなくなる。

求められる能力が広すぎて、誰も必勝法を一本の線で語れなかった。これが一つ目の壁だ。


設計図を描くのは、一生に一度

ほとんどの担当者は、もう出来上がった仕組みを回すことに追われている。

プログラムをゼロから設計する機会は、事業の立ち上げか、大きな戦略転換のときにしか来ない。下手をすると、一人のキャリアで一度きりだ。

しかも、ようやく勘所がつかめてきた頃に、異動や転職で現場を離れる。「もっとこうすればよかった」という失敗も成功も、組織には残らず、本人の記憶と一緒に消えていく。

秘伝のタレ、とよく言う。でも、そのタレにレシピはなかった。社内で味わって、終わり。市場には一滴も出回らない。


ラジオ体操に通っていた頃の話

昔は、あうんの呼吸と義理人情が、最強のフレームワークだった。

日本のパートナーシップは長いあいだ、系列と資本関係が主役だった。そこで効くのは再現性のある科学ではなく、人間関係というアート。そして飲みニケーションを含む調整力だ。

私も、その非科学のど真ん中にいた。

社長と話を合わせるために日経新聞を読み込む。ゴルフを始める。週に一度、パートナー会社の朝のラジオ体操に参加する。顔を売って、懐に入る。パートナーセールスとして数ヶ月が経ったか経たないかのタイミングで、当時の上司から「バカヤロー!夜討ち朝駆けはパートナーセールスの基本だ」と叱咤激励されたことは未だに記憶にこびりついている。当時はそれ以外に、成果の出し方を知らなかった。

書いていて、若かったな、と思う。

でも、その効き目が切れつつある。資本関係のないSaaSやクラウドが台頭し、気合と接待ではパートナーが動かない時代になった。(もちろん、ウェットな関係も大事です。念のため。)

プリンターを売って知った、残酷な事実

業界が違えば、パートナーが動く力学はまるで変わる。

私が長く扱っていた商材の一つは、業務用プリンターだった。顧客が全方位だから、パートナーもバラバラになる。OA機器販社、文具店、EC、SIer、コンサル、電材商社、機械商社、メーカー。

そこで骨身に沁みた。ある業界で効いた手は、隣の業界では通じない。

在庫を抱える製造業の卸の論理。信頼を売る地域販社の論理。SIで稼ぐSIerの論理。インセンティブも、商流も、話す言葉さえ違う。

この断絶が、業界をまたいだ共通言語——つまり教科書——を作らせなかった最後の壁だと思っている。


それでも、全部に共通する一点がある

4つの壁を前に、私たちはお手上げなのか。

そうではない。業界も商習慣も違う複雑な世界にも、うまくいっている会社だけが、そろって握っているものがある。それがPPF(Product-Partner Fit)だ。

スタートアップでよく使うPMF、つまり顧客への適合に対して、パートナービジネスで効くのはパートナーへの適合

顧客は課題を解くために製品を買う。けれどパートナーは、自社が成長するために製品を扱う。

あなたの製品を扱うと、パートナーは儲かるのか。成長できるのか。

このシンプルな一点に、4つの壁を越える鍵がある。

プロダクト・パートナー・フィット(PPF)

噛み砕くと、見るところは3つになる。

ひとつは収益性。単発のマージンだけでなく、ストック収益として相手の経営をちゃんと潤せるか。パートナーの経営会議で、自社製品が儲かる商材として議題に挙がるかどうか。

問い:「パートナーの経営会議で、自社製品は『儲かる商材』として議題に挙がるか?」

ふたつめは戦略性。その製品を扱うことが、相手の既存事業や顧客基盤の強化につながるか。これを担ぐと競合に差をつけられる、と思ってもらえるか。

問い:「自社製品を担ぐことで、パートナーは競合他社と差別化できるか?」

みっつめは運用性。現場が売りやすいか。パートナーの担当者が、明日から説明不要で売れる道具が揃っているか。

問い:「パートナーの現場担当者が、明日から説明不要で売れるツールは揃っているか?」

「売ってください」とお願いするのではない。この3つを組み合わせて、相手が売りたくなる構造をつくる。それが、パートナーが自分から動き出すスイッチになる。


丸腰で、戦場に出る前に

教科書がなかったのは、それだけこのビジネスが難しく、壁が幾重にも絡み合っていたからだと思う。

でも、4つの壁の存在に気づき、PPFという地図を一枚持つだけで、見える景色は変わる。複雑なものは、もう少し科学できる。

契約書の数は増えるのに、成果につながる案件が生まれてこない。契約で止まったパートナーシップを前に、次の一手に迷っているなら——その迷いを、少しだけ言葉にする手伝いができればと思って、一冊にまとめました。

『パートナービジネス戦略 基本と実践』(日本実業出版社)、発売中です。 https://www.amazon.co.jp/dp/4534062370

ぜひお手に取ってみてください。
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<本書の構成>
第1部:基本編 パートナービジネスの全体像をつかむ
 - パートナービジネスの基本を理解する
 - パートナービジネスの立ち上げ方を理解する
第2部:戦略編 立ち上げの設計図を描く
 - パートナー戦略を策定する
 - パートナープログラムを設計する
 - コンテンツを整備する
 - パ ートナー候補にアプローチする
 - 最初の成功者を生み出す
第3部:実践編 信頼・集中・共創で協業を拡大する
 - 接点を広げ・深め、協業を拡大する
 - 注力パートナーに集中し、仕組みで拡大する
 - ロイヤルティプログラムで成果を最大化する


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桂川 誠 | パートナービジネス戦略 著者&パートナー戦略研究会主宰者 読んでいただきありがとうございます。拙い文章で恐縮ですが、日頃の気づきをシェアしていきたいと思っています。 サポートいただけると嬉しいです!