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【掌編小説】『ハシワタシ』


放課後、校舎裏。

目の前には、3人の後輩女子が居た。

一歩前に出た子は、震える声で僕の名前を呼ぶ。


「高原先輩……」


なかなか次の言葉が出ないのか、

「ほら、リナ、言わなきゃ」と、

後ろの友達が急かす。


──これは、


──これって、


「先輩、あの……!」


ごくりと、唾を飲み込んだ。


「清田さんって、彼女いますか!?」


……きよた、って、

僕の親友の?


言い終えたリナと呼ばれる生徒は、

やりきった顔をしていた。

後ろの2人もまた、

良い笑顔でガッツポーズをしていた。



青春ってこんなんか?

帰り道の河川敷。


チャリを漕ぐ僕は思い出す。


『高原ー、◯◯君ってさあ』

『これ、渡してくれないかな、△△に』

『えっ? そこに□も来るの?』


誰かと誰かを繋ぐことしかできんの? 僕は?

自分の人生ですら主役になれんの?


諦めるか。恋愛。


「部活頑張ろ……」



高校生になって、
中学の頃から引き続きソフトテニス部に入った。

そこそこの腕前の僕は、そこそこ活躍して、
そこそこ男女構わずモテた。ある意味。


「高原君、ちょっと聞いてもいいかな……?」

「ああ、◇◇だったら今フリーだよ。☆☆はまだ別れてないと思うけど」

「……っ、あ、ありがと」


読みも、捌き方も上手くなった。



部活終わりの6時過ぎ。

夏の長い西日を受けたテニスコートにいるのは、
僕一人になっていた。

ヒグラシの鳴く声だけが聴こえる中、
無心でネットを畳んでいる。

シャツの汗は乾き始めていたが、
肌に残るベタつきはうっとうしい。

さっさと家に帰ってシャワーを浴びたかった。


畳み終えたネットを雑に抱えて、部室に戻ろうとしたとき、


コート出入口に立っている誰かに気づいた。


スポーツウェアのままの女子。

ラケットを肩にかけ、気だるそうにフェンスにもたれていたのは、女子キャプテンの松岡だった。

「松岡? 何してんの?」

歩きながら僕は声をかけた。

「こっちのセリフだわ」

松岡の前で止まった。

「コート閉めるぞ」

「なんで高原だけ残ってんのよ」

「しゃあないだろ、みんな用事で先に帰りたいって言うんだから」


「高原が残る理由にならなくない?」


僕は松岡をコート外に促し、入り口に鍵をかける。


「持ちつ持たれつってやつだろ」


「高原が『持たれた』ことはあるの?」


閉め終えた鍵を抜いた。


「……ないかな。まだ」


松岡はその返事に、長い長いため息をついた。


そのあとに言った。


「帰ろ、正門閉められちゃう」

「いや、まあ、帰るけど」

「行くよ」

と、先に歩き出した松岡についていけなかった。


「松岡」


呼んだ。


松岡は振り返る。

眉間にしわが寄っていた。


「僕しかいないんだけど」


「言ってる意味わかんない」


「松岡は誰と帰りたいの?」


松岡は「はぁ?」という顔をした。


「高原の目には誰が見えてるの?」


少し寂しそうな声だった。


「誰って……松岡だけど」


「じゃあ、わたしが見てるのは?」


松岡の目は西日のオレンジ色が映っていた。


真剣な眼差しは、僕だけを見ていた。



僕は、呑気にも思っていた。


テニス以外で鼓動が早くなるなんて、

いつ以来なんだろう、と。








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