【掌編小説】『ハシワタシ』
放課後、校舎裏。
目の前には、3人の後輩女子が居た。
一歩前に出た子は、震える声で僕の名前を呼ぶ。
「高原先輩……」
なかなか次の言葉が出ないのか、
「ほら、リナ、言わなきゃ」と、
後ろの友達が急かす。
──これは、
──これって、
「先輩、あの……!」
ごくりと、唾を飲み込んだ。
「清田さんって、彼女いますか!?」
……きよた、って、
僕の親友の?
言い終えたリナと呼ばれる生徒は、
やりきった顔をしていた。
後ろの2人もまた、
良い笑顔でガッツポーズをしていた。
✤
青春ってこんなんか?
帰り道の河川敷。
チャリを漕ぐ僕は思い出す。
『高原ー、◯◯君ってさあ』
『これ、渡してくれないかな、△△に』
『えっ? そこに□も来るの?』
誰かと誰かを繋ぐことしかできんの? 僕は?
自分の人生ですら主役になれんの?
諦めるか。恋愛。
「部活頑張ろ……」
✤
高校生になって、
中学の頃から引き続きソフトテニス部に入った。
そこそこの腕前の僕は、そこそこ活躍して、
そこそこ男女構わずモテた。ある意味。
「高原君、ちょっと聞いてもいいかな……?」
「ああ、◇◇だったら今フリーだよ。☆☆はまだ別れてないと思うけど」
「……っ、あ、ありがと」
読みも、捌き方も上手くなった。
✤
部活終わりの6時過ぎ。
夏の長い西日を受けたテニスコートにいるのは、
僕一人になっていた。
ヒグラシの鳴く声だけが聴こえる中、
無心でネットを畳んでいる。
シャツの汗は乾き始めていたが、
肌に残るベタつきはうっとうしい。
さっさと家に帰ってシャワーを浴びたかった。
畳み終えたネットを雑に抱えて、部室に戻ろうとしたとき、
コート出入口に立っている誰かに気づいた。
スポーツウェアのままの女子。
ラケットを肩にかけ、気だるそうにフェンスにもたれていたのは、女子キャプテンの松岡だった。
「松岡? 何してんの?」
歩きながら僕は声をかけた。
「こっちのセリフだわ」
松岡の前で止まった。
「コート閉めるぞ」
「なんで高原だけ残ってんのよ」
「しゃあないだろ、みんな用事で先に帰りたいって言うんだから」
「高原が残る理由にならなくない?」
僕は松岡をコート外に促し、入り口に鍵をかける。
「持ちつ持たれつってやつだろ」
「高原が『持たれた』ことはあるの?」
閉め終えた鍵を抜いた。
「……ないかな。まだ」
松岡はその返事に、長い長いため息をついた。
そのあとに言った。
「帰ろ、正門閉められちゃう」
「いや、まあ、帰るけど」
「行くよ」
と、先に歩き出した松岡についていけなかった。
「松岡」
呼んだ。
松岡は振り返る。
眉間にしわが寄っていた。
「僕しかいないんだけど」
「言ってる意味わかんない」
「松岡は誰と帰りたいの?」
松岡は「はぁ?」という顔をした。
「高原の目には誰が見えてるの?」
少し寂しそうな声だった。
「誰って……松岡だけど」
「じゃあ、わたしが見てるのは?」
松岡の目は西日のオレンジ色が映っていた。
真剣な眼差しは、僕だけを見ていた。
僕は、呑気にも思っていた。
テニス以外で鼓動が早くなるなんて、
いつ以来なんだろう、と。
