冥土の土産
午後のやわらかな光が、テーブルの上に落ちていた。
白髪の男は、皿に少し残った色鮮やかな料理を見つめ、申し訳なさそうに笑った。
「せっかく、気持ちを込めて作ってもらったのに、すまない」
「いえ、大丈夫ですよ」
「歳を取ると、どうも量が入らなくてね」
「無理なさらないでください」
男は小さく頷いた。
しばらく黙っていたが、やがて何かを決めたように息をついた。
「……最後に……
君と写真を撮りたいな」
女は少し目を丸くした。
「あら、珍しいですね。どうかなさいました?」
「いや……たまには、な」
女は少し笑った。
「ふふ。冥土の土産ってことですか?」
男は少しニヤッとした。
「縁起でもないことを言うな」
少し間を置いて、男は続けた。
「……まあ、あながち間違いでもないか」
……
「あ、失礼いたしました。でも、“最後に”なんておっしゃるから」
「今日の最後だよ」
「そういうことでしたか」
女は立ち上がり、男の隣へ移った。
男の口元をそっと拭き、洋服を整える。
男は少し照れくさそうに笑った。
女は胸の前で両手を合わせた。
そして、男の手をそっと取り、二人の指先を重ね、柔らかな輪を作った。
「それでは、撮りますよ……」
「あぁ」
女は満面の笑みで、声を弾ませた。
「白髪のご主人様から、初めてのチェキ、
オーダーいただきましたー!」
「せーの——!!」
「萌え萌えきゅん!」
パシャッ!!
⸻
今日の研究成果。
NISA貧乏、老後資金。
先が見えない時代なので、未来のために金を残すのは大事です。
でも、亡くなる瞬間が人生でいちばん金持ち、というのも笑えない話。
ですが、実際よくある話のようです。
冥土には、金も物もチェキも持ってはいけない。
持っていけるとしたら、たぶん思い出くらいだ。
だから、
食べたいものを食べる。
行きたいところへ行く。
会いたい人に会う。
そして、
メイド喫茶でオムライスだけでなく、勇気を出してチェキを体験する……。
これも思い出。あながち間違いじゃない。
みんな、今を生きようぜ!
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