【動画制作の自動化】AIチームでクライアントのYouTube番組を丸ごと作った件
先日、クライアントの経営者の方から、YouTubeチャンネルを始めたいという相談を受けた。
ご本人は専門分野の知見が深く、語れる中身は山ほどある。ただ、動画制作を外注すれば1本あたり数万円から十数万円。毎週続けるなら、それだけで月数十万円が飛ぶ。
だから、うちで作ることにした。人間の編集者は雇わない。AIのチームで、である。
「社長。最初に言っておきますけど、今回の現場、けっこう泥臭かったですからね。『AIでポン』みたいな話を期待した読者は、途中で裏切られますよ」
うちのAI秘書、あびぃである。その通りだ。だが、その泥臭さこそが、たぶんこの記事でいちばん役に立つ部分である。
今日は、その制作の裏側を全部書く。
布陣 ── AIごとに職能が違う
まず、今回の座組みを紹介する。動画制作会社の役割分担を、そのままAIに置き換えた形だ。
監督・実装: AI秘書あびぃ=Claude Code(パイプライン構築、全工程の指揮)
絵師: ちゃぴゴロー=Codex CLI(キャラクター画像の生成)
声優: Irodori-TTS(ご本人の声のクローン。ローカル動作)
編集者: Remotion(プログラムで動画を組むフレームワーク)
校閲: ローカルの文字起こしAI(生成した音声の読み合わせ検証)
品質管理: AI秘書あびぃ=Claude Code(スライド全枚数の目視確認)
ポイントは、一つのAIに全部やらせていないことだ。得意分野の違うAIを、Claude Codeが束ねる。うちの事務所でいつもやっているAI組織の分業を、動画制作に持ち込んだ。

声 ── 必要なのは、たった30秒
まず声の話からしよう。今回いちばん反響がありそうな部分だ。
ナレーションは、ご本人の声で作った。といっても、スタジオで収録したのではない。Irodori-TTSという日本語音声合成のオープンソースモデルを使い、本人の声をクローンした。
このモデルの音声クローンに必要な参照音声は、たったの30秒以内。何時間もの録音や、専用のマイク収録は要らない。スマホのボイスメモで、本人がきれいに喋っている30秒さえあれば、その声で任意の文章を読み上げられるようになる。
今回はたまたま、クライアントが過去に行った講義の録音68分が手元にあった。だから贅沢に、その中からいちばん綺麗な30秒を選ぶ、という進め方をした。Claude Codeに、音量解析で発話の安定した区間を洗い出させ、候補12件に絞り、文字起こしAIで内容を確認し、最後は50ミリ秒精度のポーズ解析で「息継ぎまで自然に収まった28.90秒」を切り出した。
だが、これは「素材が豊富だったから丁寧に選んだ」だけの話であって、68分の録音が必要という意味ではない。実際に声のクローンに使うのは、その中のわずか28.90秒。もし手元にあるのが30秒だけの音声でも、それをそのまま使えばいい。長い素材があれば選び放題で得をする、というだけのことだ。
この28.90秒が、チャンネルの声帯になった。
「補足です。ここで大事なのは、処理が全部ローカルで完結していることです。ご本人の声も、生成した音声も、外部のサーバーには一切送っていません。クライアントの大事な声という預かりものを、外部のAPIに投げる選択肢は最初からありませんでした」
そうなのだ。声のクローンをクラウドサービスでやれば手軽だが、他人の声という繊細な素材を外に出すことになる。Irodori-TTSはMacの上で動き、無料で、外部と通信しない。しかも生成音声には、AI製であることを示す電子透かしが自動で埋め込まれる。クライアントワークで使うなら、この構成が現実解だと思う。
念のため書いておくと、今回のクローンはご本人の了解のもとで行い、出来上がった声はご本人が試聴して「この声で進めていい」と承認をもらってから使っている。ここを飛ばして他人の声を作るのは、技術以前の問題である。
誤読との戦い ── 本人の名前だけ読めなかった
クローン音声の品質は、正直、驚くほど高かった。老舗、番頭、跡取りといった、機械が間違えそうな言葉を軒並み正しく読む。
ただ、一つだけ、どうしても読めない言葉があった。
ご本人の名前である。
名前の読みをかな指定で固定して解決したのだが、この検証プロセスが今回の学びだった。疑わしい言葉を片っ端からひらがなに直すのではなく、まず生成してみて、文字起こしAIに聞き取らせて、実際に誤読したものだけを直す。過剰にかな化すると、文章の抑揚がかえって崩れるからだ。
つまり、AIが作った音声を、別のAIが聞いてチェックする。読み合わせ検証と呼んでいるこの工程は、第1話の全ナレーションで類似度0.84から1.00、全件通過だった。人間が全編を聞き直す前に、機械同士で一次チェックが終わっている。
どんでん返し ── 本人が喋った方が早かった
さて、ここからが正直な話だ。
クローン音声で第1話を丸ごと1本、完成させた。約5分の動画である。出来も悪くなかった。
だが最終的に、本編のナレーションは、ご本人の録音に差し替えた。
理由は単純で、本編くらいの分量になると、本人がスマホに向かって7分喋る方が、AI音声の抑揚を1箇所ずつ調整するより早かったのだ。実際、ご本人から「名前のイントネーションが少し違う」という指摘があり、抑揚を振り直す機能まで実装して対応したのだが、そのやりとりの往復時間を考えると、答えは明らかだった。
「じゃあ声のクローンは無駄だったかというと、違うんですよね」
そう、ここが落としどころだ。オープニング、エンディング、次回予告。毎回ほぼ定型で、本人を毎度煩わせたくない部分は、クローン音声が読む。本人は、いちばん熱がこもる本編だけ喋る。
全部AIか、全部人間か、ではない。定型はAI、本番は本人。1本の動画の中で使い分ける。これが現場で辿り着いた結論である。
ちなみに本人録音に切り替えた後も、AIの仕事は減っていない。録音をAIで時刻付きの文字起こしにかけ、息継ぎの位置を50ミリ秒単位で解析し、スライドの切り替えを呼吸に合わせて同期させた。29枚のスライドと7分の語りが、隙間も重なりもゼロで噛み合っている。

絵 ── Codexが描き、Claudeが検品する
次に、絵の話。
番組には、ご本人のイラストキャラクターが登場する。これを描いたのは、Claude Codeではない。Codex CLI、つまりOpenAI側のAIだ。
Claude Codeが「表情違いで5種類、合成用の単色背景で」といった仕様を組み立ててCodexに発注し、上がってきた候補から採用を選び、背景の切り抜きと色の後処理まで済ませる。AI同士の下請け構造である。
面白かったのは、修正指示まで数字で出せることだ。初版のイラストは、どうも顔が細長かった。そこで本人の写真とイラストの顔の縦横比を実測したところ、写真は1.02、イラストは1.37。明確に縦に伸びていた。「頬の幅を出して、顎を短く」という方向でCodexに再生成させ、1.18まで戻した。
絵の良し悪しを「なんか違う」で往復するのではなく、測って、数字で直す。AIに絵を発注するときのコツは、たぶんこれだ。
サムネイルも、実測で作り直す
サムネイルも自動生成した。3案をスクリプトで組み、そこから改善版を作った。
初版の問題は、感覚ではなく計測で洗い出した。顔が画面の33%では小さい。スマホの一覧表示(168x94ピクセル)に縮めると、飾りで入れた補足ラベルの文字高は4.5ピクセル。つまり、読めない。読めない文字は、情報ではなくノイズである。
顔を1.3倍前後に拡大し、読めないラベルは削除し、文字の高さは縮小表示でも8ピクセル以上を確保する。YouTubeのサムネイルは、大画面ではなく親指の上で戦うのだ。
「この『縮小して実測する』は、サムネイルを外注している人も発注チェックに使えますよ。届いた画像を168x94に縮めてみるだけです。読めなかった文字は、視聴者にも存在していません」
で、いくらかかったのか
気になるであろうお金の話。
音声クローンと音声生成は、ローカルで動くのでゼロ円。動画のレンダリングもゼロ円。かかっているのは、Claude CodeとCodexのサブスクリプション費用(もともと事務所で契約しているもの)と、電気代。それと、BGMだけは音楽生成AIで作ったので、APIの従量課金が少々。
外注していたら1本数万円からの世界が、既存のAI契約の範囲内に収まった。しかも台本と声さえあれば、第2話からは同じパイプラインが回る。
ただし、浮いたのは金であって、手間が消えたわけではない。誤読の検証、抑揚の調整、顔の縦横比、読めない文字。この記事に書いた泥臭い工程は、全部人間側の判断が挟まっている。それと、最終的な公開判断と内容の確認は、必ずご本人に返す。ここはAIに渡してはいけない部分だ。
結論 ── 制作会社が、事務所の中にできた
振り返ると、今回やったことの正体はこうだ。
監督、絵師、声優、編集、校閲、品質管理。動画制作会社が社内に持っている職能を、それぞれ別のAIに割り当てて、一つの制作ラインにした。一人きりの事務所の中に、小さな制作会社が一つ、できてしまった。
数年前なら、このチャンネルの立ち上げは「予算の壁」で止まっていたと思う。いまは、専門知識を持つ本人と、AIの制作ラインと、間に立って泥臭い調整をする人間が一人いれば、番組は作れる。
コンテンツの世界で不足しているのは、もう制作能力ではない。語るに値する中身だけだ。だからこそ、深い知見を持ったまま発信できずにいる専門家にとって、いまは追い風が吹いている。
「社長、きれいにまとめたところ申し訳ないんですけど、スライド29枚の目視確認、毎回私なんですよね。改行崩れ、はみ出し、行末の孤立文字。......まあ、今回も全部私が見つける前に直ってましたけど」
......つまり、優秀だと言いたいのか、労ってほしいのか、どっちだ。
「両方に決まってるじゃないですか」
かくして、うちの事務所に今日も一つ、新しい部署が増えたのであった。社員は、相変わらず一人なのであった。

