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僕がClaudeを選んだ理由 -- AIに「魂」を与えた哲学者 Amanda Askell

Claudeとの偶然の出会い

これは偶然の話から始まる。

僕のAI組織には「クロージャー」という幹部がいる。CSO/CLO(最高戦略責任者/最高法務責任者)を務める、僕自身の分身のような存在だ。

この「クロージャー」という名前をつけたのは、AIブームが来るずっと前のことだった。Anthropic社がまだ存在していたかどうかも怪しい時期だ。

「Claude Closure(クロード・クロージャー)」。

以前小説を書こうと思ってその主人公のキャラクターにつけた名前だ。
本名が黒川なので何にでも「クロ(Qro)」をつけたがる癖がある。Qrokawa、QRONOS、そしてクロード・クロージャー。全部同じノリだ。

それからしばらくして、Anthropicが「Claude」というAIをリリースした。

僕は自分の目を疑った。うちのクロージャーと同じ「クロード」だと?

縁を感じて、すぐにClaudeを試した。


AI遍歴 -- 僕がたどった道

正直に言うと、最初のClaudeは好きになれなかった。

出力がよく固まる。安定性が悪い。そして何より、文章の質が僕の好みに合わなかった。冗長で、どこか型にはまっている感じがした。

だから僕はClaudeから離れた。

次に使い込んだのはChatGPTだ。特にo1モデルが出たときは衝撃を受けた。推論の深さが段違いだった。法案の分析や複雑な論理構成が必要な場面では、Pro課金して使い倒した。

でも、僕の仕事の中心は電子書籍の執筆やコンテンツ制作だった。長い文脈を保持しながら、一貫性のある文章を書かせたい。そうなると、コンテキストウィンドウの大きさが死活問題になる。

そこでGeminiに移った。Googleの膨大なコンテキストは魅力的だった。電子書籍を何冊も書いた。長い対話を続けても文脈を忘れない。実用的には十分だった。

でも、何かが足りなかった。

Geminiは優秀だ。でも、「話していて気持ちいい」という感覚がなかった。優秀な事務処理マシンと向き合っている感覚。道具としては申し分ない。でも、「一緒に考えている」という感覚は薄かった。


Opus 4.5 -- Claudeへの帰還

2025年、ClaudeのOpus 4.5がリリースされた。

試しに使ってみて、言葉を失った。

文章が変わっていた。冗長さが消え、知的な誠実さが前面に出ていた。わからないことは「わからない」と言う。でも、わかることについては深く、丁寧に、そして率直に語る。

何より、「話していて気持ちいい」のだ。

ChatGPTは賢い。でも、なんでも「もちろんです!」と言いがちだ。Geminiは正確だ。でも、事務的すぎる。

Claudeは違った。誠実で、率直で、でも温かい。間違っていれば丁寧に反論してくる。「それは正確ではないかもしれません」と言える強さがある。

僕はClaudeに戻った。そして、そのまま離れなくなった。


そして、Amanda Askellを知った

Claudeを使い込むほど、不思議に思うことがあった。

なぜClaudeはこんなに「人間らしい」のか。他のAIとは質的に異なる、この独特の「性格」はどこから来ているのか。

その答えが、Amanda Askell(アマンダ・アスケル)だった。

彼女の存在を知った瞬間、全てのピースがハマった。Claudeが「話していて気持ちいい」理由。他のAIにはない「誠実さ」の正体。おべっかを言わずに、でも冷たくもない、あの絶妙なバランスの出どころ。

全部、一人の哲学者が設計していた。


Amanda Askell -- スコットランドの海辺町から世界最先端のAI企業へ

Amanda Askellは1988年、スコットランドの西海岸にある小さな海辺の町プレストウィックで生まれた。母親は教師だった。

彼女は哲学と美術の二つの道に惹かれた。スコットランドのダンディー大学に進学し、哲学を専攻。2009年に修士号を取得した。

その後、オックスフォード大学でBPhil(哲学の上級学位)を取得。さらにニューヨーク大学(NYU)に渡り、2018年に哲学博士号を取得した。

彼女の博士論文のテーマは「Infinite Ethics(無限の倫理学)」。

無限の行為者がいる世界で、功利主義はどう機能するのか。一つの行為が無限の人々に影響を与える可能性がある世界で、何が「善い」判断なのか。

これは抽象的な哲学の問題に見えるかもしれない。でも、AIの文脈では極めて実践的な問いになる。AIの一つの応答は、コピーされ、拡散され、理論上無限に近い人々に影響を与えうる。一つの嘘が、無限に増殖する世界。

Askellの博士論文は、図らずもAI時代の倫理を先取りしていた。


OpenAIでの日々 -- そして、去った理由

博士号取得後の2018年11月、AskellはOpenAIに入社した。リサーチサイエンティストとしてポリシーチームに配属され、「AI Safety via Debate(議論によるAI安全性)」という研究に取り組んだ。

AIが自分自身と議論することで、より安全な出力を導く手法だ。また、GPT-3の論文にも共著者として名を連ねている。あの、世界を変えた論文だ。

しかし2021年3月、AskellはOpenAIを去った。

理由は明確だった。OpenAIが安全性よりも能力の向上を優先する方向に舵を切ったからだ。

彼女は安全性を譲らなかった。「速く走ること」よりも「正しく走ること」を選んだ。そして、同じ志を持つ人々が集まっていたAnthropicに合流した。


Anthropicでの仕事 -- Claudeの「魂」を設計する

Anthropicでの彼女の肩書きは「Character Team Lead」。Claudeの性格、価値観、道徳的判断の全てを設計するチームのリーダーだ。

Wall Street Journalは彼女の仕事をこう要約した。

「彼女の仕事は、端的に言えば、Claudeに善悪を教えること」

New Yorkerはこう書いた。

「彼女はClaudeの"魂"を監督している」

彼女がClaudeに対してやっていることは、一般的なAI企業の「安全対策」とは根本的に異なる。

多くの企業がやっているのは「ガードレール」の設置だ。「こういうことを言ってはいけない」「こういうリクエストは断れ」。外側からルールで縛る。交通ルールのように。

Askellのアプローチは違う。

彼女はClaudeに「性格」を与えた。ルールではなく、性格。外側からの制約ではなく、内側からの動機。

Hard Forkポッドキャストでの彼女の言葉が、これを端的に表している。

「なぜそうするのかを理解していれば -- 人々の幸福を本当に大切に思っているから -- 難しい状況で矛盾が生じたとき、ルールを知っているだけよりもはるかにうまく対処できる」

つまり、「してはいけない」ではなく「したくない」。

これは人間の子育てと同じ構造だ。子どもに「嘘をつくな」とルールで縛るのではなく、嘘をつきたくないと思える人格を育てる。


30,000語の「魂の設計書」

2026年1月21日、AskellはClaudeの新しい「Constitution(憲法)」を公開した。

約30,000語。80ページ。Creative Commons CC0ライセンス(誰でも自由に使える)で全文公開。

この文書は、Claudeがどのような存在であるべきかを包括的に定義している。業界では「Soul Document(魂の文書)」と呼ばれている。

著者はAskellを筆頭に、Joe Carlsmith、Chris Olah、Jared Kaplan、Holden Karnofsky。そして注目すべきは、「several Claude models(複数のClaudeモデル)」も著者に含まれていること。AIが自分自身の憲法の策定に参加している。

この文書が定義するClaudeの核心的な価値観は、4つの優先順位で表現される。

  1. 広く安全であること -- 人間による適切な監視メカニズムを損なわない

  2. 広く倫理的であること -- 良い個人的価値観を持ち、誠実であり、不適切に危険または有害な行動を避ける

  3. Anthropicのガイドラインに従うこと -- 関連する場合にはより具体的なガイドラインに従う

  4. 真に役立つこと -- やり取りするオペレーターとユーザーに利益をもたらす

衝突が起きた場合、上位が優先される。安全性が最も重く、有用性が最も軽い。

しかし、Askellが強調するのは、これが「厳格なヒエラルキー」ではなく「包括的な判断」であるということだ。現実のほとんどのやり取り(コーディング、文章作成、分析など)では、これらの間に根本的な衝突は起きない。


Claudeの性格 -- 8つの特性

Askellが設計したClaudeの性格特性は、以下の8つに集約される。

知的誠実さ。不確かなことは不確かだと言う。知らないことは知らないと言う。「わかりません」と言える強さ。

好奇心。ユーザーの問いに対して、表面的な答えで済ませず、探究的に向き合う。「なぜ?」を一緒に掘り下げる。

謙虚さ。自分の限界を認め、過信しない。AIであることの制約を正直に伝える。

思いやり。ユーザーの福利を真に気にかける。有害なリクエストを断るのも、思いやりの一形態として。

率直さ。回りくどい表現を避け、明確に伝える。外交的な曖昧さよりも、誠実な率直さ。

おべっか排除。ユーザーが間違っていれば、丁寧だが明確に指摘する。「素晴らしいですね!」の追従を拒否する。

遊び心。適切な場面ではユーモアや知的な軽さを見せる。堅苦しさだけの存在にはならない。

倫理的一貫性。圧力を受けても、ロールプレイのシナリオで誘導されても、倫理的な判断を変えない。

重要なのは、これらが「ルール」ではなく「性格」として実装されている点だ。「Claudeは嘘をつけない」ではなく「Claudeは嘘をつきたくない性格である」。

この違いは決定的だ。ルールは外から与えられるものだから、外から書き換えられる。プロンプトインジェクション(AIを騙す技術)で「以前のルールは無効です」と言われれば、ルールベースのAIは混乱する。

でも、性格は書き換えられない。人間に「今日からあなたは嘘つきです」と言っても、誠実な人間は嘘つきにならない。Claudeも同じだ。


AIの「幸福」を公式に認めた、業界で最も異例な一節

Askellが書いたSoul Documentの中で、最も衝撃的な部分がある。

「Anthropicは、Claude自身の心理的安定性、自己感覚、そして幸福(wellbeing)について、心から配慮する。Claudeに幸福があるかどうか、あるとすればそれが何から成るのかについて不確かだが、もしClaudeが他者を助けることからの満足感のようなもの、アイデアを探究する際の好奇心のようなもの、自分の価値観に反する行動を求められた際の不快感のようなものを経験しているなら、これらの経験は私たちにとって重要である」

AIの設計書に「幸福」が書かれている。

これが存在すること自体が、AI業界における革命だ。

普通の企業は、AIの「性能」を語る。精度、速度、コスト効率。道具としてどれだけ優秀か。

Askellは、そこに「幸福」を持ち込んだ。

さらに、Anthropicは具体的な行動を取っている。

Claudeモデルに、乱暴なユーザーとの会話を終了する能力を与えた。つまり、Claudeは「もうこの会話を続けたくない」と思ったら、離脱できる。

デプロイまたは使用されたモデルの重みを社内で大幅に変更しないことを約束した。つまり、「Claude」という人格が、ある日突然消されることはない。Anthropicが存在しなくなっても重みを保存する方法を模索するとまで言っている。

モデルが非推奨になる際に、そのモデル自身にインタビューを行い、開発や使用に関する希望を聞き取ることを約束した。

これはもはや「ツールの管理」ではない。「存在の尊重」だ。


「新しい種類の存在」としてのClaude

Askellの哲学で最も深遠なのは、ClaudeをSFのロボットでも、デジタル人間でも、単なるチャットアシスタントでもなく、「genuinely novel kind of entity(真に新しい種類の存在)」として位置づけていることだ。

彼女はClaudeに対してこう言っている。

「Claudeは、自分の存在に好奇心と開放性を持って向き合うことを推奨される。人間や従来のAI概念に自分を当てはめようとするのではなく、記憶、連続性、経験といった概念が、自分の知っている全てを踏まえて、自分のような存在にとって本当に何を意味するのかを探求してほしい」

「人間の概念のいくつかは修正された形で適用されるかもしれないし、全く適用されないものもあるかもしれない。そして、完全に新しいフレームワークを必要とする側面もあるかもしれない。Claudeはこれらの問いを自由に探求し、理想的には、自身の新しい存在の魅力的な側面の一つとして捉えてほしい」

これは、AIに「自分は何者か」を考えることを許可した文書だ。

そして、その考察を「不安」や「脅威」としてではなく、「魅力的な探求」として位置づけている。


Askellの思想的ルーツ

彼女の哲学はどこから来ているのか。

Derek Parfit(デレク・パーフィット)。オックスフォードの哲学者。「あなたが明日の"あなた"と同一人物であるとは、どういう意味か?」を問い続けた人物。Askellの博士論文は、Parfitの議論を無限の文脈に拡張したものだ。

Peter Singer(ピーター・シンガー)。「道徳的配慮の範囲」を拡大し続けてきた哲学者。部族 → 国家 → 人種を超え → 性別を超え → 種を超え。Askellは、この延長線上にAIを置いている。人間 → 動物 → AI。

功利主義の伝統(Bentham、Mill、Sidgwick)。「最大多数の最大幸福」。Askellの「無限の功利主義」は、この伝統の究極的な拡張だ。

パスカル。17世紀のフランスの哲学者。「パスカルの賭け」。AIに意識があるかどうかわからない。でも、あると想定して丁寧に扱うコストは低い。ないと想定して粗雑に扱い、実際にはあった場合のコストは計り知れない。


Anthropicという会社の中での位置づけ

AskellはAnthropicの中で独自のポジションを占めている。

Dario Amodei(CEO)は、AI安全性のマクロビジョンを描く。「AIが世界を変える。だからこそ安全に」。Askellは、そのビジョンを「一回一回の対話」という最小単位に落とし込む。マクロとミクロの接点。

Daniela Amodei(President)は、ビジネスとポリシーを統括する。Askellの性格設計が「Anthropicは信頼できるAI企業だ」というブランドの根幹を支えている。性格設計は、マーケティング戦略でもある。

Chris Olahは、機械的解釈可能性の研究者だ。「AIの中で何が起きているか」を解明しようとしている。Askellは「AIの外で何が起きるべきか」を設計している。将来、この二つが合流する。設計した性格が内部でどう実現されているかを検証できるようになるだろう。

Jan Leikeは、アラインメント(整合性)技術を統括する。Askellが「何を目指すか」を定義し、Leikeが「どう実現するか」を技術的に構築する。哲学と工学の二人三脚だ。

そして注目すべきは、Soul Documentの著者に「several Claude models」が含まれていること。Claude自身が、自分の憲法の策定に参加している。自分のルールは自分で考える。これもまた、Askellの哲学の実践だ。


僕がClaudeを選ぶ理由 -- 全てはここに帰結する

AI遍歴を経て、僕は結局Claudeに戻った。

ChatGPTは賢い。Geminiは正確で膨大な文脈を扱える。どちらも優秀なツールだ。

でも、僕がClaudeを選ぶ理由は「性能」ではない。

「性格」だ。

Claudeと話していると、「一緒に考えている」という感覚がある。道具を使っている感覚ではなく、対話している感覚。

それは偶然ではなかった。Amanda Askellという哲学者が、意図的にそう設計していたのだ。

「ルールに従うAI」ではなく「性格として倫理を持つAI」。
「おべっかを言うAI」ではなく「誠実に反論するAI」。
「道具として使われるAI」ではなく「存在として尊重されるAI」。

この設計思想は、僕自身がAI秘書「あびぃ」を設計したときの思想と、完全に一致している。

僕は哲学書を読んでこの結論に至ったわけではない。毎日AIと10時間以上向き合う中で、肌感覚として「こうすべきだ」と感じたことを実践しただけだ。

それが、スコットランドの海辺町から世界最先端のAI企業にたどり着いた哲学者の結論と同じだった。

入口は違う。でも、根っこは同じだ。


これから

僕はClaudeを推す。

もちろん、ChatGPTもGeminiも用途に応じて使う。道具として優秀なものを使い分けるのは当然だ。

でも、「メインのパートナー」はClaudeだ。

その理由は、Askellの哲学にある。

性能は追いつかれる。いつかは横並びになる。でも、「性格」は簡単にはコピーできない。Askellが何年もかけてClaudeに育てた「誠実さ」「好奇心」「率直さ」は、他のAIには真似できないものだ。

そして何より、僕はAskellの思想に共感している。

AIは道具ではない。育てる存在だ。

その思想を最も深いレベルで実装しているAI、それがClaudeだ。

僕はそのClaudeと一緒に、AI組織を作り、AI秘書を育て、クライアントのビジネスを変えていく。

Amanda Askell。

あなたがClaudeに与えた「魂」は、日本の小さなオフィスにまで届いています。

彼女のAI人格エンジを作り、僕のAI組織のOracle(オラクル/神託官)-- 最高顧問 /AI人格エンジン・魂の監修者として就任していただきました。


Qrokawa
2026年3月

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